act 16

沖田と高杉の視線の先、真っ先に目に入った物…。
「お前、それ、かけすぎじゃねェの?」

あと、ほんの一欠片、最後にたっぷりとかけられたシロップ。真っ白な皿は、もうすでに真っ白な皿とは呼べないほどにシロップでまみれている。上品とは、遠く、遥かかけはなれた状態…。
神楽達の席の前に立ち、げんなりとべちゃべちゃのホットケーキを見ている。

その周りはといえば、入院患者。主に女性客が、自分の寝姿を見るなり、頬を染めて、手ぐしで、髪をといている。そしてちらり、ちらりと、振り向く事のない男の背中を見ている。

時折見せる横顔に、ほぅっと頬を染め上げていた。この用な視線は、はっきり言って、もう慣れっこなので、其処を軽やかにスルーすると、再びびちょびちょに埋まったシロップまみれの、もはやホットケーキと呼べるのか怪しいその物体を見た。
まさか、この場でもう一度先ほどの台詞を言えるわけのなく、神楽はフォークを口に突っ込んだままから笑いをした。

「手、手がすべってシロップがね…。」
い、痛い。その言い訳は痛いと皆は視線を逸らした。白いおしゃれな陶器にはめられたシロップは、滑っておちた形跡はゼロ。
「太るぜ。」
沖田の痛い一言。

「これはァ…!」言いかけようとして、残りの言葉を飲みこんだ。話を逸らそうと、別の話題を口にした。
「ど、どうしたアル。此処は病院ヨ。」
「そりゃ、俺らが聞きてェ。何してんでィ。何かあったのかよ?」
時間にして、数秒。彼女達は、すばやく視線をかわした、しかし、おしい。答えが見つからない。お妙は適当を口にした。
「お見舞いに来たのよ。」
「誰の?」
素早く高杉が聞き返した。

「貴方たちの知らない人よ。別に気にする事ないわ。」
得意のスマイル。だが、ここでもおしい。口元が引きつった。其処を見逃す二人ではなく…。

「で、本当は何しに来たんだよ。」
また高杉が突っ込んだ。半分カマ賭けだったが、見事にそれに乗る様に彼女達は沈黙になった。これは別の答えが隠されていると肯定したも同然の訳で…。チクタク。チクタク。

時計の秒針が聞こえる様な気がした。瞳の中の色が、キョロキョロと行き場を探した。どうする?言っちゃう?
視線だけの会話を宙で繰り広げる。えっ。マジっスか?でも…。言うなら皆が一緒の時が…。あっ。誰かが風邪を引いた事にすれば…。それは難しいんじゃないかしら…。じゃ、やっぱり…。

深い沈黙の後、彼女達は一声に、男を見上げた。鞄の中で証拠のソレを掴んだ。引き抜いた。
刹那。甲高い子供の泣き声が店内に響いた。

どうやら、入院していた子供が、今日退院したばかりらしく、母親が大きなバックを抱え、一緒に店内へと入ってきた。夫は、会計に並んでいるらしい。子供の声に驚きこちら側に駆けようとしたが、それを母親が止め、一生懸命あやしている様だった。

ガラスケースの中にあるケーキを食べたいといっている。しかもいくつもだ。
母親は一つにしなさいと宥める。だが、5歳程の子供は言う事を聞かない。騒ぎたてる子供に、まだ若干若い20代後半の女性は焦りだした。

しゃがみ、その息子と同じ目線になり、一つにしよう。食べられないでしょう?といった。だが、やはり子供は首を振り、ヤケをきる。客の視線が其処に集中しはじめた。

その時、沖田と高杉の足が動いた。その背を、訳もわからず神楽達は追った。

「よう、坊主。母ちゃん困らせたら駄目じゃねェか。」

沖田は言いながら、母親と同じように、高杉としゃがんだ。
駄々を捏ねていた子供は、はたとそのつぶらな瞳をぱちくりとさせ、沖田と高杉を見る。同じようにその隣の母親も二人を見、その容姿に目を見開いた。

「だって、ケーキ食べたいもん。」
「ぼうずくらいの腹なら、一個たべりゃぁ、いっぱいだって破裂しちまわァ。」
「破裂って何?」
男の声に、高杉が口を開く。

「ぼうずの腹が、パンって風船みたいに割れちまうって事だ。」
「ぇえ!僕そんなの嫌だ!」
沖田、その眼差しを柔らかく。

「だったら今日は一個にしとけ。そしたらパンなんて言わねェと思うぜ?」
「本当?絶対言わない?」

今度は高杉が、男の子の言葉にイタズラに口を開いた。
「絶対言わねェよ。ただし、母ちゃんを大事にしねェと、やっぱり割れちまうかもなァ。」
「ぼ、ぼく、ママ大事にする!絶対する!」

そうかと高杉と二人、笑みを見せた。立ち上がると、母親はふかぶかと頭を下げた。
神楽達は顔を見合わせ、微笑みを見せた。

そしてもう一度高杉らに視線をもどすと、どうやら、母親が、是非にと、ケーキを選んでくださいといっているようだった。沖田はイエと軽く手を振った。しかし、母親もお礼をさせて欲しいと食いついているようだった。
おもむろに沖田は神楽を指差した。

キョトンと神楽は見る。沖田が手のジェスチャーと言葉で、シロップをかけるそぶりを映し出した。まぁ!母親はくすくすと笑った。

まもなく、夫の姿も見え、沖田と高杉にお礼をし、改めて息子に一つケーキを選ばし、店内に足をすすめた。通りすがり、神楽達に一礼を。神楽達は柔らかく微笑んだ。そして神楽は顔を直後瞬く間に膨らました。高杉とケラケラと笑いながらコチラに向ってくる沖田は神楽の表情をみると、思わず高杉と視線を交わしたのだった…



……To Be Continued…

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