「一体ェ新年からオメーは何を願ったんでィ。」
「ぇえ!?そそそんな事言ったら叶わなくなっちゃアル。」
「なんでェ。姫始めなら今日だってやってやるぜ?」
「ばばばか言わないでほしいアル!違うアル。」
「だったら何をお願いしたってんでィ。」
「それは…。」
「それは…?」





「兄ちゃんと姫始めする…でしょ?神楽。」

「うわぁぁぁああ!!!」






―――元旦―――


遅刻魔である神楽が、6時に起床する奇跡を起し、まだ夢の中で、心地よい初夢を見てるであろうクソ兄貴こと神威を起さないように、そっと家を抜け出し、クラスメイトで親友でもあるお妙の家に行き、古いながらも上等な代物である振袖を腕にとおし、ついでに結ってもらった髪の毛を…。しっとりと頬に色をつけ、しとしとと降り積もる雪に、よく映えるよう、口元には色を…。

そうする事8時、待ち合わせである神社の前に神楽が着いた時には、既に待ち合わせ相手の沖田 総悟は着き、イライラとその表情に皺を刻んでいた。

その理由のひとつは、絶え間なくかけられる女からの声だった。
大抵の女は沖田がひと睨みきかすとすごすごと消えていったが、中には中々根性の座っている女も居たりして、待たされる事に拍車をかけた様にそのイライラを、まるで目の前でしとしとと降り積もる雪の様に積もらしていた。

しかし、そんな沖田も、やっと来た神楽の姿を確認するなり、思わず唖然とさせた。

雪に映える真っ赤な着物に散りばめられた儚い花の数々…。
いつも持ち合わせているトレードマークの傘ではなく、特別に貸して貰った真っ白で上品な傘の中に隠れているのは、教室の中で猛獣の如く暴れまわる彼女ではなく、ちゃんと女の子としての初めて見る神楽と言う彼女だった。

神楽が沖田の前に立った後、しばしの沈黙が流れた…。

しとしとと雪は神楽の真っ白い傘に降っては透明に溶けた。

沈黙を裂いたきっかけは、参拝に訪れたどうでもいい男たちが神楽を振り返るなり影で囁く声に沖田が嫉妬したのがきっかけだった。強引に神楽の手を沖田は引くと、行くぞ、とつらなる参拝客の列の中へと入った。
ちらちらと交わる視線…。再び沈黙が訪れたが、先ほど繋がれた手は離れる事はなく、じんわりと雪の中暖かさを互いに伝えた。

二度目のきっかけは、連なる列の後ろの方に、神楽が押され、慣れない草履の所為で倒れそうになり、それを沖田が思わず引き抱き締めたの事だった。テンパった様に神楽は沖田から離れようとしたが、それを沖田が止める様にぎゅっとその手に力を込めた。
もともと色づかせていた頬が、更に色を帯びた。恥ずかしさを隠す様に下唇を噛み、前髪をいじいじと遊ばせた。



「も、もう大丈夫アル…。離してもいい―――。」
「離したら又オメー同じ事繰り返すだろうが。」
「あ、あれは私の所為じゃないアル…。」
包まれている体から急激に上がった心拍が伝わりそうだと緊張したのは神楽だけではない。俯く顔と、そっぽを向く顔…。見られなくて良かったと密かに安心するのは、どちらもだった。

少しずつ、少しずつ進む参拝客の列。前を見ても、後ろを見ても、自分達と同じように寄り添う様な影が見える。だから普段ツンデレである神楽が甘える様に沖田に身を寄せても、せっかく彼氏と彼女と言う称号を手に入れた沖田がこれまでの自分達の形から中々抜け出せず、やきもきしていたが、これ見よがしに神楽に触れても、誰の目にも不自然には映らなかった。

「お、沖田って、実は体温が高いネ。」
「そうか?俺はオメーの方が高けーと思うぜ。」
「そ、そうアルカ?」

はっきし言ってどうでもいい会話が、先ほどから延々途切れ途切れに続いている。態度であらわす事に成功したが、まだ口で中々あらわす事はできなかった。

そんな中、着実に、着実に前に、前にと進んで行き、たいした会話もないままとうとう自分達の番になってしまった。沖田は財布の中から神楽の分まで賽銭を取ると、二人同時に投げいれ、手を合わせた…。


.......



「何で此処にお前が居るアルカ!」
参拝の列から離れた場所で、神楽の口はわなわなと震えている。そのまん前で勝ち誇った様に、バカ兄貴こと、神威がニコニコと笑っている。そしてその斜め前、神楽の隣では沖田が冷めた目で神威を見ている。
しとしとと降りしきる雪、思わずブリザードが吹雪いた気がした神楽だったが、一度深呼吸してもう一度同じ台詞を繰り返すと、飄々と神威は口を開いた。

「何でって…。起きたら神楽居ないし、部屋の机の上にあった手帳に此処に8時って赤丸で囲んであるの見つけたんだよ。」
相変わらずその表情は変わらない。一方神楽の方は変化しつつあった。今更だが、なんで机の上に手帳を置きっぱなしにしてしまったのかと、激しく後悔をしていた。そして先ほど神威に向けていた冷めた視線を、今度は神楽の方へと向けたのは沖田だ。
「い、妹の部屋に無断で入るなんて最低アル!」
神楽は言いながらビシっと神威に向けて人差し指を向けた。
「最低って言われてもなァ。神楽だっていつも兄ちゃんの部屋に勝手に入って、勝手に漫画読みふけってそのまま寝てるじゃない?それはいいの?ってか、アハハ。隣の彼氏の顔しゃれになってないよ?」
ニコニコと笑う神威とは裏腹に神楽の顔はおおいに引きつりまくった。確かに隣の沖田の周りの雪が思わず溶けてしまっていたからだ。
「そ、そんな事ないアル!漫画なんて、ぜんぜん!ぜんぜんッ――そりゃ読んでるけどッ!たたた確かに寝ちゃった事もあるけど―――。」
「アハハ。神楽墓穴ほりまくってて面白いね。隣の…沖田君だっけ?そのオーラ、洒落になってないよ?」
「ちょッ!神威もういいから帰るアル!」
神楽は神威の体をぐいぐいと押した。が、軽くその手を掴んだ神威は逆に引いた。着物を着ている神楽は簡単に足を取られ神威の腕の中に入った。しかしそれを許すはずもない沖田が、すぐさま強引に引いた。しかしそれを更に許さないとでも言う様に神威は神楽の肩に腕を回しそれをとめた。

「僕さ、一度君とちゃんと話してみたかったんだよね。」
「あぁ。俺も一度ちゃんと話してみたかったんでさァ。いい加減妹離れしろよクソ兄貴ってな。」
ほんの一瞬だけ、神威の繭が動いたのを神楽は見逃さなかった。一瞬にして神楽の顔は真っ青になった。
こうなる事を恐れて沖田にもなるべく神威の話を出さなかったし、付き合ってると知られているにも関わらず、兄である神威にも、話題を出さないようにするのは勿論、沖田との行動も見つからない様にしていたのに…。沖田が喧嘩無敗な事も知ってるし、神威が此処らへんを占めるめている事も神楽は勿論知っている。だが、神楽にはそんな事はどうでも良かったのだ。この世で大好きで大好きで堪らなくなった沖田と、喧嘩はしつつも、一番可愛がってくれる兄である神威に喧嘩をしてほしくなかっただけだったから…。

強い分、双方に怪我が付きまとう…。それが嫌だったのだ…。
どちらも大切だからこそ―――。


「か、神威…。ね、後はゆっくり家で話そ?だから今はとりあえず帰るアル。」
「今から神楽が帰ってくるなら一緒に帰ってあげてもいいよ?」
ニコニコと言う神威の首元を沖田がねじ上げた。
「一緒に帰るわけねーだろ。帰るのはオメー一人でィ。こいつは帰さねー。」
「何?神楽賭けて僕とやってみる?」
神威の瞳が獲物を捕らえた様に変化した。途端神楽は慌て首をぶんぶん振り、神威の喉元にある沖田の手に、手をかけた。が、その手は外れない。

