act 18

薄暗い電気の下、愕然と座りこんでいる沖田達の姿があった。
あるものは頭をかかえ、ある物はその瞳を隠し、ある物は掌で顔を覆っている。
途中、教室の鍵をしめようと、教師がきたが、その部屋の中の威圧感に、たった一言さへも発する事が出来ず、背を向けた。

「どうすりゃいい――」
沖田の搾り出す様な声が静寂をやぶった。
もっと、ちゃんと見てやったら良かった。どう見てもおかしいのは明らかだったのに……。
何度言葉を繰り返しても、どうにもならなかった。
今も神楽は、悪夢の中に閉じ込められたままでいる。
「方法がねぇ訳じゃない」
高杉の発した言葉に、全員が顔をあげてそちらへと視線をやった。
一度、高杉は言葉を出すのを躊躇った。そしておもむろに沖田の方へと視線をやる。
しかしすぐにその視線をそらすと、そらしたままで口を開いた。

「あいつを囮に使う」
刹那、沖田の拳が高杉に飛んできた。
そして高杉はそれをもろに食らった。本当は、見切れていたのにも関わらず、その拳を受け止めた。
唇の端が切れたかと思えば、じわっと鉄臭い味が舌の上に伝った。

「正気かよ、テメー……」
沖田の声は震えている。高杉を見下ろすその瞳は深紅の色を放ち、それでいて、とてつもなく、荒々しい。
「あァ、本気だ」
直後、またすぐに殴られる。しかも一発じゃおさまらないとでも言うように、
右に、左にと手を変え、高杉の頬へと落としていく。その沖田を後ろから土方は羽交い絞めにした。
「オイ、止めろっ、総悟」
「いーや、ヤメねぇ。ぶっ殺す」
言葉こそ穏やかだが、それが逆に恐かった。必死で沖田をとめる土方から、今にも抜け出しそうな沖田。
そしてその土方に手を貸すように近藤までもが、止めにはいった。
「総悟。落ち着け。きっとコイツにも何か考えがあるんだろうっ!」
「どんな考えがあろうと、二度とあいつに、あんな目を合わせるつもりはねぇ。それをコイツは何にも分かっちゃいねーんでィ!」

沖田の下で、高杉はククっと笑った。
「だったら……どうすりゃいいか、テメーが教えてくれよ。あいつに何て言うつもりだァ? 全部知っちまった。これからは俺が助けてやるとでも言うつもりか? クッ……笑わせやがる。そんな事してみろ。今度こそアイツは壊れちまわァ」
沖田が言葉に詰まったのは、高杉の言った言葉に、くやしいが、反論できなかった所為だった。
誰よりも、神楽の事を守ってやりたいのに、守ってやれない。
たった一つある方法は、高杉が言った通りに神楽を囮にして、そいつを捕まえる事……。

「他に……方法はっ」
高杉に、助けを求める自分が悔しかったけれど、そんなプライドを粉々に砕いても神楽を助けたいと思う自分がここには居る。
高杉は静かに首を振った。
「無い。チャイナを助ける一番の近道は、これしかない。何のために、今まであいつが堪えて来たのかを、最優先に考えてやれ。どいつが犯人か分かった時点でお前がチャイナの前に出れば、嫌でもお前の存在がチャイナに知られてしまう。知られない様にするには、お前が電車に乗っている事はチャイナには知らせず、かつ、その行為が終り、あいつが電車から降りるまで堪えるしか、方法がねぇ」

助けてやりたいと思っているのに、まだあんな行為を神楽に堪えささなければならない。
沖田は震えた。どうしようもない怒りに。
神楽にとっては、痴漢にあう事よりも、沖田に知られる方が嫌だった。
だからこそ、こんな事になっている。
本当を言えば、そんなの無視して、今から神楽の所にいき、高杉の言った通り、もう大丈夫だと、俺が守ってやる。そう強く抱き締めてやりたかった。
けれどその後、誰よりも知られたくなかった沖田に知られた神楽はどうなる? もしかしたら、悪夢の中に居る神楽が、今度こそ、戻ってこないかもしれない。
現実を拒否したくて、本当の本当に、壊れたままになるかもしれない。

堪らず沖田はぐっと目を閉じた。

「オメーが無理なら、俺が代わりに捕まえてやる。何が何でも、捕まえて、オメーの元に引きずりだしてやるが――」
電車の中に、何人もが乗るのは無理だった。
只でさえ、目を引く人物が、ぞろぞろと乗っていては、神楽に気付かれかねない。
たった一人、一人で、神楽のその場面を目撃し、かつ、神楽が降りたのを確認し、その男を捕まえなければいけない。
確かに高杉でも十分できた。土方でも出来た。近藤でも出来る。けれど、沖田は首を振った。

「いや……俺が……俺が捕まえまさァ――」
唇を噛み締めた所為で、沖田の唇から、プツっと血が飛び散った。
悔しくて、苦しくて、どうしようもなくイライラとして、この震える衝動を、何処にもってたらいいのか、分からず、沖田はまだ見ぬその男に、怒りをぶつけ、そして憎しみを増幅させていった……。



……To Be Continued…
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