act 19


パチパチとキーボードを叩く音が、ピタリと止んだ。
教室のカーテンを全て閉め切ってる所為もあって、電気をつけても教室の中は薄暗かった。
何台もおいてあるPCの、一番奥の奥。向こう側には壁しかない。
キーボードの横には、ぐちゃぐちゃの紙の上に書かれた、わけの分からないサイトのURL。
四人は息をのんだ。この時間だと、下手をすりゃ教師がやってくるかもしれない。
けれど待てきれなかった。誰の家がここから一番早いか、何て。
沖田達を、そこまで駆り立てたのは、あの女の子の状態。声、言葉……。全てだった。

「いいのか? 総悟。何が出てきても。後悔しねーな?」
土方の言葉に、沖田は、つぅっと額から冷や汗を流した。心臓の音だって、珍しく乱れまくっている。
一時の間を置いた後、沖田は言葉を発する事なく、顎で合図する事で、土方の言葉に同意した。
沖田の後ろで画面を同じように覗く近藤の手が、沖田の肩にのった。瞬間、強い力で肩をつぶされそうになった。
それさえも、どうでもいいと、沖田は画面にと見入った。
そんな沖田の脳裏に、叫ぶ彼女の忠告が、頭の中をぐちゃぐちゃと駆け回った……。

...........

「神楽先輩は悪くないんですっ……絶対に悪くないんですぅっっ」
嗚咽を押し殺しながら言う少女の手の中に握り締められているのは、一枚の紙。
その紙に沖田が視線をやると、震える手で少女は沖田の前にと、手を差し出した。その握り締めた中には、何か、全ての答えがあるような気がした。沖田は少女の手をやんわりと剥がす。
だが、少女の手は一向に開かない。少女自身がこの土壇場でその紙を渡してしまう事を強く拒絶しながら、神楽は悪くないと言い続けだしたのだ。
「あいつは悪くねェ。何にも悪くねェ」
沖田は震える声で少女に居言った。
声が震えていたのは、自分と、相手と、神楽の周り全ての者に吐き気がしたからだった。
気付けなかった自分。少女の口から出た痴漢行為の男。まだ、まだなぞが多すぎた。

「神楽先輩……っ……電車下りたら、いつもすぐにトイレの中へと走っていってました。わたっ……私見ちゃって……でもどうする事も出来なかった。分かってたのに、気付いたのに、気付いた後も、沖田さんに言う勇気がなくて……。だって、そんな事、普通なら言えれないっ。だから助けてあげられなかった。それからも、何も出来ないのに、私ずっと神楽先輩のこと、心配でずっと見てるだけで……。そしたらある日、その近くに居た男が、この紙を落としていっちゃって……。私見た時、信じられなくて……、だってあんな行為、警察に言わなきゃって……。でも沖田さん達に言ったほうがってっ……」

少女の手の中で、ぐしゃりと紙は握りつぶされそうになった。
「嫌いにならないで……神楽先輩を嫌いにィッ……。私、何で神楽先輩があんなちゃったって、ずっとずっと考えてたんです!……だって神楽先輩ですよ? おかしいじゃないですか……」
その疑問は、この少女に痴漢と言う言葉を聞いた時に、そして、一番最初に、まさかと考え、消した答えだった。

神楽なら、そんな男なんて、軽くひとひねりだろう?

まもなく少女の口から出てくるのが、、そもそも自分を間違いに導いた、たった一つの答えの様なきがした。
少女は、沖田に自分が知っている全てを伝えようと、思い出し泣いては、また頬を拭いながら力強い瞳の色を見せた。

「多分、神楽先輩があんな事になったのって、そもそも弱みを握られた理由って、……神楽先輩が、女の子だったからだと思います。このサイトの中に居る神楽先輩は、最初の日から、ずっとずっと、弱みを握られてたんだと思うんですっ。多分、神楽先輩、知られたくなかったんじゃないでしょうか……?」
こんな事を、他人である自分から言ってもいいのだろうか、しかも、今から口にしようとしている事は、全部自分の憶測でしかないのに。しかし少女は決心した様にグッと、生唾を飲み込んだ。
「好きな人に……沖田先輩には、自分のあんな姿、見られたくなかったんじゃないでしょうか?! だから我慢して、忘れたいって……。なのに、たったそれだけの神楽先輩の思いが、逆にっ! 逆にっっ」

