act 18

痛ッ…。
てか今何時でェ。頭がガンガンすらァ。あ〜、寝たの明け方だったっけか
離れがたくなっちまって、あいつの部屋から出るに出られなかった…

夜中何回かあの後も水分を補給してやったりしてたら、目が冴えちまってひたすら寝顔みてたんだったか…。
やっとあいつの部屋から出た時にゃ、既に太陽が上がりかけてたんだったな…。

とにかく、だ。
起きなけりゃ又土方の野郎が煩く吼えそうでィ。支度すっかねェ。




何日ぶりかに触れたあいつの肌を恋しく、離れられなかった事に対して自分が一番驚いてる
湿った髪に手を通すと、スルリと俺の手を滑らし、その香を舞わせた。
頬に触れて、唇をなぞって、手を握った。無意識に握り返すその手が堪らなく愛しく、嬉しかった。
ここ何日かのモヤモヤが、一気に晴れて行く様な気がしたんでィ。

あぁ。確かに。あの言葉を聞くまでは…


「トッシー!」
朝食を済ませ廊下を歩いて行く土方に声をかけたのは、昨日ぶっ倒れたまま、眠り姫の様に眠りっぱなしだった神楽だった。
土方は丁度、自室へ。そして沖田は自室から今しがた出てきて、朝食をと食堂に行く所だった。
沖田の前をなんなく神楽は通り過ぎ、土方の方へと走りこんで行く。
そして神楽は、銀時に抱きつくように土方に甘えるように抱きついた。

咄嗟土方は赤面する。昨夜の光景がまだ瞼の裏に張りついて居たからだ。
しかし神楽はそんな事どうでも言いとゆう様に、微笑んだ
そんな二人を、チラリと視線を移し、もやもやする感情を押さえ、前に進もうとした…。

「昨日、ありがとうアル。トッシー。」
「はッ?」
「はッ。じゃないアル。ほら…私お前に向って倒れたダロ?ほんの一瞬黒い髪が見えたネ。お前が運んでくれたんダロ?私とっても安心したアル一晩中介抱してくれて、すっごく嬉しかったアル!」

沖田の足が思わず止まる


(はっ、何でィ。昨日の事ァ、全部土方の野郎がやった事にあいつの中ではなってんのかィ。)
足の先から冷めていく体温を他人事の様に、沖田は再び足を踏み出し、背中から聞こえる声色をシャットダウンさせた。


まるで人魚姫だな…。
助けた恩は、ふてェあの野郎に全部取られちまったって事ですかィ。
別に恩を受けてもらうためにした事じゃなかったが…正直気にいらねェ。

ただ俺ァ、おとぎ話の様に甘くねェ。こんな事くらいでめげねェし、泡になるつもりも、手放すつもりもねェ。
大体あの人魚姫とやらも、泡になるくれェなら、その前に一発や二発、王子様とやらに蹴りでも何でも入れときゃよかったんでさァ。
何で気付かねェんだバカヤローってな、首根っこ捕まえて、叫けびゃー良かったんでィ。そしたら結果は変わったかもしれネェのに…。

そこまで考えた所で、今しがた自分が、哀れな人魚姫にぶつけた言葉を実行しようとした。
首根っこ捕まえて、何で俺だって分かんねェのかと…。

しかし振り向こうとした足は、そこから石の様に動かない
沖田は鼻で笑う。
(言えねェよな…んな事ァ…)
悪かったな…と空想の人物に沖田は謝る、そして食堂へと向わせたその時、背中の方から声が聞こえた。

「沖田ァァア!!!」
大きな声で叫びながら、現代の王子様、もとい姫さんは何かを気付いた様に駆けて来た。
ひとりのおせっかいな男に背中を押されて…。

...
沖田は思わず目を見開き、その場へ静止した
神楽は走りこみながら、勢いあまって隊服をガシっと掴む。いよいよ沖田は焦る。
しばらく俯いたまま何も話さない神楽だったが、隊服の袖を更につよくきゅっと掴みやっと口を開いた

「お、お前が運んでくれたのかヨ…」
沖田は喉を一度鳴らし静かにつぶやいた
「あ、あぁ…」
神楽は今気付いたように袖をぱっと離し、ぎゅっと拳を前で握り締める
「あ、ありがとうぅ」
そう言って沖田の前をするりと通りぬける神楽に、先ほど土方には飛びついていったが、何故こうも自分の前ではこんな態度なのか、昨夜の触れた感触が冷たく覚めるような気がして、思わず肩に手をやり振り向かせた

思わず言葉を飲み込む。
振り返る神楽の顔は真っ赤になっているのが容易に分かるほどで、更にその羞恥から瞬く間に蒼の瞳が潤む
肩に置いていた手を沖田は離す。

何だ…?この表情、しぐさ…。これじゃまるで…まるで…
其処まで考えたトコで、不意に一つの仮説が自分の中に湧き上がり、気付いた。
そのハッとした表情に、神楽は気付き、貌をくにゃっと崩す。今にも泣きそうなその貌に思わず沖田が触れようとするとその体はヒクリとなる。

躊躇した沖田の手が止まったトコで、後ろから声が聞こえた
二人の体は大げさにビクつき、その声の人物の方へと振り返る

「あっ。居た居た。チャイナさん、今日は剣でのだな、平たく言えば実践のまぁ、何だその、戦い方と言うやつをやろうと思ってるんだが、アンタにピッタリだと思ってだな。是非講師を引き受けちゃくれないか?」

神楽は聞いてる間、頬を挟み熱を一生懸命逃がそうとしていた。
そして近藤の話が終わると同時にその貌を上げ、分かったアルと答えた
沖田はその間も神楽に視線を寄せていたが、神楽がその視線に答える事は無かった
近藤が居る手前、話しかける事も出来ず、自分に背を向け歩いて行くその姿を見送った

朝食を終え、外に集められた隊士。
近藤の隣に神楽は立ち、傘をさす。

先ほどの表情は何処へやら、神楽は意気揚々としており、既に戦闘態勢へとその表情を艶っぽく笑わせた

その表情に隊士はドキリとさせる

「一気に3人程で来るヨロシ。まとめて相手してあげるネ」
にやりと笑うと、体を跳ねさせた。
近藤の方に視線をやり、すぐに前を向く。すると若手の隊士が進み出た。
神楽はふわりと弧を描くように宙を舞う。其処までして神楽以外の全員が気付く

今日はスリットの深いタイプのチャイナ服であり、しかも上下に別れていない!!!

当然そこには土方も居れば、沖田も他ではない。

しかし神楽はこの様なチャイナ服で戦闘をする事も得に珍しいことではないので、気にする様子も泣く、そのチャイナ服を靡かせた。若手の隊士は首をぶんぶんと振る
集中しろ。命取りになると気を引き締め、その神楽に向って木刀を一斉に振り上げた

...
頭上に降りあがる木刀、神楽はそれを一瞬みた後隊士に笑いかけた
隊士の一人が頬を赤らめるより先に、神楽の傘はその木刀を振り払う。傘が宙に上がるのを一瞬隊士達は気を取られる。其処を神楽は見ると迷わずその傘の先端でみぞおちに軽くねじ込んだ

殆ど一瞬の出来事。何をする間もなく隊士達は膝を付きうずくまった。
この早さには思わず近藤や土方も目を見張った。

膝を付く隊士に神楽はしゃがみこみ、その顔を覗く
「大丈夫アルカ?これでも加減してやったアルヨ…ゴメンネ。」
隊士は、自分の肩に置かれた場所が熱く火照る。
淡く火照ったその顔で大丈夫ですと答えると、神楽は良かったと他の蹲(うずくま)っている隊士の元へ行く

「ゴリ〜。さぁ戦ってくださいって言われても中々出来ないアルヨ。気も使うし、どうすればいいアルカぁ?」
そういいながら神楽は、蹲る隊士に手を貸す。本当に手加減したつもりだった。
でも敵でもなければ、殺気も何もない相手を相手にするのは、何だかんだ優しい神楽には無理だった
そんな神楽の様子を近藤はふむ…と腕を組み考える様に見た

「モチベーションの問題か…確かにな。ヨシ!どうだろう、人数で決めるなんてまどろっこしい事は止めて、ここに居る隊士対チャイナさん一人。チャイナさんの傘を吹っ飛ばすか、チャイナさんから参ったといわせれば勝ち。そしてこの勝負にチャイナさんが勝てば今夜はすき焼きだ。もし隊士が勝てば抽選でチャイナさんと買い物と言う名目でのデートと言うのは。どちらもモチベーションがあるだろう!」

近藤の言葉に神楽は目をキラッキラとさせた。言葉の最後の文字は全く頭の中に入っていないらしい。
その反対の隊士たちは言葉の最後の文字しか頭に入っていなく、その瞳をキラキラとさせ、何故か先ほど蹲っていた隊士さえもやる気満々で立っていた。

ヒクリと表情を引きつらしたのは土方だ。
何を考えてるんだあの人は…と思わず額を覆い、そのまま沖田の方を見るなり更にその表情を引きつらせた。

「ゴリ!すぐやるアル!絶対負けないアルヨ!」
腕をブンブンと回し神楽は上機嫌。近藤は大きな声で笑っていた
その後方から漏れるその黒いオーラをまとう沖田には全く気付かずに…

土方は沖田の方に思わず近づく
「様は嬢ちゃんが勝てばイイだけだろう?簡単じゃねェか。あの嬢ちゃんが負けるかよ。俺も参加しねェし、お前も参加しねェんだろ?」
「…くだらねェ。誰が参加するかってんでィ。俺ァ部屋に戻りやすぜィ」

そういうと沖田は、土方を残しひとり自室へと戻っていく
その途中、神楽の方にチラリと視線を送る。神楽は全く気づいてなど居ないようで、早く早くとはしゃいでいた。

沖田は神楽から視線を離す。そこから離れて行く沖田の背中と共に、近藤の初めッ!と言う声が響き渡った



……To Be Continued…

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