影月深夜の憂鬱3
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姉から渡されたカプセルのようなどこかで見たことのあるボールを指でつつきながら、テープルの向かい側に座る新たな同居人を見る。
同居人は艶のある長く伸ばされた赤紫色の髪に、意思の籠った漆黒の目をしたイケメン(言わずもがな男)だ。
服装は和装だが動きやすいようアレンジ…否、考慮されているようだ。着物を改造した感じと言えばいいのだろうか。
同居人の彼にとてもよく似合っている、外見的におそらく僕より年上だろう。二十代前半辺りだろうか?
こちらの視線に気づいたのか同居人もこちらを見つめてくる。そんなにまっすぐ見つめられると穴が開きそうだ、冗談だけど。
…僕の顔見ても何もありませんし、姉と違って僕は美形耐性ないんです。だからこっち見ないでください。
何て言えるわけがないため、視線を逸らした。ああ、家族と親友以外で誰かが家に居るなんて落ち着かない。
いくら一人が寂しいと言ったからって、突然同居人が来るとは思わないじゃないか。姉の行動力は色んな意味で凄いと思う。
気まずい沈黙の中、何を話したものかと考えていると聞き心地のよいアルトボイスが聞こえた。
「ジュウヤから説明を聞いたか?」
「え、いや…特には」
「そうか、だから気まずそうにしているんだな」
僕の言葉を聞いて納得したように同居人は頷く、説明されても気まずいのは変わらないと思う。
姉さんは来ていきなり、「今日からコイツがここに住むから、もう一人じゃないぞ」と言って。
カプセルのようなどこか見覚えのあるボールを僕の手に押し付けて、同居人を置いて帰っていった。
説明も何もあったもんじゃない、それに渡されたこのボールに姉の行った世界が予想できてしまい嫌な予感しかしない。思わずため息を吐いてしまう。
そんな僕に何を思ったのか、同居人にそっと頬に触れられびくりと肩が跳ねる。あの、さっきより近くないですか…?
「な、なに…」
「ため息を吐くと幸せが逃げるぞ」
そう言って僕の頭を撫でる、その手つきが優しくて同居人の顔を見ると穏やかな眼差しでこちらを見ていて、思わず顔が熱くなる。
いやいやいや、なんで男に撫でられてる上に照れてるの僕!
僕が混乱している間にも同居人は頭を撫で続けていて、少しも落ち着けない。だんだん顔が熱くなってきて頬に手を当てる。
そんな僕を見て同居人はクスクスと笑った。か、からかわれてる…!
「…からかわないでくださいよ」
「いや、あまりにも可愛い反応だったから新鮮でな。からかったつもりはないんだ、気を悪くしたならすまない」
え、今恥ずかしい台詞を普通に言いませんでした?それに男に対して可愛いって言葉は褒めてるの?
少し不貞腐れていると同居人が真面目な顔になっていて、釣られてこちらも姿勢を正してしまう。
「俺がここにいるのは嫌か?」
そう言った同居人の表情は寂しそうで、なんで今日会ったばかりの僕に対してそんなことを言うのか分からない。けど…
「嫌じゃない」
今日会ったばかりの同居人に何を言っているんだろうね、だけど寂しそうな表情をされて断れるわけがなかった。
僕だって、姉と親友がいなくなった日から寂しいとずっと思っていたのだから。そんな思いを同居人にまでしてほしくないから。
「だから、別に…居てもいい」
最後までハッキリと言えず、声が小さくなってしまったが同居人の嬉しそうな顔を見るにちゃんと伝わったらしい。
…あ、そう言えば同居人の名前まだ聞いてなかった。
「ところで、同居に…じゃなくて貴方の名前は?」
「名前は特にないな、バクフーンって種族名ならあるが」
「…え、はい!?それじゃ…この、カプセルのようなボールって」
「モンスターボールだが…ジュウヤはそこも説明してなかったのか」
どうやら姉と親友はポケモンの世界にいるみたいです。…実は夢でしたー、みたいな展開起きないかなと思わず頬をつねった。


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