某時刻、前世の話にて昔々、ずっと昔の話。
可能性を信じる青年と、すべてを諦めた少女の話。
少しお付き合い願います。興味のある方は、是非聞いていってくださいな―――。
あるところに、無表情で路地に座り込んでいる少女がいた。
少女は何かを待っているわけでもなく、ずっとそこに座り込んでいた。
最初は興味を持った人や心配した人が声をかけたりしたが、少女は見向きもしなかった。
そんな少女に話しかける人は次第に減っていき、今では誰も話しかなくなったんだ。
それから少女は独りだった、誰も少女の声を聞いたこともなかった。
少女が何を考え、何を思い、何がしたいのか。それもすべて謎だった。
ある青年が現れる前までは。
(人って単純だよね。…息してるのももう嫌だ、なのにいつまでも終わらないし終われない…)
「キミは色んなものを見てきたんだね」
「!?」
少女は目を丸くした。
誰かに話しかけられるとは思ってもいなかった、今では誰も見向きもしないから。
それと同時に少女の中に疑問が生まれた。何故、色んなものを見てきたと思った?
青年はいつの間にか少女の隣にいた。いつ来たのか、何処から来たのかも謎だった。
青年は少女よりも年下であったが、言ってることは子供らしくはなかった。
(…無視して置けばその内どっかいく、皆そうだ)
「残念だけど、俺はキミを置いて何処かに行くことはないよ」
(…心でも読めるの?声に出してないのに…)
「なんとなく分かるんだ。俺、可能性を信じる奴だから」
そう言って青年は笑った。
すると、少女は初めて無表情じゃなくなった。辛そうに泣きそうに顔を歪めた。
「………独りにしてよ…」
「ごめん、それは出来ない。俺はキミの傍にいるよ。独りにはしないから」
青年は立ち上がり少女の手をとり立ち上がらせた。初めて喋ってくれたね、と笑いながら。
少女はすぐ手を振り払おうとしたが、青年は決して離そうとはしなかった。
「…期待させないで、後が辛いから」
「俺は何があっても傍に居るよ。それで、キミが少しでも楽になれればそれでいい」
「……偽善者」
「そうだね。でも、潰れそうな心を抱えてるキミを放ってはおけないから」
「………」
すべて知っているかのような口振りで青年は少女を黙らせ、青年は少女を路地から連れだした。
常に薄暗く静まり返った路地とは違い、街は明るく活気溢れていた。
少女はそれを見て眩しそうに目を細めた。
「……自分と一緒にいたら、何か言われるかもね」
「そんなの気にしなよ、それに俺は街に滅多に来ないから」
「…なんで今日は来たわけ?」
青年は笑うだけで理由を言いはしなかった、理由があったのかなにも考えてなかったのか。
誤魔化した…、そう呟いた少女に青年は苦笑いするだけだった。
歩き続けて数十分、街からも離れてきた場所に一件のお店が佇んでいた。
青年はその店のドアの鍵を開け、中には入り少女の方へ振り返った。
「ここが俺の城、知ってる人は知ってる店だよ」
「…なんか、落ち着く…」
「そう?ならよかった、俺も結構気に入ってるんだ」
一階では飲食店みたいなことやってるんだ、青年はそう言って二階への階段を上り始めた。
しかし、少女は階段を上がろうとしなかった。青年は手招きして遠慮しないでいいよ、と笑った。
少女は少しの間青年を見ていたが、やがて階段を上がりはじめた。
―――二階に上がった後、青年は少女に案内をして部屋も与えたんだ。
二人で住むようになってからは店も少女が手伝うようになって、ありふれた幸せと平和がそこにあった。
でも、人生何が起こるかわからないよね。彼らの国と隣の国が戦争を始めたんだ。
戦争になった理由?さあ、そこまでは僕も知りません。
まあ、それは置いといてください。中略しますが、まだ少しだけ続くのでね―――。
戦争は街の人々を巻き込んでいった。青年と少女も例外ではなく、巻き込まれた。
沢山の爆弾が投下され、軍人が街を攻めてくる。見つかった民は殺されるのみ。
国は民を守ってはくれない、国はお偉方を守って隣国を攻めるだけ。
人気のない道や路地を選び走る、真っ黒なコートを着た青年と少女がそこにはいた。
「…ったく俺らが何したって言うんだよ。国の喧嘩に巻き込まれるこっちの身にもなれ!」
「……やっぱり、人は馬鹿ばかり。信用するだけ無駄…」
