某時刻、店にて
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カランカランと開けた扉に付けられた装飾品がが音を奏でる
扉の先は出来た時から変わらないお洒落な店内で、今でも思わず店内を見渡してしまうくらいだ
ここの店の雰囲気に出来た当初から惹かれ、今もこうして足を運んでいる僕は相当なものだろう
それに、この店のモットーが僕にとって都合の良いものだったからと言うのも惹かれた理由の一つだけど…
誰だって安らげる場所では深い詮索はしてほしくないだろうし、当然と言えば当然な気もする
とは言え…なんで路上裏通りにあるんだろうかこの店は、わざとなのだろうか
そんなことを考えていたら店員が突っ立っていると邪魔になるだろ…と呟きながらこちらに声をかけてきた
ごめんなさい、考え事してたら周りが見えなかったりするんだ。それに愚痴は分からないように言うべきだよ
なんて内心思いつつ店内をさまよっていた視線を店員へと定めた

「いらっしゃいませ…ってなんだ、アンタか」
「こんにちは、いつもお世話になってます」

そう言って笑って見せると店員のダクミドは引き吊った笑みを浮かべた、別に店長に悪く言ったりしないから大丈夫なのに
それともただ単に僕が苦手と思われてるだけだろうか、読心術なんか使えないから知らないけど
見た目的には飛行タイプだからなあ、草タイプと虫タイプが多いこの店の店員的には苦手に思われても仕方がない
それに、無理して仲良くしてもらうのも偽られるのもあまり好きじゃないから
鬱陶しいくらい他人に話しかける僕が言うのもなんだけどさ、酷く強く拒絶されたら離れようとは思う
まあ、それが誰かによるんだけどね?

とりあえず、何やら気まずそうに明後日のほうに視線を向けている店員に僕は声をかけることにした
このままだと多分また邪魔になるなりなんなり言われてしまうだろうから、邪魔だとあまり言われたくはない

「ところであの席は空いてますか?」
「…あ、いつもの席だよな?ちゃんと空けてあるんで真っ直ぐ行ってくれよ、後で店長とかが行くだろうし」
「わざわざありがとうございます」

それじゃ、といい僕はいつもの席へと歩き出す。店の一番奥の二人席を僕はいつも一人で使っている
…ぼっちじゃないよ?違うよ?ただ此処に一人で来ることが多いだけなんだからさ
席に向かう途中に会話が聞こえた、チラリとその方向を見てみると二人の店員が会話をしていた

「あ、あの……いいんですか…?」
「ん?ああ、さっきの?アンバーは初めてだっけ、あの子は初期からの常連らしくって店長とも仲良いの!」

だから、あれでいいの。そう言って店員のターニャは笑った、もう一人の店員…アンバーは少し戸惑い気味に頷いていた
クスリと僅かに口角を上げて笑う、他の店員でも僕を知らなかったり名前を知らないものがいるのだろう
僕はよく知っているのだけど、それは本に載ってる物語…ではなくただ単に店長からの話からだ
何故か知らないが僕の範囲に彼女達はいなかった、物語も知らないしもしかしたら変えてしまったかもしれない
けれど、今でも消されていないわけだし範囲外の物語なら誰かを殺したりしない限り消されないのかもしれない
ある意味チートな領域と言い、相変わらず語り屋と言う職業はよく分からない。マニュアルか何かを書いて置いてほしいくらいだ
何処かに他の語り屋がいたりしたら話を聞けるかもしれないが、正直そんな人物には会える気がしない
……僕って引き籠りだしね、用がないと領域から出ない癖やめなきゃなあ…

そんなことを思い少し遠い目をしているとコツコツと靴を鳴らし歩く音と共に、ソプラノの心地の良い声が聞こえてきた

「いらっしゃい、久し振りねロナ」

そう言って店長…ニールは笑った、店長とはそれなりに仲が良いと僕は勝手ながら思っている

「お久し振りですニールさん」
「最近顔見せないから心配してたのよ?」
「あはは…すみません」

ニールさんは何故か必要以上によくしてくれている、たまに何か知っているんじゃないかと疑うが
それが分かったからと言って何かする訳じゃないから気にしないことにした、疑心暗鬼になってしまうのもよくないし
ニールさんがぽんぽんと頭に手を置いてきた、何かと思い見上げるとニールさんはにこりと笑った
それに僕が首を傾げていると、お待たせしましたと店員の声が聞こえ振り向いた

「こちら、三種のベリータルトでございます。それではごゆっくりどうぞ」

そう言うと店員のサシャは直ぐ様次のテーブルへと移動していった、何も頼んでないんですけど…とジト目でニールさんを見ると
ウィンクを返されてなんとも言えなくなった、やっぱりニールさんはよく分からない人だ…
地味にサイズがでかいんだけどとりあえず食べることにした、サクリ
うん、文句無しで美味しい。けど何故こう…いきなり持ってこさせたりするのかな!
どうせなら紅茶もつけてほしいなんて我儘なことを思いつつ、ニールさんに話しかける

「美味しいですね、このタルト。僕結構好きですよ」
「それはよかったわ!実はそれ試作品でまだ出してな…」
「ああもうそれは分かってますから、抹茶ラテいただけませんか?」
「もう…素っ気ないわねー、じゃあちょっと待ってて頂戴」

ニールさんが去って行くのを見て僕は溜め息を吐いた、今回は言い出す前に止めれてよかった
お店に出すお菓子の話となると夢中で話すから強制的に長居することになってしまう
僕はそれに何度か付き合わされているけど、最後らへんはもう耳に入ってこないくらいだ
今日は少し寄ったくらいだからタルトを食べて抹茶ラテを飲んだらうろうろして帰ろうと思う
うろうろした時に誰か知り合いに会えたらなー、なんて思うけど会うことは早々ない
それは少し凹むけど、まあ、

「会えなくても、同じ時を刻んでる人が居るんだしね」

そう言って腕時計をそっと指で撫でた、やっぱりお揃いは嬉しいものだと思う
そう思っているとふと誰かの気配を感じ視線を上げた、するとテーブルの前に店員のカツラギが立っていた

「店長に言われて抹茶ラテを持ってきた」
「あ…どうも…」

何故カツラギが此処まで出てきたのかと思ったら抹茶だからか、和菓子だけじゃなくこう言う物も彼の担当らしい
カツラギとはほぼ会わないから意外だった、何故ニールさんは直接来なかったのだろうか
そう疑問に思っているとカツラギに声をかけられた

「ダクミドが店長に怒られていたが…何か言ったか?」
「いえ、なにも」

多分ターニャさん辺りが何か言ったんじゃないですか、僕知らないよ
そう言外で語ってみる、だってニールさんが怒る要素なんて僕にはよく分からないしそんなこと聞かれても困るよ
カツラギはそうか、と言うと何も言わず戻っていった。僕が原因と見たのだろうか彼は
こちらまでその騒ぎが来る前に早く食べて店出ようかなと思う僕だった


某時刻、店にて
(だからなんでアンタはそう態度が…)
(それは何回も聞いてるっての!)
((……早く食べて出よう、うん))



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