act 5

抱き締めている神楽は、日頃暴れている時では考えられない位に華奢で強く握ると折れそうだった。
触れた肌は、コレまで生きてきた中で何よりも柔らかく、心地よいと改めて感じる。だからこそ、沖田は口を開く。どうしようもなく、気になっている事を問う為に…。

「一つ、一つだけ聞かしてくれ。おめェ、旦那とは―――。」
そこで、言葉が途切れた。神楽は、喉を上下した。その音がリアルに沖田に聞こえた為、無意識に沖田も喉をならし、冷や汗を背中に伝わせた。シンとした空気の中、神楽の口が開く。その口から音が漏れる。声が漏れる。
聞いておきながら、急に恐くなった。しかしそんな沖田の心情をむしする様に神楽は口を開いた。

「私もお前に聞きたいアル。もし、本当は、浮気してるって答えたら、どうするアル。」
抱き締める力を強くさせた。何故質問を質問で返すんだと少々腹もたった。実際、本当に一度ほど、間違いがあったのかも知れない。さみしさに耐え切れなくなった神楽が…。そんな事を考えただけで、体に熱がこもった。沖田は一度、息を吐いた。落ち着け。そうココロで念じた。目を瞑る。

「お、れは。許せねェ。そんな事を言える男じゃねぇ事は分かっている。それでもだ、やっぱり許せねェもんは、許せねェ。」

「だったら、―――別れるアルカ?」
心臓が、壊れると悲鳴をあげた。そんなに早く音を、奏でるなと、振動させるなと、悲鳴をあげた。
触れている素肌の奥にあるその振動や音を生み出すものが右と、左、シンクロする。いっそ一つになっちまえばいい。そんな事を考えた。沖田は神楽の髪に顔を埋めながら、言葉を言う。

「別れねェ。絶対だ。」
「じゃぁ、―――許すって事アルカ?」
神楽の喉がなるのが分かる。
「違げェ。この先も絶対ェ許さねェ。俺に一生縛りつけてやらァ。」
「それが、―――罪を犯した私の罰アルカ?」
「そうでィ。」
触れている肌を神楽は離す。途端、冷たい風が自身の体を包んだ。そして神楽はふわりと笑った。
「浮気をしたって言ってる女にプロポーズなんて、イキな男アルナ。」
そして沖田の首に手を回す。ゆっくり、引いた。沖田の耳元に息がくすぐる。
「―――浮気なんてする訳ないダロ。ばか…。」
あたしにはお前だけアル。口を尖らす神楽を呆然と沖田は見ていたが、稀に見る柔らかい表情で神楽の上にと落ちて行く。

言葉の代わりに酸素を。ココロの代わりの熱を。そう塞いだ。

柔らかく、何度も離れて、くっついて、離れて、くっついて…。ついばむように、慈しむように…。その愛撫はやがて、溢れてくる気持ちと共に変化を遂げる。
柔らかい愛撫は噛み付くように、慈しむココロは激しい情緒へと…。

沖田は、首筋にいくつも甘い痛みと共に、跡を付けた。こいつは俺のものだと表すように、その度、神楽の顔は甘く歪んだ。右手で柔らかい曲線へと滑らせた。神楽の顔は瞬く間に紅潮した。
沖田は神楽に視線をそのままに、両手で手に余る曲線を掴み、揉みしだいた。神楽は耐え切れなくなったように両手で自身の顔を隠そうとするが、沖田がそれを許さなかった。
隠すなと言われた神楽は、右に左に首を振り、髪を顔にとくっつけ、唇を噛み締めた。そんな神楽を愛しいと、沖田は重ねる、舌と舌は交わり、嬉しいと音を鳴らす。

俺のモンだと左乳房に噛み付いた。俺のモンだと右の乳房を舌で絡めた。俺のモンだと、突き上げた。
誰にもやらねェ、俺だけのモンだと…。

「悪りィ。今日加減できないかもしれねェ。」
そう言うと、神楽は一瞬にしてこちら側に意識をとりもどした様に赤面した。下を向きつつ、コクンと頷く。
本当は、嫌だった訳じゃない。言葉がいつも足らない沖田が、あまり感情を出さない沖田が、唯一、感情を出してくれるこの時間が、本当は大好きだった。いつも憎まれ口ばかり叩いて、構ってくれない時は、本当に構ってくれなくて、そんな時間全部埋めてくれるほど、気持ちをぶつけられるこの時間が好きだった。少し道を間違えたけれど、ちゃんと、ちゃんと戻って来てくれた。それだけで十分だった。そんな神楽に、まだまだだと気持ちをぶつけてくる沖田がただ愛しかった。まだ好きだと言われているみたいで、ただ愛してるといわれているみたいで、嬉しかった…。

沖田は神楽をよつんばにさせた。後ろから振動を伝わせる。神楽の背中にいくつものスキの跡を残す。
それでもまだ足りないと、神楽を上に乗らせる。下から突き上げるたび、神楽は震えた。おかしくなりそうなのは二人とも、ぐちゃぐちゃに溶けそうなのはどちらとも…。髪がふわり、ふわりと舞う。神楽の体を包み込んだ…。

初め、真っ白だった紙に、二人で、ゆっくり絵を描いた。ゆっくり、ヘタクソな二人の絵を描いた。とてもへたくそだったけれど、二人で描いたものだったから楽しかった。幸せだと笑った。すこし道を間違って、沖田一人が絵を独占するようになった。沖田が描く絵の中には、確かに自分はいるのだけれども、ちっとも似てない。ちっとも嬉しくなくて、悲しくて泣けた。間違いに気付かすために神楽は別の男を描いた。別のページに描いた。そしたら、沖田が怒った。怒ったけれども神楽の描いた絵の意味が分かるとその絵を一生懸命消した。そして二人で一緒に描こう。もう泣くなと言う。神楽は頬をぬぐって、又描き始めた。相変わらずヘタクソな絵だったけれども、二人で描いたものだから愛しかった。その絵は、神楽が沖田の頬にキスをしてる絵だった。沖田はちょっと照れて、そっぽを向いていたけれども、繋がれた手は、もう離さないと言う様に固く繋がれていた…。



屯所内。夜の風が部屋を包む。部屋はとても汚くて、服がそこら辺に散らばったまま。
その真ん中、寒くないようにと敷かれた布団の中、沖田が寝ていた。
その横、沖田の腕まくらに身を任せながら、沖田の頬にキスをしながら寝てしまった、幸せそうな神楽の姿があった…。
その布団の中には、もうけっして離さない。もう絶対離さないでと言う様に、しっかりと二人の手が繋がれていた…。

FIN

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