act 39

セメントに雨が打ち付けられ、空は雷鳴で響き渡る。
二人が向かう先は、ここから先、一本道。
そこに、彼女達がいるかどうかは分からない。
けれど、二人の足は、確実にそちらへと向かっていた。

その間には、言葉はない。
ただ、ただ無心に、彼女の声を信じて。二人は雨道の中を走る。

時折鳴り響く雷鳴の中、怪しく黒く見えてきたのは、ひとつのアパート。
薄暗く、雨と光で、儚くも消えてなくなりそうなその場所。

バチバチと足音を濡らしながら、そこへと二人は、近づいていく。

勘違いだったら、それでいい。すぐに引き返すだけの気持ちはまだ、自分の中にある。








「沖田」


雨音の中、かき消される程の、僅かな声で、高杉が口にした。
同時、二人の足はピタリと止んでいた。

見える。確かに、あの時、彼女達が気づかなかった、男達の痕跡。足跡。
二人の足音は、好都合にも、雷鳴と雨足によってかきけされている。
二人は、そっと、でも俊敏に、その場所へと足を踏み入れた。

そしてほんの一瞬、わずかな視線を交わした後、二人は動いた。




真っ暗な闇の中、ほんの僅か、一瞬に見えたか見えないか、男達の視界には、二人の高校生の姿が映り、消えた。

次の瞬間だった。
ガクンと意識を失い、もろくも崩れていくのが、自身の体と認識した時には、既にその意識は闇の中。
そんな、二人の男の前に、映し出された光景、残骸。それは、確かに、今ここに、彼女達がいると言う痕跡。

彼女が、最近お揃いがいいと買ってつけた、キーホルダー……また子のカバン。

暗闇に浮かぶのは、眼帯の男、首元をひねり上げられ、目の前の男は、息を飲んだ。
ヒッ……―――――




ドドドドン ! ドドドドン !
破壊的な音が鳴り響いたと同時、沖田と二人、高杉は上を見上げる。

確信的な直感が二人の脳裏を巡った。



なんの変哲もないこの場所、真っ暗で何も見えそうにないこの場所。
二人は確かにそこに居る。
沖田と高杉は、確信した。

確かに今、彼女達の声が、この鼓膜へと届いた。




暗闇の中、音もなく、男が倒れていく。
一人、二人、三人……。
そして、それをそのままに、その旋律の中、飛びぬけた男が階段を駆け上った。




「――――――――神楽ちゃん!!」



―――――――――――――――― ……。
間違いない。
たった今聞こえたのは……


けれどその直後、叩き付けられた様な、跳ね上がった生身の音が沖田の耳にと届いた。
彼の行動が、一際、俊敏にと変化する。

「ぅわぁああああっ!!!」



たった今、彼の鼓膜へと届いた声に、その瞳孔が大きく開き、緋色の瞳が、暗闇の中、鮮やかに、流れた。



言葉を出す暇もなく、流れるその影は、暗闇の中、数多の男達を、静かに、瞬殺していく。
ほんの僅か、その先にあるのは、捜し求めていた二つの声。
そして階段の最上段に足を踏み入れた沖田に、いくつもの手が伸びた。

当に彼の瞳は、暗く、緋色に染まっていた。








沖田の右手、左て、その足、その体へと手は伸びる。
その暗闇の中、彼はそれが分かっているかの様に、静かに動いた。
左方に伸びてくる、その手を掴むと同時捻りあげ、そいつの頬へと拳が埋まる。
その右方から更に伸びてくる手を片手でふさぐと、その体をねじ伏せた。

後方から伸びて来たその手をよけ、振り向くと、その首元を引き寄せ、そのまま頭突き。

それでもまだ伸びてくる更なる手。
けれど、沖田は分かっていた様に、動かなかった。

彼の後頭部へ伸びてくる手、暗闇の中、更に別の手が掴んだ。


パシ……ッ


まだ、男達は、この状況を把握できてなかった。
雨音、雷鳴、この光のなき、空間、意味がわからないほどの静けさのなか、何かが起きている。
次々に、低い呻き声の中、仲間の気配は消え、漆黒の瞳と、緋色の瞳を持つ、男が、何処かにいて……。

「殺してやるよ」


ヒッ……。

思う意識の中、あっと言う間に、自身の意識と気配は消えていく。










そんな中、その二つの瞳の色の中、確かな光景が映し出された。
暗がりの中、男達の群れ、二人の少女の姿があった。

身も心もボロボロになりながらも、必死に抵抗している少女の姿と、
ピクリとも、動かなくなった、少女……。





次の瞬間、その場の空気が凍りついたのが分かった。
全くの気配がなかったこの空間で、低い声が響いたと同時、自身の真後ろから、殺意が発せられていた。





一瞬の間だった。


物凄い力が後方へと動いたと思えば、背中に痛みが走り、意識がなくなっていく。









瑠璃色の瞳を持つ、神楽の目に、沖田の姿が映し出された。



「おきた……」

空想でも、妄想でもなく、神楽の目の前に、沖田が来た瞬間だった。

……To Be Continued…

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