act 31
「――――――い、オイ!」
走り続けている沖田の背に、今やっと気づいた、土方の声が背中にかかった。
「テメーの携帯、今鳴ってやがったと思ったのは、俺の気のせいか?」
ハッとした沖田は、自身のポケットにある携帯を、今やっと取り出した。
【着信アリ】
簡潔に述べられているその文字に、沖田は焦りを感じた。
ボタンひとつ押したところに出てきたのは、先ほどから連絡を取りたかった神楽の名前があったから。
そのまま沖田は神楽へとコールする。
が、やはり繋がらなく。
嫌な予感は、沖田の周りを、ぐるぐると回り続けていて、止まりそうもない。
そもそも、神楽の自宅の方へと足を向けては見るが、それも確かな事ではなく、もしかすれば、自分は検討違いな事をしてるんじゃないかと思えてさえくる。
そんな思いを振り切りながら、沖田達は、力の限り走り続けた。神楽達よりも、ずっと、ずっと早く。
自分達の体力がたもつ限り。自身の嫌な予感をかき消し、信じて……。
二人して、神楽達は、何の役も果たさなくなった、その二つの携帯を見下ろした。
こんな危険な展開、あるんだろうか? 何かの前触れかと、おもわずにはいられなくて……。
「何か、嫌な予感が、するッスね」
また子の言葉に、神楽はごくりと喉を鳴らした。
「へ、変な事言わないでヨ」
「だって……こんな事って、あるンすか?」
いわれれば、言われるほど、その言葉に納得してしまう自分がいる。
その小さな携帯は、神楽達が何度触っても、反応を示すことなく、真っ暗なままだ。
ポッ――――。
ポツッ――――。
神楽とまた子の頭に、ひんやりと雨音が響いた。
「あ、雨が降って来たアル」
ポッ……ポツッ……。
ヒタヒタと神楽の頭に、雨水が打ちつけだした。
それは、あっと言う間に、早いスピードで、雨、の形となって現れた。
「わわっ! 本格的に降って来たアル」
また子と二人、顔を見合した。前髪が、あっと言う間にしっとり濡れてきたと思えば、制服が、スカートが、体にヒタリとくっついた。
「神楽ちゃん、濡れちゃうッス」
前髪を手で拭いながら、また子はカバンで神楽の頭を雨水から凌がせる。どこかで、雨宿りをしなければ……。そんな事を考えながら、二人は辺りをキョロキョロと見回した。
「あ、あそこ……あそこはどうアルか?」
神楽が指差す先にあるのは、今は使われていない、古いアパート。
一階が車庫になっている様で、雨を凌ぐのにはもってこいといった場所だった。
傘もない。このままでは濡れてしまう。二人が決断するのは早かった。
濡れた掌を二人重ねると、二人の足は、そちらへと走り出す。
それは、まるで、運命のいたずらの様に――――――。
……To Be Continued…
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