act 23


教室に戻った寧々と雅だったが、当然其処には隼人と蒼の姿はない。
落ちつかない雅は、ずっと机をコツコツと、人差し指で鳴らしている。
教室内は、もうすぐホームルームがはじまる時間だったため、落ち着きを取り戻している。

寧々は、お気に入りの本を開いては、ちらりと教室のドアの方を見る動作を繰り返している。

雅だって、寧々だって、気になって仕方ないのだ。
けれど、雅の性格上、黙って待っているなどと言う事は、はっきりと言って苦手な分野であり、今にも立ちあがり職員室まで駆けていきそうだった。

しかしそうしなかったのは、自分が心配している事を、隼人に見透かされ、さらにからかわれるのが癪だったからだった。
けれどそんな思いも、やはり正直な感情には勝てないらしい。

雅は、勢いよく席を立った。

あまりの音に、皆の視線が雅に集中した。
その視線の中には、寧々のも入っている。
雅は、寧々の方を振り返ると、口を開いた。

「わ、私……やっぱり気になるからっ……」
「私も行きます」
雅の言葉は終わらないうちに、雅が声をだした。
思いは同じはず。雅はコクンと頷き、寧々に手を出した。その手をきゅっと掴んだ寧々。
二人は皆の視線の中心で、背をむけた。

すると、まだ教室に入っていない生徒からの声が聞こえた。
何百人もの生徒が学校にいる中で、その会話だけが、聞こえて来た。
校長室へと、ありえない程の美人な女の人と、ありえない程、格好いい男の人が入って行った――――と。

何も確信があった訳じゃない。
ただ、二人は、何故か、直感が働いた。

雅は寧々の手をぐっと引くと、そのまま校長室へと全速力で急いだ――――。




「あ〜、面倒くせぇ。ほんとに面倒くせ〜」
校長室にも関わらず、かつての彼の声より、ちょっと低くなった、自由気ままな声が聞こえてくる。
「何が面倒くさいアルっ! てか、蒼も隼人も、人に迷惑かけちゃいけないって、日頃から言ってるアル!」
夫を叱り、そのまま子供を叱るのは、勿論彼女……。

「つーか、俺悪くねーよ」
母と、父の声の直後、聞こえて来たのは蒼の声。とてつもなく不機嫌そうだ。
その声に、扉に耳をピッとつけ聞き耳を立てているのは、雅だった。その横で、さすがにそんな事は出来ないと雅の腕を引っ張る寧々。


そんな二人の耳に、隼人の声までもが聞こえて来た。
「何で今回に限って親呼び出すとかすんだよ。親が出てこうが、出てこなかろうが、状況は変わらないだろう?」

一体、二人は何をしたんだろう。
寧々と雅は、バレないようにとしゃがみこんだままジッと、その声に聞き耳を立てている。

「こ、今回はいつもの喧嘩とは訳が違う訳で……え〜……」
深い椅子に座った校長は、自分が呼び出したにも関わらず、この面子の威圧的なオーラに、しきりに冷や汗を吹きださせ、ハンカチで丁寧に拭っている。
そんな校長をフォローするように、神楽が口を開いた。

「ほらっ! 蒼も隼人もっ! ちゃんと謝るアルっ! どんな理由があったにせよ、人を殴っちゃいけないアル! しかも先生を殴るなんてっ……」
鼻息荒くする神楽を総悟が止めた。
そして、今の今まで面倒くさくしていたその姿勢をやめ、真っ直ぐに校長の方を見つめた。

「確かに、コイツらは、俺に似て荒い所があるが……意味もない行動をする奴じゃないんでさァ」
総悟の言葉に、校長は更に汗をどっとふいた。

あの頃、鋭く人を射抜く様な目つきをしていた総悟だったが、今は更に磨きがかかっていた。
こうなった総悟に、いつも神楽は頼もしさを覚えた。
あ〜だこ〜だと口を挟むのを神楽はやめ、静かに夫の行動を見守る体勢にと入った。

そんな総悟達の声を、扉と向こう側で、雅と寧々は、目を丸くして聞いていた。
(先生を殴った? 殴った?!)
そんなの信じられないと言う視線を、二人は交わす。
そもそも、雅にしろ、寧々にしろ、この扉の向こう側に、隼人と蒼の母親と父親が居ると言う事で、正直、見たくてたまらない。
若干、双子に似ている声の持ち主に、その声だけで、何故か、胸が高鳴った。

言葉に違和感があるが、二人の母親が、見てみたいと思うのは、好きならば当然の事だった。
しかし、こんな所で盗み聞きしているのを気付かれる訳にもいかず、ぐっと息を殺した。

「その教師とやらに、殴られる様な事をしたかと、一言聞きたいんだが……かまいやせんか?」
「そ、それはっ……」
校長は、ごにょごにょと言葉を逃がした。
総悟の観察力は半端ではない。

ひと通り校長を見ると、軽く息を付き、口を開いた。
「神楽、帰るぜ」
「ぇえ?! な、何でっ?」
そう言い、立ち上がった総悟に驚いたのは、神楽だけではない。まだ二言程度で父親が帰ると言い出したのだ。
隼人と、蒼も唖然とした。

「俺自身が、そう褒められる生き方をしてきた訳じゃねー。けど、こいつらには、大切な事は教えてやってたと思ってやす。その上でこいつ等が理不尽な事をしでかしたんだったら、俺はコイツ等に、どうやってでも頭をさげさせるが、俺自身が判断した結果、頭を下げる必要性はないと判断したんでね。理由も特に聞かないつもりでさァ」

教師を殴ったのを理由に、沖田夫婦をついに呼び出しては見たものの、今となっては、ただただ、穏便に帰ってくれと願うばかりの校長だった。
総悟達が来てから汗を拭っていたハンカチは、もう既にビチョビチョになっている。
神楽はと言えば、こうなった総悟に何を言っても仕方ないのは分かっている。ただ、それだけが理由じゃないけれど、素直に従った。

そして、その間僅かほんの30秒程度の事だったので、当然、雅と寧々は逃げるタイミングが無かった訳で……。





……To Be Continued…

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