act 27
息を切らしながら沖田が教室へ戻った時には、既に神楽はいなかった。
勿論、それはあくまで想定範囲内。あんな事をしてしまって、そして泣かせてしまったのだ。居るはずがない。
だから一応の行動だった。
一応、教室を見ただけ。あくせく翻弄したあげく、実は教室にいましたという事にならない様に。

(ちくしょう――一体どこにいきやがった――っ!!)
怒りをあらわにしたのは、神楽にではない。自分に対してだった。
こんな事になって、はじめて沖田は近頃の自分をふりかえってみた。
(何があいつの為だ……思い切り傷つけちまったじゃねーか)

後悔に駆られながら、沖田は教室の床を蹴っていた。

おそらく高杉に声をかけられた後、すぐに神楽は出て行ったのだろう。
頬を涙でぐしゃぐしゃに濡らして、つぶれかけた沖田へのプレゼントを持って……。
目をつむると、神楽の泣き声とともに、容易に泣き顔が想像できた。

自分がしようとしていた事は、間違いなく復讐。神楽と同じような恐怖を、神楽と同じようにぐちゃぐちゃにしてしまいたいと言う、結果自己満足の世界。
神楽は何度だって言っていた。そんな事はしなくていいと。
だから神楽は事件の事を口にだって出さなかった。勿論、あんな事、早く忘れてしまいたいと願う気持ちもあるにきまっている。でもそれ以上に、口に出せば、きっと沖田が変わってしまうと恐かったから…。

沖田は校舎を出て校門をくぐるも、神楽が何処に行ったか検討もつかず、足をとめた。
全速力で走った沖田の体は、一気に汗をふいた。沖田は汗を拭ったあと、携帯を取り出した。
高速に切り替わる携帯の画面は、神楽の名前を出す。すぐに沖田はボタンを押した。しかし当然電源は切られている。沖田は焦った。恐らく過去に感じた事のないほど焦った。

あいつを襲った奴らが、この街に来ている。
高杉は確かにそう言った。
髪をくしゃくしゃとさせ、何度も落ち着けと思ってみた。けれど心は焦るばかりだった。

(落ち着け……しっかりしろ! まだ捕まると決まったわけじゃねぇ。あいつが見つかる可能性なんざ限りなく少ないはずだ――)
心臓の音はどんどんと高くなるばかり。
沖田は必死に平静を取り戻そうとした。

「沖田!!」

名を呼ばれ振り向いた先に姿をあらわしたのは、高杉だった。
理由も言わないまま飛び出した沖田だったけれど、その取り乱し方は、尋常じゃなかった。
沖田を追うように教室へむかったが、既に沖田は飛び出した後。その後を追うように高杉はこの場所へとたどり着いたのだった。

「おい、何かあったのか?」
あった。確かにあった。しかし今は説明する間もおしい。
だがこの先のことを考えると、協力は必須だった。
「あいつが何処かにいっちまった。場所は分からねぇ」
沖田の言葉に、高杉はひくりと喉をならした。

「このタイミングでか? あいつら……桃色の髪の女を捜していると言ってるんだぜ?」



平静を保て……。

沖田は静かに目を閉じ呼吸を促した。
神楽を襲った相手は、神楽を探している。だからこそ早く見つけなければならない。

高杉は口をひらく。

「大体、何でそんな事になっちまったんだ?」

「俺があいつの気持ちを踏みにじるような事をしちまったんでェ」




――――沖田は黙ったまま神楽の行きそうな場所を考えてみた。
しかし分からなかった。こんな事になるなら、GPS機能をつけた携帯を持たせばよかったと後悔をした。

「とりあえず、全員に連絡」
高杉はポケットから携帯を取り出した。

嫌に焦ったままの沖田の態度は、高杉の頭に、どうしても拭えない何かを植えつけていた。


・・・・To Be Continued・・・・・


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