番外編

扉一枚隔てた向こう側…銀ちゃんの声や、姉御の声が聞こえる…
でもそんな事何も見えない、何も聞こえなくなるほど、目の前のこの男に、
この男が落とす横暴な温度に翻弄されたい…そんな私が居る

「んっ…はッ…んぅ〜…」
酸素なんて吸わしてくれないの知ってる
狭い脱衣場の中であたしと総悟が酸素を食い尽くしてるから…
だってほら、目の前の鏡が息で曇り出すほど…
でも、コレが好き、このキスが好き、好きって伝わるから
大好きって噛み付かれるから…

だから私はいつもこのキスに没頭するの。
馬鹿な総悟…、狙ってやってんのに…




「かぁぐら〜」
突如、扉一枚隔てた向こう側から声が聞こえる。
(銀ちゃん!)
咄嗟、神楽は、生暖かい舌を押し戻し、、その温度から逃げた
そして、強く胸板を押す。

「かぐら〜。」
近づいてくる声、
「銀ちゃ…んぅ〜んっ、、ちょっ総悟やッ…めるアル!」
神楽はそう言うが、沖田は全く止める様子は無く、むしろその力を強めた
嫌がる神楽をのその両腕をドアに貼り付けにし、更に自身の両腕で固定する
そして首筋に噛み付いた

「やぁッ――。」
正直、こんなはずじゃなかったと神楽は焦る。いつもは、ちょっと強く、でも甘ったるいキスに溺れるだけ…
なのに今日は何か違う…。ゆえに段々と神楽は焦りだす

噛み付かれた場所に、僅かな痛みと甘さ…
体の芯から込み上げて来るものに、思わず貌を淡く歪め、そんな神楽の様子を、さも満足そうに沖田は笑った…。

そんな沖田の様子を神楽は頬を膨らまし、ぶんと腕を振り、沖田の手を払いのけた。
自分から仕掛けておきながら、このままでは本当に、溺れてしまいそうな自分が居たので、力ずくでドアを開ける
そのままドスドスと音を立てて廊下を歩き、その足を皆の元へと向ける。

しかしその耳まで赤く染まった色までは隠せず、後ろから覗く沖田は思わず吹く。
「あのさぁ〜、君たちのイチャイチャ恋愛美学にいちいち銀さんを利用するのやめてくれませんかァ?」
丁度奥の部屋に居た銀八が沖田の背中に声をかける
「いや、すいやせん、あいつ分かりやすくて。」
「ったく、馬鹿だね神楽も。狙ってやったと思ってっけど、ワザと乗ってるのに気付いてねェとわな。」
「旦那ァ、そんなトコが可愛いんでさァ。ほんとあいつ馬鹿…。」

そう言った沖田の視線はたまらない様に神楽を見ていた。

「あれ?神楽ちゃん、顔真っ赤だよ?どうしたの?。」
覗き込むように新八は神楽に近づく。余計わっと染まっていく神楽の頬を自分で包む。
「な、な、なんでもないアル!。」
焦りが外に出てしまった神楽を新八は頭をかしげ見ていた。
気持ちを落ち着かせようと、先ほど銀時が買ってきた500mlのジュースパックを持ち、ストローから飲む。
するとそのストローからは、甘ったるい苺味が吸い込まれてきた。一瞬神楽は顔をしかめたが、そのまま何も言わずに飲み込んだ。

「うをぉぉ!神楽ァ、て、テメー俺の苺牛乳を飲みやがったァ!なんて事してくれてんだコノヤロー!」
奥から剣幕を上げ銀八が部屋に乗り込む。神楽はストローから口を離す。
潤った喉が比較的、ドキドキと打ち鳴らす自分の中のハートを沈ませた事で冷静になれていた。
ストロー口を銀八にもって行き、飲む?と言うしぐさをする。
それに何も躊躇する事なく銀八は口をつける。
「おいしい?」
「あったりめーだ!てめーが飲んでなきゃ、まだ堪能できたのに、見ろ!後ほんのちょっとしか残ってないじゃねェか!」
神楽は、その後、ほんのちょっとしか入っていない500mlの苺牛乳のパックを銀時から取り上げ、再びイタズラな笑みを浮かべ、ズズーと音を立て飲み干す。
見る見るうちに銀八の口は大きく開いていき、焦燥感に捕われ、酷く悲しみの表情を浮かべ、オプションにはきらりと光る涙まで浮き上がらせた。そして突如、目を吊り上げ神楽の細い肩をぐわしっと掴み揺さぶりながら叫んだ

「オイィィ!!神楽っ!テメッ何しやがる!俺の苺牛乳を返せコラァァ!」
揺さぶられながら神楽はキャッキャと笑う。カクンカクンと神楽の頭は揺れる。それさえも楽しいらしく、神楽は声を上げて笑った。
そんな一連の行動を見ていたのは其処にいる新八や妙、近藤、土方だけではなく、奥から出てきた沖田も例外ではなく、眉間に深く皺を刻んでいた。神楽と銀時は、コレが日常の光景であり、気にとめる事が一つも無かったのだが、さすがに少々周囲は沖田に同情をみせ、少しこまった様に笑った。

