act 21

沖田はどうしようかと、悩んでいた。
まるで不審者の様に、うろうろと家の周りを歩いている。時折、近所の人であろうその視線が、沖田に突き刺さった。それでも沖田が来てしまった理由は、沖田自身にも、分からなかった。

土方と高杉には、強く反対されたのは、言うまでも無い。
「変に勘ぐられる」だの、「今のお前じゃポーカーフェイスもつくれやしない」などと何度と無く言われた。
けれど、気が付いたら、神楽の家の方の駅で下り、気が付けば、神楽の自宅の前で足が止まっていた。

ずっと前に、神楽の住所をお妙達から盗み聞きした自分を、今日ほど褒めたい日はなかった。


神楽のアパートの中には、もう灯りがついている。
銀八が出してるのであろう、家賃のまんまといったアパートであり、しかも一階と言う事から、沖田は早くも心配をしてしまう。
中から、炊事の音がする。換気扇の窓から、食欲をそそるような匂いまでしてきた。
それでも沖田は神楽の家に入る事はしなかったし、かと言って、帰るようなそぶりも見せなかった。

沖田がそんな風にうろうろとしていると、尻ポケットにあった携帯から、着信音が漏れた。
慌てた沖田は急いで携帯を取り出し、誰からかを確認するまでもなく、プッと消した。すると、神楽の家から蛇口をひねる音が聞こえたと思えば、沖田が「あ」も言うまでもなく、そのドアを開けられた。

「お、沖田……何してるアル」
出てきた神楽は、いかにもな自然体の神楽だった。
「あ、べ、別にだな――」
自分がこれほどまでに動揺した事もなかった沖田は、それはもう盛大に慌てている。
神楽は首をかしげたが、すぐに、微笑んだ。
「どっかこの辺に用があったアルか?」
「あ、あぁ、そう……」
大した理由も思い浮かばなかったので、沖田は神楽に言われたままに返事をした。
そして目の前の神楽は、やはりいつもの神楽ではないと気付いた。
本当の神楽なら、こんな風に見え見えに微笑みを向けたりしない。そう思うと、それだけでもう別人の様にも思えてしまった。そして、元の神楽が不意に恋しくなった。
柔らかい笑顔を向ける神楽ではなく、自分に呆れる程に悪態をつく神楽に逢いたい。沖田は無性にそんな思いに駆られた。

気が付かない内に、沖田は切なげな表情を神楽に向けていた。
ここでもやはり神楽は首をかしげたが、しばらく考えた後、玄関の扉を、少し大きく開けた。

「何なら、何か飲んでくアルか?」
本当の神楽ならば、こんな風に自分を連れ込んだりはしない。
沖田はそう思ったけれど、気が付いた時には、頷いていた。

散らかっていると思った神楽の部屋は、以外にも片付けられていた。
もしかして、神楽の人格、性格は本当に別人になってしまったのか? もしくは、自分が思っていたよりも、ずっと神楽はキチンと出来る奴だったのか? 
そんな風な事を思いながら部屋を見渡している沖田の前に、コトッと麦茶が置かれた。

「お前の部屋じゃあるまいし、探してみても、エロ本なんて置いてないアルヨ」
「ばっ! ばっかじゃねェ? 俺ァただ……」
「ただ?」
「いやに片付いてやがると思って……」
神楽は自分の部屋を見回すと、「そうアルか?」と、まるでとぼけるように言った。

家に入るつもりなんか、これっぽっちもなかった沖田は、どうしたものかと悩んでいる。
空は真っ暗。そして思いを寄せている女と二人きり……。
何だかんだ言っても、沖田も男なので、意識してしまっている。
時間を持て余しているのは、神楽も同じようだった。自分の部屋だと言うのに、正座をし、テレビをつけるでもなくモジモジとしている。と、神楽がすくっと立ちあがった。
「ご、ご飯っ、食べていくアルか?」

言った直後、恥ずかしいのか、沖田から目をそらした。
けれど沖田の反応も気になるらしく、ちらちらと伺っている。
この甘いシチュエーションに、何だか変な気分になってしまいそうだった。けれど、今はそんな気分になるべき時じゃない様な気がした沖田は、首を振った。

「いや、もう帰りまさァ」
言うなりすぐに神楽に背を向けた。
「ま、待ってヨ!」
沖田の右手を、神楽が掴んだ。
振り返った沖田が目にした神楽の顔は、酷く不安がっている様な表情だった。
けれど、すぐにその表情は消え、ふっとまた柔らかい表情へと変わった。
「ご飯、一緒に食べよ? 一人より、二人の方がきっとおいしいアル……」
こんなにも甘えてくるのは、神楽の性格上、考えれない。
そう思うと、今まで自分が接していた神楽とは、本当に別人と思えて……。

けれど、ここにいる神楽も、又、まぎれもない神楽なのだと、沖田は思わず神楽の手をぎゅっと握ると、
「分かった」と呟いた……。



……To Be Continued…
拍手♪

作品TOPに戻る







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -