act 8

また子はそっと更衣室から出る。高杉は無意識にまた子を見た。また子は反射的に一度ビクついた。
高杉は何事もなかった様にまた子から目をそらし、ファッション雑誌をパラパラと捲った。その背中を見ながらまた子は深呼吸した。ただ、別に告白するんじゃない。軽く、軽く…。そんな事を考えながらバクバクと心臓の音を高く鳴らせた。もう一度息を吸い込んだ。そして口を開いた。

「た、高杉先輩!」
思わず大きくなった声に自分自身、驚いた。そしてそれは高杉も一緒だったらしく、何事かとまた子の方を振り返った。ここまで来たら行くしかない。また子は覚悟を決め、菓子箱を差し出した。
「こ、コレ…。あたしが作ったッス。そ、それでコレ…。あの、食べて欲しくて…。」
もっとすんなり、スムーズに渡すはずだった。コレ、食べてほしいッス。そんな感じで。だが実際はどうだろう。何度も言葉につまり、余計な単語もちらほら。ちっとも綺麗でもスムーズでもない。動揺しているのがバレバレだ。告白してるのと同じじゃないか。目を瞑った自分は今にも泣きそうだった。その菓子箱を高杉が手に取った。また子が勢いよく顔をあげた。ありがとうございます!そう言うはずだった。しかしその視界には、高杉と、恐らくレジを開けるために必要な工具を取りにきたであろう沖田の姿があった。

あっ。思わず声が出た。恥ずかしくて、俯いた。ただ、ただ、今日はお菓子を渡したかっただけ。コレを機会に自分の心を込めたお菓子を受け取ってくれたら嬉しいな。今日はそれだけのつもりだった。しかし今のこの状況。誰が見ても、どう見ても、告白。いや、告白まではいかなくても、好意があるのはバレバレだった。ゆえに前者の状況と同じも同然だった。

それに拍車をかけた様にまた子は頬を真っ赤に染めた。耐えれなかったのだ。この状況に。下を向き、唇を痛い程に噛み締めた。涙まで瞳にたまり始めた。もう終わりだ。恥ずかしくて死んじゃう。そんなまた子に追い討ちをかけた様に沖田が口を開いた。

「何?もしかして、俺ら仕組まれて上手く誘導されたって事?はっ。馬鹿らしい。とんだ茶番でさァ。」
カッとまた子の顔から火が吹いた。俯く瞳からポトリ。床へと染みを作った。鼻をスンと鳴らす。本当に、本当に恥ずかしかったのだ。
「てか、手作りお菓子って、今時はやらねェよ。」
高杉が鼻で笑った。違げェねェ。沖田も笑う。また子は下を向いたまま、掌で声が少しでも出ないようにと口を覆った。その手の甲に涙がいくつも伝った。華奢な体は震えた。今にも壊れそうだった。その雰囲気を一発の甲高い音が切り裂いた。スパンッっ。手のヒラから伝わる振動と共に。

平手うちを食らったのは沖田だった。
目の前の神楽は震えていた。どうしようも無い怒りで…。
「さ、最低アルナ。本当ッ。最低ッアル。」
唇はわなわなと震え、言葉を出すのも精一杯だという所だった。思いきり平手打ちをくらい唖然としている沖田の前を通りすぎ、同じく言葉を詰まらせている高杉をキッと睨み前を通った。そしてまた子を抱き締めた。神楽が抱きしめると同時にまた子は崩れた。我慢が出来ない様に嗚咽をだした。神楽は震える手でまた子の柔らかい髪をそっと撫でた。そして一歩一歩、また子を支えながら沖田と高杉の前を通った。神楽の瞳には涙が溜まっており、歩く振動でポロっと落ちた。堰をきった様に神楽の涙は流れた。また子を支えながら必死で涙を拭った。

沖田が休憩所に入っていって一時、たまたまレジの所を見た神楽は気付き、思わず話しの途中で席をたったのだった。肝心のお妙はと言えば、レジを分解しようとしている近藤の手伝いにすっかり気をとられてしまい、沖田の背中が休憩所に入っていくのに気が付かなかったのだ。神楽が急ぐ様に休憩所へと走る姿を確認し、しまったとお妙も足を駆けた。この二人の姿を、何事かと全員が休憩所に集まる羽目になってしまったのだ。

神楽とまた子の姿を見た妙は唖然としながら両手で口を覆った。全身に鳥肌が立った。お妙は儚い声でまた子の名前を呼んだが、また子は嗚咽をだしつつ、止まらない涙を必死に拭いながらお妙の横を通った。
裏口から、泣きじゃくりながら去っていった二人を唖然と皆は見た。いち早く動いたのは、やはりお妙だった。

高杉の頬に、甲高い効果音が響いた。お妙の口はふるふると震えた。
「何を言ったんですか?!またちゃんに、何を言ったの?!あの子が何かしましたか?!ねェ何か―――。」
興奮してるお妙を近藤が止めた。最低よ!お妙は叫んだ。興奮した涙がぼろぼろと頬に伝い床へと落ちた。
叩かれた頬をそのままに高杉は立ち尽くした。土方、山崎は完全に言葉をうしなっていた。沖田はただ、ただ、放心状態だった…。


.......





※ コピー本、公開小説は、こちらで終了となります。立ち読みしていただいて、あっ、ちょうっと面白そう…。
そう思われました方、コピー本の完成をお待ちいただけましたら光栄です★

只今、ヒーヒー言いながら、創作中であります!!
がんばります。

オフ本?(ってゆうのかな?)ではないので、時間も制限ないですし、部数も制限ありません。
ただ、手で作るので、多少手間時間がかかるかな?位です★

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