そんな様子を気が付かない神楽と銀時は、相変わらず二人でじゃれている。
見かねたお妙が神楽に声をかけた。
「ねェ、神楽ちゃん、ちょっと…。」
笑いがおもそこそこ、神楽は首をかしげお妙についてリビングから出て行った。
銀八は瞬時にその理由を理解できた様で、バツが悪そうに耳の後ろを掻き沖田に背を向けた。
しかしどうにも無意識に出てくるしぐさなモノで余計に性質が悪い。銀八と神楽が過ごしてきた年月は、沖田と一緒にいた時間よりも遥か長い。その時間を埋めようとする沖田にはそれが強い嫉妬の要因になっている事もちゃんと銀八は理解している。しかし神楽がいつもの様子なのでどうにも調子が狂ってしまうのだった。



「ねェ、神楽ちゃん、前から言おうと思ってたんだけど、ちょっと銀さんと近づきすぎって言うか…。」
寝室へと手を引かれ、パタンとドアを閉められた。お妙は言いずらそうに言うが、神楽は何の事だか全く分かっていないようで、又もや首をかしげる。
「話しちゃいけないって事アルカ?」
「違うのよ、そうじゃなくてね、…仮にも神楽ちゃんには将来を考えている沖田さんが居るわけじゃない?その人の前でって言うか…沖田さんの前じゃなくても何だけど…。」
ひたすら困った様な表情をお妙は見せる。神楽を傷つけないよう遠まわしに言うが、どうにも伝わらないもどかしさ…。
「私、銀ちゃんの事、そんな目で見た事なんて…。」
お妙の言ってることが若干分かった様で、神楽は傷ついた様な視線をお妙に見せた。
「か、神楽ちゃん、違うのよ、誰も変な目で見たりしてない。そうじゃなくて――――。ごめんなさい。」
見る見る神楽の貌が変化していくのをお妙は気付き、思わず言葉を止めるしか出来なかった。

.....

「ねェ、あたし、銀ちゃんの事変な風に考えてないヨ。」
神楽は沖田が、このマンションに住むと二人で決め、記念に買ってくれた大き目のソファに深く腰掛け、その足を折り曲げまだ荷物の手ほどきをしている沖田の背中へと言葉をちっちゃく投げた。

あれから程なくして、皆は帰り簡単に二人きりとなった。
帰る直前までお妙は、神楽にごめんねと謝り続けた。神楽は微笑みながら首をふり、気にしてないと答えた。
そんな神楽の表情を誰一人と見逃す事なく、しかし、その言葉とはうらはらな表情に思わず口を閉ざした。
玄関からでていく銀八に、神楽はいつもの様にハグをしようとする。
が、寸での所できゅっと足をとめた。

「ば、バイバイ…銀ちゃん。」
歪ませたその貌から搾り出す様に言葉を出した。
俯く神楽に銀八は、あたまをくしゃくしゃとする。俯いたままの神楽を銀八は見ると、皆と一緒に出て行った。

それから沖田は神楽に顔を向けようとはしない。しばらくは神楽も同じように荷物の手ほどきをしていたが、どうしても集中出来ない。
あたまの中でもやもやと霧がかかったように出てこない答えを探したが、結局その回答は出てこなかった。
引越し一日目からこんなのは嫌だと神楽は、言葉を出した。
しかしその声は、細く弱弱しいものだった。

沖田の背中に問ってみたが、その背中は返事を返さない。
神楽は思わず膝を抱えたまま顔を突っ伏した。堪えることが出来そうになかった涙を必死に隠そうと…。

すると、横に人の気配を感じた。
誰の気配かなんて聞かなくても分かる。一人しか居ないから。
それでも神楽は滲んだ頬の上の涙が恥ずかしく、顔をあげなかった。

「お前さ、俺と銀八って…。」
神楽の耳にやっと聞こえた沖田の問い。神楽は顔をあげながら答えた。
「総悟アル。決まってる…なんでそんな事…ッ全然信用してなっッ…。」
ぽろっと零れた涙を今度は隠さず、素直に頬に伝わせた。
沖田は、目を細め、神楽の頭を抱えるように抱き締めた…。
....

どうしても…どうしても…。
不安が拭えない、『あたし、銀ちゃんの事変な風に考えてないヨ』
分かってらァ、そんな事。てか変な風に意識なんぞしてみろ。そんな事絶対ェ俺が許さねェ。
ずっと俺の胸の中から閉じ込めて、金輪際会わさねェ…。
正直、なんで俺が銀八に執着するのか、自分でも分からねェが、嫌で嫌でたまらなねェ。

銀八とは、口を重ねない?体を重ねない?んなモン当たり前ェでィ。
てか、想像したくもねェ。
あぁぁぁ!マジでムカつく。自分の胸の中に今コイツは居るのは分かってるはずなのに。

ホラ、頬に手をやるとこいつの頬は淡く染まる。コレは俺の特権。俺だけの神楽だ。
俺が顔を傾けるとこいつはゆっくり、その綺麗な蒼色を閉じる。重なる感触も、温度も、甘く儚く消える声色も…。俺だけの特権。

俺以外の奴にはこんな表情は見せねェ。だけど、恐いんでさァ。こいつが俺より、あいつを選ぶのが…。
そこにどんな理由があろうが、些細な状況であろうが、俺よりあいつを選んで欲しくねェ。
そう思う俺は、わがままなのだろうか…。

……To Be Continued…

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