「ね!止めてよ、二人とも!」

神楽は見上げ、沖田と神威を交互に見る。神威は戦闘態勢に入ってるのがアリアリと伝わってくるし、沖田の顔も、いつもの飄々としている顔つきではなかった。一生懸命手を退かそうとしても沖田の手は退く気配はない。対する神威は、何だかんだ言って、いつも自分の言う事を聞いてくれていたが、その気配は今は微塵も感じられなかった。両手で沖田の手に縋るようにしていた神楽の体が、小刻みに震えた。思わず二人はそれぞれの視線から神楽へと移した。背中が震えたと思ったら、次にはしゃくりあげていた。此処にきてようやく沖田の手が緩み、神楽の手を取った。

「ふ、二人とも…大事なんだヨ。え、選べないアル…ヒック…。何で喧嘩するの?喧嘩なんて…ヒック…してほしくないアル…。」
艶やかな着物が、神楽を余計儚く見せた。お妙から貸して貰った白い傘はとうの昔にコンクリートの上に転がっている。先ほどまで神威の傘の中にすっぽりと隠れていたが、その傘も転がり、神威の頭の上にも、沖田の髪の上にも、沖田の為にと可愛く結われた神楽の髪の上にも、真っ白い雪が付いては消え、ついては消えと濡らした。
神楽の顔は相変わらず俯いている。沖田がいつもの表情に戻ると、優しく神楽の顔をあげようとこころみた。けれどその手を神楽は叩き落とした。次は神威の番である。同じように神楽の頭の上の雪を払い、顔に手をかけた。けれどやっぱり振り払われた。鼻をすする音だけが二人に聞こえる。

当然こんな事をしてれば、周囲の目にも映る。我に返った二人だが、こんな目で見られるのは、非常に思わしくない。だからと言って、可愛い彼女、妹をむりやり移動させるわけにもいかない。原因が自分達なのだから…。

本当言ってしまえば、特にといって神威が沖田を認めていないわけではなかった。多かれ少なかれ、沖田の情報は入ってくる。もっと言えば、神楽と沖田が付き合い始めて神楽が言う前には気付いていた。と言うか情報が入ってきていた。女を食う専門の沖田だと聞き、当初とりあえず殺しておこうとぶっそうな事を考えたが、以外に以外。かの有名な沖田総悟は、自分の妹をタカラモノの様に扱っていると耳に入ってきていた。

そして沖田の方も、たまに神楽の口から出てくる神威が、そこら辺を占めている、おっかない奴だと聞いていたが、まさか兄貴だと分かり正直驚きと通り越して引いてしまった。しかし神楽の口から出てくる神威はただの妹バカとしかいい様がなかった。しかしその表情から汲み取れるのは、お互いに大事だと思ってると言う事。

認めていない訳じゃない。
ただ…ただ単に…彼氏(兄貴)に嫉妬していただけ…。結局は一番は自分であって欲しいと…。

けれど、選べないと彼女(妹)が泣くなら…。

「オイ。いいから顔あげろィ。」
「殺しちゃうなんてもう言わないよ。」

鼻をすする音が小さくなる。神楽の耳に入ってくる声が、優しい音だと、ちゃんと気付いている。けれどまだ顔をあげない。思わず神威と沖田は顔を見合し、少々強引だが、二人同時に神楽の顔に手をかけた。
「か・お・を…あげろ〜〜。」
ぐしっ、ぐしっと、沖田の声と共にあげられた神楽の顔。
思わず二人してぷっと吹いた。

