「紹介するよ、こちらは展示会企画総合責任者のミスター・グリーン」

「初めまして、ミスなまえ。お会いできて光栄です」

「は、はじめまして」

「なまえの作品のファンなんだってよ」

「わ、きょうしゅくです…ありがとうございます」

「本当にこんなにお若い女性だったのですね。素晴らしい感性をお持ちだ」


今度、ミラノでそこそこの規模の総合展示会が開催されることになった。今回の責任者とは昔から細く長くビジネスの付き合いがあったが、アジトの応接室に飾ってあったなまえの作品を見て作家について尋ねられ、なまえを紹介する流れになった。
なまえのことは恋人として紹介するのではなく、いちアーティストとしての紹介にした。
それは、隠したいとかそういうことではなく、なまえのことを俺の恋人としてのフィルムを通して見るのではなく、芸術家としてまっすぐに見てほしいと感じたから。


「是非、我が社のアトリエを使用頂いて展示会への出展作品を作成頂けないでしょうか」


ミスター・グリーンの財閥はここ最近芸術界のスポンサーシップに力を入れていてちらほらと中小規模の展示会を開いていたが、今回はいままでにない大規模な投資を予定しているらしい。その為にいまは若手の実力派作家に声をかけては出展を持ち掛けている。様々な理由で満足いくアトリエを持てない作家には会社がアトリエを提供して、展示会出展までのサポートまでしてくれるらしい。
なまえはそこそこ生活に苦労が無い程度には作品で生計を立ててはいるが、欲しい画材を欲しいままに買うような生活はもちろんしていなくて、俺がなにかと理由を付けてプレゼントしてはいるが中々なまえの欲しいという画材は教えてはくれないから本当に本人の希望の物をあげられているかはわからない。
そんな中、この展示会に併せてアーティストに提供されるアトリエは平等に提供されて、準備期間中ありとあらゆる画材が潤沢に用意されるらしい。もちろん、展示会に出品した作品の売り上げの数パーセントをバックするシステムにはなっているらしいが、アーティストとしては十分な設備と材料と人目に多く振れる機会が提供されることになる。

また、そこで開かれるコンクールで入賞すれば一気に人気作家への仲間入りになるだろう。
なまえは俺を含めて一部のディープなファンは付いているものの、まだ知名度としては高くない。単純に作品数が少なくて人々がなまえの作品を目にする機会も少ないしな。まぁ、完成して出品された端から俺が買っちゃうのも一因としてあるんだろうけど…。
なまえの作品はやっぱりどれも魅力的で、力強くて惹き込まれる。だから自分のものにしたくなってしまうけれど、やっぱり多くの人に見て、感じて欲しいとも思う。だから今回の展示会は、今までにない規模の大人数に作品に触れてもらうまたとない機会になるだろう。

アトリエ提供の提案を受けて、遠慮して戸惑っているなまえの背にそっと手をかける。


「素晴らしい機会をありがとうございます。せっかくだから、アトリエ借りてみろよ。普段とはまた違ったいいものが出来るかもしれないし」

「…うん、そうだね。…ありがとうございます、是非、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願い致します」


目の前で交わされる2人の握手を見て、近い未来に開かれる展示会でなまえの作品に触れて驚く人々の表情が見えるようで、自然と胸が熱くなった。
こうやって、この先も俺はなまえとなまえを支えてくれる人々の架け橋になれたなら。こんなに嬉しいことはない。
なまえの指先から生み出される美しいモノの数々。
それらを一緒に育み、守り、愛する、そんなパートナーになれたら、そんなに嬉しいことはない。

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