なんでもない日常一コマ
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side:ウラン(オタマロ♂)

『ヒウンシティでの本日の天気は、生憎の雨でしょう』
朝聞いた天気予報のお姉さんが告げた通り、ヒウンシティについたときは雨が降っていた。
ジアがヒウンシティで「用事がある」と言ったため、その付き添いとしてナナクサを始めとした仲間たちと来たわけだが……。
簡単に言うと、俺の出番がない。
というか、ただでさえ俺は(あまり認めたくはないが)強くないから出番が回ってくること自体少ない。
それが、ナナクサがいると余計なくなる。
ナナクサは俺から見ても異常に感じるほどジアの役に立ちたがるし、傍にいたがる。相棒だからという言葉だけでは到底片付けられない。
ジアが「白」を「黒」だと言ったら、ナナクサも「黒」と判断するだろうと思うほどにナナクサはジアを好いている。
別に、それをどうこういうつもりはない。俺もジアのことは主人としては好きだしナナクサのことも嫌いじゃない。
ならそっとしておくのがいいんだろう。そう漠然と思った。
だからいくら強くなりたいと意地を張っている俺でも邪魔になりそうなことはしない。
それがナナクサに出番を譲ることにつながってしまい、俺はこうして暇になってしまうわけだ。

ジアに宛がわれたポケモンセンターの一室で窓の外を見る。雨が窓ガラスを打つ音、地面を打つ音が心地よい。
ナナクサがいるなら心配はいらないし、今回のメンバーは特に面倒を起こすタイプでも騒ぐタイプでもない。
なんといっても今日のジアの手持ちは相棒であるナナクサと同じく一軍のヒョウキとメロ。二軍サブリーダーのリィナに、同じく二軍のコクヤ。そして俺の6匹。
ナナクサはさっきから言っている通り、ジアの付き添い兼護衛だ。……そもそもジアは護衛が必要ないくらい強かったりするが、まあ念の為だ。
ヒョウキは紅茶を淹れて部屋に備え付けられているテレビを見ている。
こうしていると静かで穏やかなんだけどな、普段の苦労してるヒョウキしかしらない奴は驚くかもしれない。
いつも悪戯やトラブルに振り回されて、キレている……いや、苦労している印象しかないが彼は本来落ち着いてる人物である。
「ん?どうした、ウランも紅茶飲むのか?」
飲むんだったら淹れるぞ、俺の視線に気づいたらしいヒョウキがそう言って笑った。本当に、周囲のせいで損をしている人物だと思う。
じゃあ飲む、と一言返せば手際よく紅茶を淹れて差し出された。
普段からよく飲んでいる姿を見ているとはいえ、慣れたものである。
「これ美味しいね、何の紅茶なの?」
ヒョウキとお茶をしていたらしいリィナがいつもより声を弾ませた様子で口を開いた。
それにヒョウキは嬉しそうに何の茶葉かを語り始めたが、俺は特別興味があるわけではないから聞き流して香りを楽しむことにする。
リィナはいつも笑っている―――目を閉じていることが多いから、表情から感情を読み取るのが少し難しい。
リィナいわく、自身の特性は一般的なものとは違う特殊なものらしく『おみとおし』なのだと言っていた。
その影響からか普通は見えないようなものまで視えるらしく、意図的ではないとしても良くないだろうからと目を瞑っているらしい。
俺にはそれがどのようなものか分からないから聞いたことから想像するしかできない、つらいとは言わないが疲れそうだとは思う。
そう思っているとガチャリとドアが開き、メロとトキの二人が帰ってきた。
備品の買い出しに付き合っていたようだが、どうやらジアから先に帰っていいと言われたらしい。
トキが何かが入っているビニール袋を机に置いて一言。
「せっかくなので、雨ですけどヒウンアイス買ってきました」
「雨なのに?」
「はい」
寒くない?と言うリィナに対して、トキはちょっとしたいたずらが成功したといわんばかりに微笑んだ。
トキは普段あまり笑わないし、なんなら冷たい印象を受ける方が多いからこういう笑顔は貴重だ。
ベラドナとよく揉めてるからヒョウキと同じように誤解されがちだし、可愛いというよりは美人系でお淑やかというよりは凛々しい感じなのも影響してそうだ。
俺と思うところは違うみたいだが彼女も強くありたいらしく、俺は彼女に親近感を持っている。
……と言っても、俺はトキとあまり話したりはしない。
嫌いだからとか苦手だからとかではなく、トキが『男性』を苦手としているからだ。
仲間に対してはだいぶましになったらしいが、最初合ったときは酷いものだった。
「半径3メートル以内に入らないでほしい」と言われたときは、本気でどうしようかと思った。
主人だからなのかジアは最初から大丈夫だった。トキいわく、兄に雰囲気が似てるとか?
そんなことを思い返しながらリィナとトキのやり取りを眺めていると肩をたたかれた。
振り向くと、メロがアイスとスプーンを持って俺を見つめていた。
「ウランさんも……アイス、食べますか?」
「せっかくだし食べる」
アイス片手に首をかしげて聞いてくるその姿は、一般的に愛くるしいものなのだろうなと思いながらアイスを受け取る。
するとメロは安心したように笑って、帰宅した二人に紅茶を淹れるために簡易キッチンへ行っているヒョウキにも声をかけにいった。
「たまにはこういう、平和な日があってもいいな」
そう呟いてアイスのカップを外した。

なんでもない日常一コマ
(アイスを食べたら当然寒くなって、俺は紅茶をおかわりした)


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