act 28

神楽が教室を出て行き、沖田が自身の過ちに気付いたその頃、一人の少女は、いつもの様にぷりぷりと頬を膨らませながら、いつも彼と行くゲームセンターでぶらぶらとしていた。

「っとに! 何であの人はああ何スかねぇ! 人が電話してるのに出てもくれないし、一体何処に居るかなんて検討もつかないし……。えっ?! まさか浮気?! 浮気ッスか? いやいや晋介様に限ってそんな事はありえないッス。だってあの人女子なんか相手にしないッスもん。え?! じゃあもしかして私も相手にされてないっスか?
いやいやそんな事ないッス。だって私は晋介様の彼女っス。じゃあ何で電話に出てくれないっスかね〜。折角作ったお菓子食べさせたかったのに……」

一人ごとをぶつぶつと言いながら、また子は歩いていく。
しかしその声は、この館内の中では、ゲーム機から出される騒音によって消されている。また子はぶらぶらと歩きながら、ゲームをプレイしているカップルや、女子高生、男子高校生を眺めた。

(いいなぁ……私もあんな風にくっついて、キャーっ! 晋介様これやってぇ、とか、キャー晋介様すご〜い、何て甘えてみたいッス。いっつも晋介様は無表情か、人を馬鹿にした態度でキザに笑うしかないッスもん……)

付き合ってもらえただけで十分。
そんな風に思っていた自分が、どんどんとよくばりになっている様な気がする。
人が、周りが羨ましくてたまらない。人並に嫉妬だってした。
勿論、高杉がちゃんと自分の事を好いていてくれているのは分かっている。
あの人は、自分が行為を持っていない人が側に寄るのが、嫌いだと分かっているから。

けれどこの時々感じる虚しさはなんだろう。
考えちゃいけないと思ってみるけれど、考えてしまうのだから仕方ない。

無意識にまた子はため息をついていた。
考えても仕方ない。そういう高杉に、自分は惚れたんだから……。

また子は気分を変える様に、館内から出た。
するとすぐに、自分の視界に桃色の髪が目に入った。けれどそれはあっと言う間に走り去っていってしまった。
(あれ……。今の神楽ちゃんっスか? でも沖田さんに……)
また子は足を止め、視界の隅に入った神楽の姿をもう一度思い浮かべてみた。

――――泣いてた!!

思うがすぐに、また子は神楽の後を追う為に地面を蹴った。
神楽が走って行った道は、普段通る下校道。何も考えずに走っているぶん、いつも自分が歩きなれている場所を無意識に選んでいた。

となれば――――。
また子は走った。
泣きながら走っている分、神楽の方が分が悪い。また子は全力で神楽の後を追う。
神楽が走っていく方角は、間違いなく神楽の自宅。しかも簡単な一本道。
(沖田さん、一体神楽ちゃんに何したんっスか!)
走りながらまた子は思った。
神楽の思いを知っているぶん、沖田への苛立ちが気持ちの中に広がる。

走っている内に、神楽の背中が見えた。
「神楽ちゃん!!!」
考えるより先に、口が動いた。神楽の足は失速した。振り返った神楽の頬は、涙にまみれ、息が上がった所為で頬が紅潮していた。走るのを止めた神楽の肩は、泣きながらも激しく上下している。また子は神楽に近づくと、速度を緩めた。息を切らしながら神楽へと近づく。
「神楽ちゃん……」
整っていく呼吸の合間、もう一度神楽の名を呼んだ。そして神楽の前でピタリと止まった。神楽の息は整わない。まだしゃくりあげながら嗚咽を出している。刹那、また子の視界に、神楽に、ぎゅっと握られた、つぶれたマドレーヌの姿が入った。
「嘘……これ沖田さん……が?」
神楽はお菓子をぎゅっと胸の前で握り締めた。神楽の呼吸は荒い。
「なんて酷い事を……何で……?」

また子は勘違いしている様だった。
ちゃんと沖田は受け取ろうとしていくれていた。それは確かだった。
けれどそれは、沖田の中で、何よりも優先するべきことではなかっただけだった。勿論それは神楽にも分かっていたけれど、ショックが大きすぎるあまり、また子の誤解を解けなかった。

また子は神楽の手の中から、そっとそれを取り上げた。
「神楽ちゃんが、一生懸命作ったものなのに――――」


神楽の事を大切だと思っていた沖田が、傷も癒えていない神楽に酷い事をした。それはまた子自身にもショックな事で、また信じれない事だった。けれどこうして今神楽は心を痛めて泣いている。

「一言沖田さんに言ってやらないと気がすまないっス」
ぼそりと言うと、また子は携帯を取り出した。もの凄い速さで沖田の名を探す。そして見つけると同時、ボタンを押し、自身の耳にくっつけた。

「ピーピーピー――――…………」

甲高い高音にまた子は顔をしかめ、耳から携帯を離した。
画面を見ると、全て消えている。
また子は、イライラと空を仰いだ。

「あ〜〜もう! 何でこんな時に充電切れ?!」


・・・・To Be Continued・・・・・

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