あまりに力が入り、少女は、その華奢な体で沖田にすがる様に、言葉を発し、そして激しく消耗した体力に、言葉を失っていた。

沖田は、無表情だった。そしてもう一度、少女の手を取り、その手を開こうとした。
すると、今度はするりと少女の手が開いた。
ぼったりと泣き腫れたその瞳で、虚ろに沖田を見上げる。
「神楽先輩……。ちゃんと帰ってくるかな? ちゃんと連れて帰ってくれますか……? 沖田先輩……」
沖田は無言でうなづいた。
沖田に紙きれを渡すと、少女は、沖田の横をするりと抜けた。まるで自分の役目は終わったかの様に。
近藤が送っていくといったが、少女は近藤や沖田に背をむけたまま、首をゆっくりとふった。
「あたしは、大丈夫。神楽先輩を助けてあげて……きっと何処かで泣いてるんです。泣いてる神楽先輩と、全部全部から逃げ出したくて幸せな感情だけの神楽先輩と、きっときっと……あぁ、する事でしか、どうにもならなかった神楽先輩が……。早く神楽先輩を、暗い場所から、迎えに行って連れ戻してあげてください……」
言うと、またふらふらと少女は歩き出した。
真っ暗で、何も見えなくなったその景色の中に、あっという間に溶け込んで……。


.............

まるで――――声を出す。そんな簡単な動作を忘れてしまったかの様だった。
男の瞳孔は、どれも皆開ききり、言葉を出すためにあけられたその半開きな口は、その半開きのままで、固まった。


「助けて……助けてぇ……」
唸るような、絞り出すような、それでいて儚く、途切れ途切れで……それでも誰か気付いて欲しいかの様に、気付かないで欲しいかのように、出されるのは、間違いなく、神楽の声……。
しかし神楽の声とは裏腹に、悲しいほど、その画面に映った下着の中で動く指からは、その『声』よりも、大きく、そして淫らな音を、延々と鳴らし続けていた。
そしてその指が、神楽の下着の中で暴れまわるたび、泣き声にも似た声の中、明らかに官能を含んだ声が混ざっていた。
荒く、それでいて、教室での神楽からは想像できる事のない、『女』の声……。

最初に神楽を痴漢行為した日から始まって、一日飛ばして、また、再び……。
そのたった一日の日付が、自分が守る様に、神楽を座らせたあの日だった事を沖田は知り、愕然とした。
その後から、今日の朝まで、まるで実験台の様に、サイトにかかれてある媚薬の量と、神楽の感じ、そして、そのつどの映像。男達は、吐き気をもよおした。

「腐ってやがる……」
土方がしぼりだす様に言葉を吐き捨てた。
沖田の手は、怒りで震えている。それを押さえるので精一杯と言う面持ちをしていた。
すると、高杉が、いきなりボリュームをぐぐっとあげた。
いつ教師がくるやもしれない教室に、神楽のその内側から出る淫らな音が響く。
刹那、沖田が高杉の首元を、本気でねじ上げた。
「殺されてぇのか? あァ?!」
力加減一切なし、土方が、急いでボリュームをさげようとする。高杉の瞳には、ふざけた色は、ひとつとない。
「待て」
教室に、神楽の女の部分からでた喘ぎ声、そして指に、絡みつくその音が響くなか、近藤が言った。
そして、神楽の声に、聞き入った。
すると、喘ぐ声の合間、其処に神楽が戻ったかの様に、小さな、ほんの小さな声で、何か言葉を繰り返し、発していた。

「――た。――きたァ……。助けて――――。おきたたすけて……」


……To Be Continued…
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