丹念に、丹念に重ね塗りしたマスカラが、目元をぐちゃぐちゃに、擦った所為でそれは頬まで到達し、結果、可愛く仕上がっていた神楽の顔はパンダの目もとよりぶさいくにぐちゃぐちゃに仕上がっていた。
まだ名残で落ちてくる涙は更にマスカラを含み、頬を黒く染めた。思わず起った周囲の笑い声…。こんなはずじゃなかったと神楽は更に泣きそうになっている。途端、その声がわっと別の驚きの声に変わった。
沖田が神楽の体をぎゅうと抱き締めたのだ。神楽の髪にちゅっと唇を鳴らすと、可愛い奴、と笑みも漏らした。

「こいつは俺が守る。絶対ェ守る。」
笑みから一変、沖田は神威の方真剣に見ながら、真剣に言葉を出した。
「別に僕、反対なんて言ってないけど。」
さらりと神威がだした言葉は、ぐちゃぐちゃ顔の神楽の瞳を一回り大きくさせた。神威の顔は元のポーカーフェイスに戻っている。
「いいじゃない・面白いオモチャ見つけたし。」
そういうと、神威はクルリと二人に背を向けた。沖田はそりゃ俺の事ですかィ、とガルルと神楽を抱き締めたまま牙をいた。神楽はしばらく放心状態だった。絶対に反対され続けられると思っていた神威が、あっさりと許してくれたのだ。じわじわと実感する感情にぐちゃぐちゃ顔は笑みを見せた。

そして沖田も又、神威の言葉に、照れ隠しや、色んな感情が入り混じっているのを、ちゃんと確認していた。

「とりあえず…。まずはその顔を落さなきゃだよな。」
沖田はにやにやしながら面白そうに神楽を見た。
「誰の所為でこんな顔になったと思ってるネ。」
「だから俺が責任とってやるって。」
神楽の顔は、真っ黒な場所から、所どころ、赤く色を見せる。
「せ、責任って…。」

「あぁ。心配すんな。ちゃんと落とせる場所に連れてってやる。」
「へ…。落とせる場所…?」
「二時間休憩な。」
わなわなと神楽が震える。
その直後、神楽とお揃いの模様が、沖田の左目周りにつけられたのは、言うまでもない。





........

降りしきる雪の中、白い傘の中に顔を隠す様に歩く少女が一人…。その後、数歩送れて歩く少年一人…。

「なァ。」
「… … …。」
「呼んでんでェ。返事くれーしてくれてもいいだろうよ。」
「お前みたいな変態とは今日かぎりでバイバイアル。楽しいひと時をありがとうアル。ではサヨウナラ。」
「待て待て待て待て。ちょっとしたお茶目だ。そんくれー彼女なら察しろ。」
「ちっとも笑えない茶目っ気なんていらないアル。やっぱりサヨウナラ。」

「かぐら。」

ピタリと止まった足跡。
もう一度、言葉が雪に溶ける。

「神楽。」
「な、何ヨ。」
「願いごと。」
「ハッ!?願い事?」

「何てお願いしたんでェ。」
「だ、だから、言ったら神様にお願いが届かないアル。」
「なんなら…。叶えれるものなら、その願い、俺が叶えてやってもいいけど…。」
「ば、バカじゃないアルカ…。」
「―――俺には、叶えられねー願いなのかよ。」

「〜〜〜。も、もう叶えてしまったアル!」
止まった足が、もう一度歩きだした。とても急ぎ足で…。しかし簡単にその腕を掴まれ止められてしまった。
「―――えー…と。もう叶えてしまったって…。」
「何度も言わせるな!」
恥ずかしさのあまり神楽はバタバタと暴れる。しかし沖田の手の力は緩まない。それどころか、意味が分かったと、沖田まで少々頬が赤くなる。それを隠そうと顔を覆った。この隙にと神楽は逃げ出そうとした。その体を後ろから沖田は引くと、抱き締めたままその赤くなった耳み口をつき囁いた。

「俺の願いも神様じゃなくてオメーにしか叶えられねー願いなんだけど。叶えちゃくれませんかねィ。」
「な、ななななな!」
間抜けな顔、ムードも何もない。なのに唇から伝わる温度は雪を簡単に溶かし、甘く甘く喉の奥へと流しこんだ…。



fin☆

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