大喝惇と2SR覇者曹操





「あっちの孟徳がそう言っていたが」

「で、あっちの孟徳がな、」

「あっちの孟徳が」



……頭が痛い。

曹操は深いため息をついて、きつく結い上げている長い黒髪を解いた。
 同じ“曹操”だから、共有している部分もあるが、違う部分だって多いのだから(むしろ基本的には違うのだ)こんな持病まで同じでなくてもいいのに、と心の底から思う。

「どうした孟徳、また頭痛か?」
「ああ、誰かさんのせいで猛烈に頭が痛む」
「おい、誰かって、もしかして俺の事か?!」

夏侯惇は単純に曹操を案じただけだろう。
だが、徐々に酷くなる頭痛と、先程から胸の内に燻っている何かに、曹操は苛立ちを隠せずにいた。

「なんだ、何をそんなに怒っている。俺が何かしたのか?」
「…お前が、」

もう、言ってしまおうか。随分前からこの胸に燻り続けているこの苛立ち、言ってしまえば楽になるだろうか。それでも曹操は、自分の気持ちをぶちまける事を寸前で押し留めた。

そんな曹操の様子を見て、夏侯惇は軽くため息をついて言った。

「お前な、そうやって何でも自分で納得するな。あっちの孟徳なんか、気に食わない事があれば口どころか手まで出るぞ?」


……ああ、頭が痛い。
もう限界だ。


「──お前が、」
「ん?」
「お前が、あっちの孟徳あっちの孟徳うるさいからだっ!」


夏侯惇が、息を飲む気配がする。


 自分の記憶の中に存在する夏侯惇。
若かりし頃の思い出も、兵を集めて戻って来たのも、左目を失って自分を死ぬほど心配させたのも、間違いなく目の前に居る夏侯惇だった。


だが、もしかしたらこの夏侯惇は違うのだろうか。
左目を失った時、戦で負傷した時、彼を死ぬほど心配したのは自分ではなく、色の薄い髪を靡かせた「あっちの孟徳」だったのだろうか。


もしそうだったなら。
──自分は。



決して言いたくはなかった言葉。
夏侯惇が近付いて来る。

俯いた視界に長い銀の髪が映っても、曹操は顔を上げる事は出来なかった。

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