act 9

何で、その女をさっさと剥がさないアル…。
神楽は、ちらり、ちらり、先ほどから後ろを見ては下唇を噛んだ。沖田にその気がないのは分かる。
それでも、どうしてその絡まる腕をほどこうとはしないのか、何故、すりより、傾けるその頭を手で押しやらないのか。新撰組の事情など、神楽が知る由もなく、神楽はモンモンとしていた。

神楽ちゃん。気が付いたように、義正を見る。今日に限って、肉まんの食べっぷりが悪いのを心配しているらしかった。神楽は手の中の最後の肉まんの半分を見る。先ほどから義正は他愛も無い話しを神楽に投げかけていたが、神楽は適当に相鎚を打っていただけだった。
神楽の頭の中には、沖田の事だけ。早くその女を退かして。そんな事ばかり考えていた。

神楽は、残り一口の肉まんを口に入れ立ち上がる。
其処に義正の手が伸びた。これには神楽は驚き、義正のほうに振り向く。そして握られた手を見た。
義正の手は、神楽の手を握ったまま。その視線は真っ直ぐ神楽の方へと注がれた。当然、その光景は、沖田の視線の先で行われており、視界の中にそれは映った。

映ったのは、何も沖田の視界だけではない。
真面目な表情を浮かべた義正を、近藤、土方、銀時もみている。男が視線を送る先、それに気付いた百合、椿も興味津々な面持ちで神楽と義正をみる。

義正は、大きくゴクリと喉をならした。口を開けた。
「神楽ちゃんって、そ、その彼氏とか…居るの?」
神楽の瞳は、一回り大きくドクンと跳ねた。今、この時間、居るのは、自分と近藤達、百合、椿だけ。
お登勢は、まだ客の少ない上に、顔見知りばかりという事で奥に引っ込み雑用をしているらしかった。この部屋の中、先ほど義正が口にした台詞は、恐らく、いや、確実に全員の耳へと聞こえた。
神楽は一揆に喉が枯れた。水分が欲しい。何か飲ませて。その前にここから逃げ出したい。そう思う。
居るよ。本当はそういいたかった。

このバイトを始める前に、一番基本的な事を、お登勢は聞いた。彼氏は居るのかいと。
此処でうんと言えば、お登勢の事だ。なにも最初から無理やり神楽を使おうと思っていたわけじゃない。
じゃぁ、止めときな。そう言うに違いないのは、付き合ってきた年月のなか知っていた。
だから神楽は軽い気持ちで答えた。居ないと。

だがしかし、丁度今、お登勢は居ない。さらっと言ってしまえばいい。居ると。
「い、ないヨ。」
あぁ、出てしまった。神楽は思う。言葉の出始め、お登勢が顔をヒョコッと見せた。おそらく店内の様子を伺っただけ。すぐに頭を引っ込めた。しかし神楽の口から出てきてしまった言葉は引っ込める事ができない。
「ほんとう?」
義正は顔を輝かせた。神楽は苦笑いをしながら笑った。
どうしよう。背中に突き刺さるような視線がいたい。神楽は沖田のではなく銀時にすがりつくような瞳を向けた。
目をあわすと、ため息を吐き、俯き、頭を掻く。すると、義正に触発された百合が口を開いた。
「沖田さんは彼女とかいないんですか?」
「居ねェ。」
即答だった。
その声が不機嫌さを物語っていた。ムカつく。どう見ても嫌がらせ。でもその元を作ったのは自分。

神楽が肩を落としていると、丁度其処に、お登勢が来ると言っていた客が二組入って来た。
神楽は仕事中だと言う事を思い出し、後ろ髪ひかれるまま、とりあえず接客をする事にしたのだった。


……To Be Continued…

作品TOPに戻る






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -