「はぁ〜好きだ…すごい好き…はうわ〜〜〜」
「…」
「あー、かわいい!すごい!優しい!絶対こういう人となら幸せな結婚できる。幸せになってほしい。結婚したい」
「…」
「でもこっちの人もすごいすき〜ちょっと性格悪そうなところ好き…ふとした時に弱さとか見せてほしい。喧嘩とかしたときに困ってほしい。けどプライド高いから結婚相手としてはちょっとなぁ。でもやっぱり好き」
「…」
「なんか幸せ逃しちゃうタイプだよねぇ。幸せになってほしい。はー楽しい。最高。財前くんは?」
どう?楽しい?とこちらに向きなおられてはじめて自分に対して喋っていたことを意識する。
ずっと独り言かと思っててあんまし聞いとらんかったわ。まぁまぁ不愉快やし。
「まぁ、別に」
「感受性…」
金曜日の夜、仕事同じくらいの時間に終わったらその先さんの好きな恋愛リアリティ番組を一緒に見ませんか、と声をかけてまんまと家に呼び込むことに成功した。
欠片も番組には興味ないけど、その先さんはこういうの好きやろうし、一人で見るよりも誰か話聞いてくれる相手がいた方が俄然楽しいし!と頭空っぽにのこのこ来てもらえて本当によかった。
今日は本当はこんな早い時間に仕事を終わらせられるような状態やなかったけど、その先さんとのこの時間を確保するために死ぬ気で片づけた。
その先さんが家でごはん作ってくれて一緒に食べて、度数の弱い酒飲みながらまったりテレビを見る。
こんなよっわいアルコールじゃ全然酔われへんけど、その先さんにはこれくらいでぴったりだから、顔をへにゃへにゃとさせて笑って楽しそうにしている。
…こんなん、なんや、新婚プレイか………
いや付き合ってもないからな
状況に浮かれて気持ちがついつい緩みそうになるのをグッと堪える。
その先さんが楽しそうにみているのは、いわゆる多少の演出的やらせもご愛敬の恋愛リアリティ番組。
俺は正直はーしょうもな、と醒めた気持ちで見てしまうが、その先さんには楽しいらしく、いちいち一喜一憂しながらきゃいきゃい盛り上がっている。
しかも出演者の男に対してあれやこれや言って、かっこいいだの、好だの、結婚したいだの。
正直不愉快。ほんま、この女学生時代から俺のアピールにも婉曲表現の告白にもぴくりともせずに、挙句の果てに「財前くん実はすっごくいい子だからはやくいい彼女出来るといいね」なんて。
あぁ、思い出しただけで腹立ってきたわ。
今日もこんな、下心丸出しの俺の家になーんの警戒もせんと笑顔でやってきて。
そもそも俺がこの番組を純粋に一緒に見たくて呼んだとでも思って………あかん、思ってるな、これは。その先さんならありえる。
「あ、ほら、財前くんこの女性とかどう思う?スラーっとしててかっこいいよね!毎回お洋服もピシッとしてて素敵。こういうちょっとかっこいい、けど可愛いみたいな女性好きなんじゃない?」
悪意をまったく感じさせない表情で聞かれて、それが余計にムカついて、警戒をさせてはいけないと極力避けていた方向に敢えて舵を切る。
「俺はこういうタイプはダメっすわ。全然女として見れんし欲情もしません」
「そ、そうなんだ」
「はい」
きっぱりと言い切る俺に、少しもじもじしながらも必死に相槌をするその先さん。あー、もー、かわええ…。
「じゃ、あ、あの、たとえば、あの、たとえばね」
「はい」
「たとえば、わ、たしみたいなタイプってその、欲情って、する…?」
あ、いや、やっぱナシ!うそ!わすれて!ごめん!、とわたわたするその先さんを見て、そんな、欲情しないなんてことあるわけ無い
「っ、んっ、…ふ、」
「…、その先さん」
「…ぁっ、んんっ」
わたわたと恥ずかしそうに顔を覆ったその先さんのほっそい腕を左腕でまとめて掴んで、指を絡めて、右手で柔らかな頬を覆うように包んで唇吸うと小さな喘ぎ声が出てきてもう止まらない。
逃げる舌を追って、味わい尽くして、もう、その先さんの全部全部欲しくて、唾液も吐息も全部欲しくて、胸が詰まる。
「っは、はぁっ、」
「…わかりました?」
「えっ、あ、いや、」
「俺は、その先さんに死ぬほど欲情してますよ」
何年も、ずっと。
こんな危ない生き物を隣で放し飼いにして。
挙句の果てにずっと飢えていた獣に餌投げて。
「俺をこんなに欲情させて、責任とってくださいね」
夜の、帳が降りた。