act 最終話

「団子が可哀想だから食べてあげるだけネ。決してお前に言われたから食べるんじゃないアル。」

そう言った神楽の口に、難なく入れられる団子。ヘイヘイ。と沖田は言った。
むぅぅ。と神楽は口を尖らしたが、自分もちょっとは大人気ないと考えたのだろうか、
そのまま何も言う事なく食べ続けた。

食べている間は良かったが、食べ終わってしまうと、逆に困ってしまった。
何か話題はと、自分の中を捜索するが、頭に入って来たのは、記憶に新しいあの日の事だった。
神楽は思わず赤面する。ずずっと茶をすすった。ごきゅんと喉を鳴らし飲み込んだ。

しかし顔の火照りは止まない。
恥ずかしく俯いた。
そんな神楽を見た沖田は、ピンと来るものがあったらしく、神楽の手首を取ると、引き、店を足早に出た。

「なっ。ちょぅ!沖田!」
無理やり引かれた自分の手首と、沖田の背を交互に見つつ、神楽は口を開くと、急に止まった沖田の背にドンと激突し、鼻のてっぺんをもろにぶつけた。
すぐさま神楽は鼻を覆い、「この神楽様の鼻をつぶす気アルカ!コラァァ!」と叫んだ。
が、沖田の背は自分を振り返らない。鼻をすりすりとしつつ、沖田の前に回り込むと思わず絶句した。

神楽の赤面が移ったように、沖田の顔も淡くそまっており、それを掌で隠そうとしていた。
その掌の隙間から、搾り出す様に声が出た。
「頼むから、そんな顔すんじゃねェや。出来るもんも出来なくなるだろうが…。」
「ふぇ?ななな何がアルカ?!」
さっぱり分からないが、とりあえず神楽はどもった。

「――理性だ理性。そのくれェ察しろ。」
カッと神楽の頬が赤く染まった。
「だから、そんな顔すんなって…。マジで限界なんでさァ…。」
沖田は脱力した様に、もう一度ため息を付いた。
「そんっ、そんな事言ったって…。」
通りの真ん中、沖田は神楽に向かいあった。二人の側には、すり抜ける人の影。

「神楽、悪りィが…。もう、もちそうもねェんだが…。」
「ぇえ!こんな昼間っから何を!?いやいや、その前にお前っ!ってか…。」
「お前をその気にさせる為なら、今すぐ此処で腰がたたなくなるように舌絡ますぜ。」

「んなっ!ひ、卑怯アル!」
「もともと俺は卑怯な奴なんでね。褒め言葉に聞こえらァ。」
「だぁぁ〜。駄目アル。銀ちゃんに怒られるネ!」
神楽は沖田に掴まれている手を離そうとしたが、その手はビクとも動かない。
沖田は真っ直ぐに神楽を見た。
「別に殴られようがかまやしねェ。」
「それでもっ!」
神楽はくしゃりと顔を歪ませた。昼間、しかもこの通りの真ん中で何を言い出すんだ、この男は…。
思っては見るが、その男の瞳が自分を捕らえて離さない。しかも悪い事に、自分はこの男のこんな視線に、めっぽう弱いのだ。
「さァどうする?俺はちゃんとオメーに選ばせてやってんでィ。自分から進んで行くか、足腰立たなくなってから俺に抱かれて行くか。」
「どっちも行く先は一緒じゃねーかヨ!」
神楽は目を吊り上げた。沖田はドSを全快に口元にあげた…。


江戸の街は何時だって賑やかだ。
通りの中心でギャーギャーと騒ぐこの二人をすり抜けながら、人々はくすくす笑う。その声は二人には届かない。と、其処に一人の見覚えのある顔が歩いてきた。男は二人に気付く、ほんの一瞬その目を大きくさせた。
しかしその足は止まらない。

その反対側から、もう一人の男が歩いてきた。
男はすぐにその騒がしい声に気付く。口元をあげた。その足をそのまま進める。

「嫌アルぅぅ!沖田の馬鹿ぁぁ!」
「ちょっ。お前暴れんなって――。」
その二人分の足音は、静かに二人に近づく。
「だから自分で選べって言ってンだろうが!」
「馬鹿アルカ!?こんなのどっちも選べないアル!」
沖田と神楽を中心に、その影は重なる…。


すれ違い様、声色の重なりに、一瞬神楽は振り向こうとキョロキョロとさせた。その頭をぐいっと沖田が引いた。
つま先立ちになった神楽は、目を大きく見開いた。先ほどの声を思い出そうとさせる脳は、沖田の舌に絡め取られ、その記憶を消された。

すれ違った男の表情は、どちらも、柔らかく笑みを浮かべていた。

漏れた息と一緒に、吐かれたのは、沖田の台詞。
「誰が別れるかバーカ。」
「ハっ?お前何言ってるアルか?」
「いや、何でもねーよ。で、どうする?オメーが選んで俺に命令しろや。感謝しろよ?俺に命令出来ンなァ、近藤さんと胸くそ悪リィ土方の野郎と旦那くれーだぜ?それにオメーも入れてやっるてんでェ。」

「何が命令アルカ…。」
神楽は呆れ、沖田の方をチラリと見た。ニヤリと笑みを浮かべる沖田。

「しょ、しょうがないから…行ってあげてもいい…アルヨ?」

本日は晴天。傘をさし、恥ずかしそうに、俯く神楽の傘に沖田はひょいと入った。
神楽は恥ずかしいからと、沖田を傘から出そうとする。けらけらと笑いながらも沖田は、その体をビクともさせない。沖田はぐっと神楽の腰を寄せた。耳元に口をつける。

わっと神楽の顔は火照った。
沖田は神楽の方へと顔を傾けた。神楽はゆっくりと傘を傾けた。
江戸の街へ振り注ぐ太陽の陽は、ほんのひと時、その色を照らした。

沖田に届き、神楽に聞こえた瞬間溶かされた言葉は、その影だけを神楽のココロにと降らせた…。

「お幸せに、神楽さん…。」
「早く別れちまえ。バーカ…。」


.:*゚..:。:.FIN.:*゚:.。:.


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