某時刻、語り屋の日常にて2
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夢を見た、とてもとても優しい夢を。
それは自分が体験したものより明らかに平和で。
穏やかに、緩やかに、そこの時は流れていた。

「おかあさーん!」

木々が風に揺れる音や川の水が流れる音の中、一際通る声が聞こえた。
僕はそれを聞き振り向く、聞き覚えがある。そんな気がして。
子供は夢に実体が居ない僕を戸惑うことなくをすり抜けて行き。
前方にある、川の近くに居る女性に駆け寄っていった。
それにしても、すり抜けるって…見えてないから当然なんだろうけどさ。
すると女性は子供に微笑みかけ、頭を撫でていた。
口を開いているのに何故か声が聞こえなかった。
なのに、子供の声はよく聞こえてくる。不思議な感覚だなぁ。
女性は何かを子供に言っている、聞こえないのがもどかしくて顔を歪める。
それを聞いた子供はキョトンとしたあと、飛びっきりの笑顔を見せた。
それを見た女性は微笑み、子供を抱き締めた。一体何を言ったのだろう?

少し間女性と子供を眺めていると、そこに男性がやってきた。
子供は男性を見るなり女性から離れ男性に向かい走って行った。

「おとうさーん!!おかえりなさいっ」

そう言ってにぱっと子供は笑う。男性は口を動かし子供の頭を少し乱暴に撫でた。
子供は嬉しそうに撫でられていた。女性も男性に寄っていき、口を動かした。
多分ただいま、おかえりと言ったのだろうけど問題はそこじゃなくて。
…どう考えても、あの二人は…あの子供は………。


ぱちり、そこで目が覚めた。
少し違和感を感じ、頬を触ってみると指が濡れた。
泣いていたと自覚した瞬間に視界が滲む、なんで今更あんな夢…。
ベットから起き上がる気になれず、僕は枕に顔を押し付けた。
夢じゃなくて実際にああなっていたら、よかったのに。
…なんで色が違うだけで……。考えは何度もした、理不尽だと思った。
もし僕の色が違わなければ、幸せな刻は変わらずにいたのだろうか?

「…うっ、…ひっく……生きてるの…かな。二人とも…」

生きているかも知らない、知るはずがない。
追い出された彼に知る術はなかったのだから。


某時刻、語り屋の日常にて2
(まさか、夢に見るなんて…予想外だよ)
(恋しくなるじゃんか、お母さんお父さん…)



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