act 30

「どうしたんスか? 神楽ちゃん」
今の今まで、華やかな雑談をしていたのに、明らかに様子が変わった神楽を見て、また子は首をかしげた。
「な、何でも……ないアル」
そう言った神楽の表情は、青ざめている、そう言ってもおかしかくなくて。
何でもない? そんな顔をさせといて? また子は思っている、その自信の気持ちに、妙な焦りを覚えた。

だって、ここには、自分達二人しか居ないはず。

「顔……汗かいてるッスよ」
また子は神楽の額に手をやると、ほら、とその汗をぬぐって見せた。
神楽の顔が、分かりやすくギョっとしたのがわかった。

「大丈夫ッスか?」
「あ、うん。……大丈夫アル」
そう神楽は言うけれど、また子の中に生まれた、妙な焦りは拭える事なく。
その思いは、口には出さないけれど、神楽も同じ様だった。

ここには、二人しか居ないはず。そう思った自分だけれど、だからこそ怖い、そんな風に思えてきたまた子は、無意識のうちに、辺りをキョロキョロと見渡してみた。けれど、そこには何もなく。

嫌な感じだ。
一度思ってみると、何だかそう思えてきてしまう。こくりと喉を鳴らしてみた。いつの間にか止まっていたその足を、また子は急かした。

「さ、神楽ちゃん、早く行くッス」
また子の言葉に、こくりと頷いた神楽は、その小さな手を、二人絡ませた。

神楽の手の中には、まだ、その食べかけのお菓子が握られている。それはまた子も同じで。
二人の足が、普段よりも速いスピードで、地を蹴っていく。

その、自分達の足音に、何か、混じって聞こえてくる。

空耳、だろうか?

怖い、そう思った二人の手に、じっとりと汗が滲んだ。
速く、もっと速く……。
急かせる様に、その足は走り出す。






そこから、また遠く離れている場所で、重なる足音があった。
神楽と同じ様に足早で、複数の。それは、とても離れていて、神楽には、到底届かない。

「沖田さん、さっきの話、本当なんですか?」
「あぁ、まぎれもなく、本当の話でィ」
そんな……まさか……?
こえの持ち主は、先ほど高杉からのコールで、二人と合流したお妙、達のものだった。
信じられない。話を聞いた後も、その言葉は繰り返し出ていて。

確信がある訳じゃない。それに、時間も経ちすぎている。
それでも、沖田達は、神楽の後を追うように、神楽の自宅の方へと足を向けていた。

冷や汗は、沖田の背に、さっきからずっと、流れている。それが、変に嫌な予感を誘っていて。

「嫌な予感がするんでさァ」
ぼそりと出てきた沖田の言葉に、土方の顔が、苦みばしる。
「変な事言うんじゃねえ、縁起でもねえぞ」

確かに、しかしこの自身の予感が、どうにも気になって仕方がない。
土方達と連絡が簡単に取れたのは、運が良かった。けれどまた子との連絡は、今も途絶えたまま、神楽に至っては、電源が切られているままで。

(神楽……)






(沖田……?)


「今、沖田の声が聞こえた気がしたアル」
走り続けている神楽が、何かを感じた。そうまた子に言った。
「嘘? 本当ッスか?」
うん。神楽は頷く。分からないけれど、確かに沖田が、自身の名前を呼んだ気がした。それは、気のせいじゃない、そう思えた。
全身で不安がいっぱいの中に、確かに沖田の声が流れた気がした。
(助けて、助けて、沖田)
そう神楽は強く思いを込める。もう一度、その声が届く様にと。

何だか分からないけれど、嫌な予感が自身を包み込もうとしている。それを、沖田の声が、助けてくれた気がした。
でも、怖い……。

神楽は、また子の手を、しっかりと握り締めて、走り続ける。

すると、また子が急に立ち止まった。
「け、携帯!」
「携帯?!」
神楽はまた子の言わんとしている事が分からない。
「携帯ッスよ、神楽ちゃんの! それで沖田さんに連絡がつけれるッス!」
何でこんな簡単な事に気づかなかったんだ。また子の言葉に神楽も思わず頷く。
電源を切っていたから、何も気づかなかったんだと。

神楽の携帯に電源を入れる、その時間が、じれったいくらいに長く感じてしまい。
早く、早く……。
なぜこんなにも長く感じてしまうのだろうか、その間は、いつもよりもずっと、長く感じられていて……。

早く……早く……。

携帯の画面が、パッと明るくなった。
二人の顔は、期待に輝いた。

「神楽ちゃん! 早くっ!」
「分かってるアル!」

焦るあまりにうまく押せない。それでも神楽は必死に押し続けた。
沖田、沖田、沖田、沖田……。
「あった!!!」

沖田の名前が、画面に表示された。
言うと同時にその名前に指を触れさせた。
ドッドッドッド。
二つの心臓が、大きく重なりあう。

コール音が、神楽の鼓膜と、また子の耳元に、大きく響く。
早く、早く、早く、早くっ!!!








ピっ………………。






「充電が、―――――――――切れちゃったアル」

・・・・To Be Continued・・・・・
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