現パロ・クリスマス
建物の外に出た途端、真冬の夜風が真っ正面から吹き付ける。それはまるで屋内で暖められ過ぎた身体を咎めるようで、トウ艾は思わず首に巻き付けたマフラーを口許まで引き上げた。
「…冷えるな」
「ええ…」
一歩先を歩いていた司馬師もさすがに堪えるらしい。いつもは真っ直ぐに伸びている背を心なしか強ばらせ、足早に歩を進めている。
お互いに気軽に口を開く性質でもない。終電間際の静かな歩道に靴音だけを響かせて、トウ艾も司馬師もそれ以降はただ黙ったままだった。風に揺らされた並木の枝の音に目線を上げてみれば、そこには凍えそうな夜には不似合いな、オレンジ色のイルミネーションが瞬いていた。
(…ああ、もうすぐクリスマスなのか…)
一年に一度、まるで恋人と過ごすのが当然とでも言うような風潮のあるそんな日。クリスマスがもう近い事にふと思い至り、トウ艾も例外でなく思考はそれに引き摺られていく。
ただしそれは、己の事ではなく、自分の少し前を足早に歩く人についてだったが。
(……馬鹿馬鹿しい)
彼がクリスマスをどう過ごそうがトウ艾には関係ない事で、そもそもクリスマスだからどうこうといった類の事に自分はあまり興味はない筈だった。
なのに。
世間の風潮に拘る事に些かの呆れを覚えつつも心穏やかで居られないのは、少なからず目の前のその人に複雑な何かを抱いているからで、トウ艾はその不相応な想いを日頃から持て余し気味だった。今もまた、無様に引き摺られた己の思考に心の内で溜め息をついているのだ。
「……仕事だ」
前を向かれたたまま、ぼそりと呟かれたその台詞。心を読まれたのではないかと思う程のタイミングで聞こえたそれに、トウ艾はギクリと顔を上げた。
「クリスマスは休めんぞ。勿論お前も」
「……は…」
固まったまま気の抜けた返事しか出来ないトウ艾に司馬師はそう言うと、足を緩めてトウ艾の方を見遣った。
「すまないな、クリスマスも付き合って貰う事になる」
「…!い…え、喜んでお供します」
「すまない」などと司馬師に言わせてしまった事に気付き、トウ艾は慌てて首を横に振った。まず何よりも、自分は彼の忠実な部下でありたかった。
「…喜んで、とは変な奴だな」
吃りながらも言葉を返すトウ艾に、司馬師は、ふ、と口許を弛めて少しだけ笑った。
「恋人と過ごすのが当然」
――そんな世間の賑わいとは、この人も無関係であったらしい。
きっとその日も何も変わらない。自分は彼の傍で、相も変わらずざわめく感情を持て余しているに違いないのだ。自分が行動してしまわない限り、きっとずっとこのままなのだろう。
ああ、本当に馬鹿馬鹿しい。
そんなクリスマスが、妙に嬉しいだなんて、本当にどうかしている。
結んでいる口許が、妙に弛んできて仕方なかった。マフラーの存在に心底感謝して、トウ艾は落ちかけていたそれを引き上げた。