キュレム戦前
bookmark


side:ミズキ

「初めてだった」
彼がこんなに感情を表に出したのを見たのが
「始めてだった」
自分がこんな感情を彼に抱いたのは
「創めてだった」
自分を犠牲にしてまで守りたいという気持ちが分かったのは
「…はじめてだったんだ」
こんなにも《死》を恐怖したことが
「もう、感情なんて消えてたと思ったのに」
どうやら僕は、私は、まだ"生きて"いたらしい


どうして僕まで巻き込まれているんだろう。
そんなことを思いながら、かつてジアは潰したはずのプラズマ団……を性懲りもなく復活させた男、ゲーチスとシナが対峙している現場を岩陰に隠れながら見ていた。
あの女のことは個人的に大嫌いだし金輪際関わる気はなかったが、どうやらジアの昔馴染みだったらしい。
そのせいで無視できない存在になってしまったのが厄介極まりない。
正直な話、ジアの方があの女より『弱い』のだからこんな危険な場所にはいなくてもいい。
しかもあの女は並大抵のことじゃ死なないだろうし、例え死んでも『また生まれる』だけだろう。
ジアはそんなことを知らないし知る必要もない。あの女の事情にジアを振り回させるつもりはないからだ。
何かあれば自分がなんとかすればいい。
それなりの実力があることは旅でも証明できているし、その他の経験や知識を加味すれば一番動けるのは僕だ。


考えでコクヤにイリュージョンを使ってもらって僕たちの姿を誤魔化し、相手の様子を伺っている状態だ。
表に出ているのは僕とコクヤの二匹だけで、他の仲間はモンスターボールの中。
僕的にはもう少し出してほしいところだけど、ジアが言うから仕方なく妥協した。駒は多い方が便利なんだけどな。
……どうしてナナクサじゃなくて僕が出ているのか?
それは僕がジアに頼んだから、それ以上でもそれ以下でもない。理由は聞かれなかった。
まあ、そのせいでナナクサには詰め寄られたしアカツキには嫌味を言われたけど痛くもかゆくもない。

ゲーチスがキュレムに命令を出すのを聞いてシナに直接攻撃するつもりだと確信した。
この状況は良くない、いくらアイツが人外であり僕と同じでも下手したら死んでしまう。それがなくても人外だとバレるだろう。僕としては一向に構わないけど今はジアがいるから止めなければならない。
そんなことを考えていた僕の横を風が通り抜けた、それと同時にコクヤの焦った声が聞こえる。嫌な予感がして風が通った方を向くとジアがシナのもとへ走り出していた。
っあのバカ!死ぬ気か!!
コクヤは反応が遅れて間に合いそうにない、他の連中はボールの中だがジアが何かを言ったのか出てくる様子はない。居ても立ってもいられず僕はジアを追いかけ走り出した。
「シナァ!!!」
「えっ、きゃあ!」
普段声を荒げないジアが切羽詰まった声でシナの名前を叫びながら、彼女を突き飛ばした。けれど自分はそこを退く気がないのか、それともよけられないと判断したのか。キュレムの方を睨み付けるようにしてジアの動きはキュレムの目の前で止まった。
威勢よく見せてるのか何なのか知らないけど、強く握られた右手が震えてることくらい気付きなよ。これだからバカは好きじゃない、自己犠牲なんて以ての外だ。嗚呼、虫唾が走る。
苛立ちのまま僕はジアのもとへ駆けつけると同時に後ろから声が聞こえた、聞き覚えのある声。そして聞こえた技名に僕は確信をもって[まもる]を使う。ジアに届く前に相殺された技は威力のその強さから爆発と爆風を巻き起こした。後ろでジアが息をのむ音が聞こえて無理しすぎだと怒鳴りつけたくなるが、気が抜けない状況であることには変わりないから我慢した。
正直、今すぐゲーチスに技なりなんなり打ち込んでやりたいくらいムカついたけどジアの身の安全の方が大事だ。それに、人に向けて技を話すのはジアが良しとしないだろうから本当は裏で抹殺したいところだけど見逃してやることにする。きっとそこまでする価値もなく崩れ去るだろうから。
友達と呼ばれるポケモンから降りた彼は最後見た時と変わらず目が死んでいたが、表情は前と比べ生き生きとしていた。その表情も今は怒りや悲しみ、正義感を混ぜたような複雑そうな表情だったが。
まあ、あとはアイツがなんとかしてくれるだろう。あれでも神に近い存在だし強硬手段になろうが話し合いだろうがどうとでもできそうだ。僕はジアに被害がいかないように隅の方にでも引っ張っていこう。
そう思って振り返るとジアはガタガタとうるさく揺れるモンスターボールは押さえつけていた。ナナクサのボールなんてもうベルトから外れそうなくらい揺れている、ナナクサの懐きようは異常だし仕方ないけど。
だけど、死ぬかもしれなくて怖かったくせに助けられたくないなんてやっぱりバカだ。ジアの態度に呆れながら、かすかに震えているジアの手を取り無理やり引っ張っていく。
「さっきから僕が柄にもない行動をしているのもあれだけど、コクヤもどうにかしてよね」
「…悪い、色々ぶっ飛んでてついていけなかった…」
「僕がいなかったらどうしてたのさ、うちの連中は本当こういうとき頼りにならないね。そんなんじゃその内死ぬよ?」

「…ミズキ、なんで…」
「助けに来たとか聞いたら殴る、言わなくても殴るけど」
「…ああ、…わるい……」
「別にー、僕は僕のしたいことをしただけだよ」

目の前で消えるなんて、知っていて助けられないなんて、あの時のようなこと――――もう二度と許さない。
そう決めたから、他に理由なんてない。


prev|next

[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -