act 30
沖田の掌に、やんわりと繋がれながらも、その場所へといくと、神楽はわっと息を飲みこんだ。
それはまだ高校生の神楽が見ても分かる、自分たちには手が届かない様な一品だと。
「うわぁ……綺麗アルな」
女心をくすぐる様で、でも上品で。
朱色を軸としたその振袖は、神楽の心を魅了する。
それに心奪われる神楽の肩に、トントンと、沖田の手がのった。
「あれ、見てみろよ」
なんだろう? 沖田の言葉に神楽は促されるまま、指差す方を見てみた。
「わ、何あれ! 凄く綺麗アル」
神楽がそう言うのも納得できた。なぜなら、その視線の先には、目の前にある振袖には到底かなわないものの、彼女の心を掴むには十分と言える振袖を着ている女性が居たのだ。
おまけにメイクまでその顔には施されていて、とても綺麗だった。
さらに沖田の手は、神楽の肩を、もう一度叩いた。
彼の指差す方へと視線をやると、どうやら、今日はその店で、先ほどの女性のように、店内にある衣装を、着ることができるらしい。
「あっ……沖田どこに行くアル?」
自分を置いてきぼりにして、沖田の背は、店内へと入っていく。
その後を、神楽はついていく。まもなく見えたのは、女性店員の背中。それを見つけた沖田は、神楽をさしだした。
キョトンと見る店員に、神楽はあわてた。
「わわっ……。ごめんなさいアル」
助けを求めようと後ろを振り返ってみたけれど、そこには既に沖田の姿はなく。
彼の目は、数多くあるその中から、神楽に似合うものをと探していて。
女性店員は、神楽をみると、ふわりと笑った。
「可愛らしい、お客様ね」
そう言った表情は、少しミツバに似ている。
その後、店員は、沖田の方へと視線をうつした。そして、再び神楽の方へと視線を戻した。
「あなたに、ぴったりの物があるのよ。今日入った新作なの」
試してみて?
そう彼女は、神楽の前にと手をさしだした。
さっき、自分の視界の中へと入った女性の姿が浮かぶ。
あんな風に、自分も綺麗になれるだろうか?
思わず神楽はそんな事を思ってしまった。沖田の方をみてみたけれど、彼はまだまだそこに夢中らしく。
その柔らかな手は、まるで神楽に魔法をかけてくれる。そんな予感がした。
ゆっくりと、でも、しっかりと、神楽の手は、その手に重なった。
ほんの小さなショップの中での出来事。
でも、それは、神楽の中で、忘れられない出来事となる。
「さあ、こちらへどうぞ」
……To Be Continued…
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