「確かに馬鹿ばっかだけど、キミは俺を信じてくれたじゃない」
「…貴方以外を信じるつもりがないだけ、…絶対に生き残ろう」
そういった少女に青年はきょとんとしたが、少ししてから嬉しそうにこう言った。
「そんなの当然だろ」
青年と少女は色んなところへ逃げ回った。旅みたいだと青年がいうと、次は気楽な旅がいいと少女は言った。
最初よりはだいぶ仲良くなっていた。二人だったが、終わりは唐突に訪れる。
二人はとある廃墟に身を隠していたが軍人がそこを調査しに来ていたのだ。
「ヤバいな…、このままだと時間の問題だ。俺ら殺されるぞ」
「…もし、生きる道がないなら貴方と一緒に死にたいな…」
「馬鹿言うな、生き残るって言っただろ?」
「…でも、もう無理だよ…」
青年はそう言う少女を見て悲しそうな顔をした、そして。
「…いいか、キミは絶対に生き残れ」
「…え、何言って……」
「キミといれて楽しかったよ、ありがとう。少しでもキミが俺の存在で楽になれたみたいでよかった」
「…ちょっと…何言ってるの?貴方も一緒に生き残るって…!」
青年は泣きそうに笑っていた。少女は嫌だと繰り返した、青年が何をしようとしているかなんとなく分かったから。
青年はそう言ってる少女の頭を撫で、廃墟の壁を蹴った。すると隠し部屋が現れた。
そこは少女一人が入れるくらいのスペースだった。青年は少女に「ここに隠れといて」と告げた。
その言葉を聞いた少女の目から涙が溢れだした。
青年はこの仕掛けを知っていて、最初からこうするつもりでこの廃墟に隠れていたのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎり「…嘘つき」と少女は呟いた。青年は屈んで少女を抱き締めた。
「…ごめんね、これ以外の方法が浮かばなくて。結局辛い思いさせてごめんね。また来世で会おう?」
「…嘘つき、絶対…絶対会いに行くから…貴方が忘れてても会いに行くから…っ」
「…うん、ありがとう。その言葉信じるよ」
青年はそう言って立ち上がり、少女は隠し部屋へと入っていった。
青年はさっきと同じように壁を蹴り、少女が居る隠し部屋を隠した。
数分後、軍人が来て青年へと銃を向けた。青年は恐れる様子もなく、ただ軍人を見つめていた。
軍人は「あんたに恨みはないが死んでもらう」と告げ、引き金を引いた。
それを聞いた青年は口角を上げ、最後にこう呟いた。
「…またね、"クラ"ちゃん」
初めて口にした少女の名前、隠し部屋にいる少女は顔をあげた。
青年は「とても大事なときに呼ぶ」と言って今まで少女を名前で呼びはしなかった。
「…ははっ、馬鹿じゃないの…?最後の最後で呼ぶなんてずるいよ…っ」
銃声が聞こえ、青年がドサリと倒れる音がした。ああ、本当に馬鹿みたい。
軍人は誰かと連絡を取りつつ、その足音は遠ざかっていった。
少女はそっと隠し部屋からでて青年を見た。まるで寝ているように見える。
でも、撃たれたと青年から流れる血が訴えているように見えて。もう戻れないと何かが崩れた気がして。
クラと言う名前は自分で勝手に考えてつけた名前。前世でもその前もそう名乗っていた。
性格も口調も性別や環境に合わせていた。今回はもう本当に余裕がなくて関わりをなくしたけれど。
君に会えてよかった、君はきっと来世で名前が変わる。でも、自分は変えないよ。
どうにかしてクラと言う一人の人になって、君に会いに行くから。
待っててね、私だろうと僕だろうと自分は君を見つけてみせるよ。
―――少女は青年を信用していたし、何より愛していた。
青年も少女を大事にし、何を言われようと守り続けた。
えっ、この後どうなったのか?少女は生き残って青年のお墓を作って自害したらしいですよ。
恐らく、少女には耐えきれなかったのでしょうね。所々わからない…ですか?
少女は記憶を持ったまま人生を繰り返させられているのですよ。何故かは知りませんがね。
少女と青年が逢えたのかはまた別のお話。
ここまで聞いてくださり、ありがとうございました。
それでは、ごきげんよう。
某時刻、前世の話にて
(そう言った、語り手は)
(もうどこにもいなかった)
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