もしもと言う名の事実の話
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side:フルーヴィ

俺が短命ってことは多分、ほとんどの人が知らない事実。そして現実。
死期を感じ取る事ができる者以外に、悟らせる気がないのもまた事実。
俺が居なくなっても彼らは上手くやれるから、きっとこれでいいはず。
元々俺一人の自己満足の旅だったんだから、恋しがることなんてない。

最初は道中の小さな村でソヨカゼに「大丈夫ですか」と声をかけられ。
あまりに俺の言動に心配を覚えたのか、彼が着いて来ることになった。
次に薄暗い森で出会ったエルリリラが「面白そうだね」と言ってきた。
俺を見て少し眼を見開いた後、有無言わさず憑いて来るようになった。
この時からエルリリラは分かっていたのだろう、先が短いという事に。
次はソヨカゼが群れから逸れたらしいテルビルトを連れて帰ってきた。
旅は道連れ世は情けと言うし、俺はどっちでもいいって軽く流してた。
それからテルビルトが群れに帰ることはなく、俺達に連れられ続けた。
それでも彼にとって今後の成長に良くも悪くも繋がる事を体験できた。
俺はこれでよかったのだと思う、彼が成長したことも実感できたから。
次にラジロウ、彼もソヨカゼが連れてきたが予想外の記憶喪失だった。
帰る場所も分からないとなると関わった手前、放っておく事もできず。
彼も旅に同行する事になった、彼はそれでも気にしていなかったけど。
俺は彼に悪いことをしたんじゃないかと、今も思っていたりするんだ。
選ぶ事のできない選択肢のようなものだったと感じたから、…ごめん。
最後にハンシェ、彼女には俺が「一緒に来ないか」と声をかけたんだ。
彼女はあまり自分のことを語りたがらないが、他人には干渉的である。

そんな寄せ集めのメンバーで様々な所を旅して、色んなことを知った。
時にはトラブルに巻き込まれ、楽しく観光をし、毎日が輝いて見えた。
だけど、それを終わりにしなければならないことも俺は分かっていた。
だから、最初に始めた俺が最後を告げる役割があると俺は思っていた。
俺が旅の最後を告げたとき、彼らはこれから何をしていくのだろうか。
ソヨカゼは巡礼をするのかもしれない、日曜学校の先生も出来そうだ。
エルリリラなら各地を歌って回るのも良いだろう、彼女は歌が上手い。
テルビルトは街にでも行って、仕事なり何なりを探すかもしれないな。
きっとラジロウはテルビルトに着いて行くだろうから、大丈夫だろう。
ハンシェは実家に帰ることになるだろう、上手く行くと良いのだけど。

さて、ここで問題が一つ。旅が終わったその時。俺は、どうしようか?
行きたい場所はある、一つだけ。その近くに住みたいとも感じている。
だけど、彼の迷惑になるのは望んでない。心配をかけされるのも嫌だ。
近くに住んでしまえば、俺の隠していることもいずれ分かってしまう。
彼もそれなりに俺との付き合いが長い訳だから、気付かれたくはない。
それ故どうしようか悩んでいて、旅をしていれば言い訳ができるのに。
いつの間にか居なくなったなら、旅先で何かあったと思うだろうから。
誤魔化すことも簡単なのに、外に出たがらない彼のことだからきっと。
俺が居なくなっても探さないと思う、悲しんではくれるかもしれない。

「…ねえ、ルタ。もし―――」

俺が居なくなったら、君はどうする?なんて、言えるわけもないのに。
不意に尋ねたくなって、だけど口に出せないから結局言わないでいて。

「…ごめん……。やっぱ、なんでもない…から」

いつもより歯切れ悪い言葉を添えて、俺は口を閉ざして目を逸らした。
不思議に思われたような気がする、けどやっぱり言えず仕舞いだった。

こんなこと、優しい彼に言える訳がなかった。困らせたいんじゃない。
これを言えば君はきっと困ってしまう、なら俺は告げることを止める。
きっと俺は君を置いていくだろう、自分から関わっておいて酷い奴だ。
出来れば俺のこと覚えておいて、なんて我儘も言わないから。どうか。
君が俺の事情を知らないままで、俺のことを忘れて生きてくれたなら。
そうしたらきっと、俺に未練なんて残らない。…残せないの間違いか。
だけど、少し可能性として危惧する事がある。絶対に避けるべきこと。
ルタが俺の短命に気づいてしまう事、ゴーストタイプである彼のこと。
もしかしたら、そういったことも感じられる可能性があるって例え話。
もし、それで気付かれてしまったら。俺はどうしたら良いだろうか…?
君に何かを言われるだろうか、気付いても何も言わないかもしれない。
…結局考えたところでまとまる事がなかった、時間の無駄だったかも。
とりあえず、その時に何とかするしかないか。考えるのも、…疲れた。
こんなに思考が働くなんて久し振りかもしれない、それはそれで怖い。
反動とか来なきゃ良いけど―――――――、ここで俺は思考を止めた。


もしもと言う名の事実の話
(もう、どうしたらいいか分からない)
(けど、どうしようもない事実だから)


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