未来の話、某所にて
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少し未来の話をしましょうか、今から一年より先の話を。
一年後から三年後くらいまでを話したいものです。
前と口調が違うって?いいでしょう?たまには敬語でも。
嗚呼、先に言っておきますが少し流血表現があります。申し訳ございません。
…お聞きになってくださるのなら、どうぞ椅子に座ってください。
最後まで聞いてくれるなら、ですけど。

――――――――
―――――
――

「じゃあ、僕はそれを伝えに来ただけだから」

クラはそう言って椅子から立ち上がり去ろうとした。
しかし、それはブラッドがバンッと勢いよく机を叩いたことにより歩みは止まった。

「ちょっと待ちなよ」

冷たく苛立ちを含んだ声でブラッドは言い放った。
クラは足を止め顔だけをブラッドの方へと向けた。
クラも苛ついている様な表情をしており。
しかし。それはブラッドに向けられているわけではなかった。

「スカイが行方不明ってどう言うこと」
「僕に聞かないでくれる?いくら情報探したって、スカイの知り合いあたっても収穫ナシ。確実に行方不明じゃないか」

そう、二人が苛立ちを覚えているのはスカイが行方不明になったからだ。
ある日忽然と姿を消してから、一ヶ月が経った。
存在する理由のブラッドにも、長い付き合いのクラにも伝えずに。
行方不明になる前の日もスカイはいつもの様に笑い、話していた。
誰も行方不明になると思わなかっただろう。

「一応、情報屋の癖に…この役立たず」
「黙れ餓鬼、僕でもこんなことは初めてだよ」

名前も外見も分かってるのに、何も情報が入らないなんて。
クラはそう呟き、ため息を吐いた。珍しく困った様な顔をして。

「はぁ、スカイも色々首突っ込んで抱えようとしてたからね…何処かの赤目みたいに」
「赤目って…あの時もしかして聞いてたわけ?吐けよ」
「悪いけど、最近は何も食べてないから吐くものないや」

クラはふざけたようにそう言ってケラケラと笑ったが、目は全く笑っていなかった。
ブラッドは馬鹿かと吐き捨て、苛立ちを深くしたが…空を見上げると寂しげな顔をした。
クラは笑うのを止め、ブラッドを見つめた。
少しの間静かな時が流れたが、怪しげに笑いこう言った。

「…心配なんだ?無くしたものが」
「そんなこと思ったことない、スカイはスカイだ」

そう言ってクラを睨み付ける、するととても愉しそうに笑った。

「思おうと思ってなくても、スカイは君の無くした部分で出来ている。君が無くした部分を取り戻せば、取り戻すほど。スカイは空っぽになるだろうね。空になるのも、空って漢字を使うのは…もはや必然的なんじゃないかな」

スカイは目の色が空色だから、という理由からだった名前。
しかし、クラはそれを必然的と呼んだ。
前々から決められていたように言われたようで、ブラッドは気にくわなかった。
必然なんて言葉を信じていないから。偶然も必然も在りはしない。
確かにあるのは沢山の選択肢だと、ブラッドは思っているから。

「…そのせいで行方眩ましたとでも言うの?」
「さあ?本当にそうなってしまうのかなんて、僕は知らないし?」
「無責任。…空っぽになったと同時に消えたりはしないわけ」

そう言いながら、聞きながら…ブラッドはポツリと呟いた。
苦しそうに顔を歪めたブラッドを見て、クラは嘲笑うかの様に笑う。
それは愉しそうに狂ったように、笑う笑う。何がおかしいのかはわからないけれど。

「あははははははははっ!!!君って最高に最低なお人好しだね!!」
「……何が言いたい」
「君はスカイに消えてほしくないみたいだけど、消そうとしてるのも消す権利を持つのも君だけだ。君がスカイを苦しめてるんじゃないの。あははははははっ!!」
「………っ」

それを聞いたブラッドはギリッと歯を食い縛り、苦い表情をした。
クラは笑い続けた、何が面白いのかブラッドには分からなかったが。
ただ、"狂気"と言う言葉と"狂ってる"と言う感想が頭を占めていた。
無意識に恐怖を感じたブラッドに気づいたクラは、ブラッドに近づき髪を掴んで顔をあげさせた。
目を合わせられ息が詰まった様子を見て…そして微笑んだ。

「僕が恐い?赤目の子狐さん?威勢のいい君が恐がるなんて珍しいじゃない、ねえ…」

目は決して笑わない、しかし顔は笑っている。器用なことをするものだ。
しかし、ブラッドは引かなかった。それは彼なりのプライドなのか、それとも…。

「俺だって恐怖を感じることはあるよ、…キミは狂ってる」
「君と違って狂わずにはいられない境遇なんで。仕方ないんだよ」
「……コノヤロウ…殴るぞ」
「ふふっ睨み付けないでよ。なら、殴られる前に転かすだけさ」

そう言ってクラはブラッドの足を狙い、思いっきり蹴った。
クラにしては珍しく、銃を使わず足を使った。
ブラッドは痛みに顔を歪めたが、ボソリとこう呟いた。

「"カウンター"」
「げっ…、ローキック使うんじゃなかったなぁ……なんて、ね?」

なんてねと呟いた瞬間クラは銃をとりだし乱射した。また足を狙って。
避けたが一発だけ、左足に当たり血飛沫が飛んだ。

「…っ!?実弾とか…!!
「ごめんねー?僕さぁ、今凄く苛々してるから加減も何も出来なくって」

へらへらと笑った顔を一瞬にして無表情にし、冷たく言い放った。

「殺されたくなきゃ止めんな餓鬼が」

そう言ってクラは去っていった。たまに変わる口調、他のもの全てを見下す様な目。
…一体何者なのか、何故あそこまで狂っているのか。
まるで、頭のネジが何本も外れているようだ。

「アイツ何者だよ。……痛っ、…どうやって帰るかな、足引きずるしかないけど」

そう言ってブラッドは立ち上がろうとしたが、左足に激痛が走り崩れ落ちた。

―――――――
―――――
――

その後、彼はどうなったのかって?…僕が手を差し伸べた、と言ったらどうします?
冗談ですよ、真に受けないで。語り屋にはそんな資格ないのですから。
語り屋は物語を語ること者なんですから、ね?
ではでは、皆様ごきげんよう。また会う日が来るかはわかりませんが、ね。


未来の話、某所にて
(語り屋は手を差し伸べたかもしれない、直接ではなく間接的に)
(語り屋は語る、物語が亡くなる時が来るまでずっと…)


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