適材適所に収まることが、人類の存続のためには必須だという持論があった。

巨人と戦う技術を磨いて好成績を残した人だけが憲兵団に入っていけるけれど、憲兵団が巨人と実際に対峙することは少ない。
そうやって優秀な人が壁の中に収まってしまっていてはいつまで経っても巨人には勝てなくて、人類はジリ貧になって行くだけだ。

だから、私は幸いなことに立体機動装置の扱いが下手では無かったから。仲間が巨人を討伐する際の囮にならなれると思って調査兵団を志望した。

それと同時に私には夢があった。
家族を持つという、些細だけれどこの狭い壁の中では大きな夢。

質素でも幸せな家庭を持ちたかった。その為には誰かと結婚をする必要がある。
私は今まで異性から好かれる経験は少なかったから、きっと女性比率の低い調査兵団に入れば誰かしらがもらってくれるかなという淡い期待もあった。

目論見通りというかなんというか、結果的に最近は調査兵団内で冗談半分だろうけれど恋人になってもいいよ、というような感じで声をかけてもらうことも何度かあって、少しだけ安心している。

だけど相手はみんな調査兵団でいつだって命を落とす可能性の高い最前線にいる兵士たちだ。
せっかく大変な思いをして見つけた生涯の伴侶がすぐに亡き者になってしまってはあまりにも悲しいし、何よりもまだ見ぬ子供の側に父親にもいてほしいと願ってしまった。


そうなると自ずと私の理想の相手は壁外調査で生存率の高い人、ということになる。長く生きてくれる人じゃないと、嫌だ。
ほとんどの兵士が初回の壁外調査で命を落とすけれど、5回も生き残るとなればかなりの猛者と数えられる。
だから私は分かりやすい指標として“結婚相手は壁外調査経験5回以上”と思っていたけれども。


だけどまさか、人類最強と評されるリヴァイ兵士長が気になってしまうだなんて。


確かに、私が心に思っていた理想の基準を精査すればリヴァイ兵士長以上に条件を満たす人なんていない。
むしろ気がついてしまってからはどうして今まで気にならなかったのか不思議に思えてくる。
何度も何度も壁外調査を生き抜いてきて、誰よりも多くの巨人を討伐して、彼が巨人にやられるところなんて想像がつかない。きっと人類最後に生き残るのは彼だと思っている人も多いだろう。

でも、理想の相手だからって簡単に好きになっていいような相手じゃ無いことも重々理解しているつもりだ。

まず向こうは相手なんてより取りみどりだろう。一部熱狂的な信者もいるほどの彼を、自分なんかがどうこう出来るだなんて思わない。そんなこと想像してみるだけでも畏れ多い。

生存率や戦闘技術が飛び抜けて高いことも去ることながら、先日の合同訓練時には助けてくれたり、私なんかの話もちゃんと聞いてくれたり、壁外調査で過去に同じ班になった子から聞くと一見接しにくい人に見えるけど仲間に対する思いやりもある温かい人だと聞いたり、知れば知るほど素敵な人だということが分かってしまう。
そんな完全無欠の素晴らしい人に、一介のしがない末端兵士の私のことを好いてもらえるはずがない。


そこまで頭は理解しているのにも関わらず、兵士長のことを好きになりそうな感情が暴走しそうになっていて本当に困った。



「ねぇ、リヴァイ兵士長って…どう思う?」


困って困って、困り果てて、つい研究室にいたケニルに話を振れば口をあんぐり開けて見つめ返された後ガクガクと私の肩を掴んで揺すって来た。
その衝撃で報告書にまとめようと見繕っていた実験結果用紙がパラパラと落ちてしまう。


「何か思い出したの?!」
「え?いや、私の結婚相手の理想像を突き詰めると兵士長になるなと思って」
「……ハァ」


感情の上がり下がりに忙しそうなケニルを尻目に床に落ちてしまった書類を拾っていると、話が聞こえたのだろう。隣の部屋からハンジさんが楽しそうに声をかけながら寄ってくる。


「おっ、なになに恋バナ?」
「こ、恋というようなそんな大層なものでも無いんですが」


直球な物言いにぼっと顔に熱が集まってくる。
咄嗟に否定してしまったけれど、これは恋、なのだろうか。


事実、兵士長が過去にもしつこい男性から助けてくれたことを思い出してからと言うもの、私の脳は勝手に自分に都合のいいような映像を断続的に見せてきて困っていた。


どうしてだか、夜眠る前に自分のベッドで目を瞑っていれば私の頬を兵士長が優しく撫でてくれる映像が流れてきて心臓に悪い。しかもそれはこの前の光景じゃなくて、頭に勝手に浮かぶ兵士長の顔は今まで見たこともないような優しい顔をしている。
まるで、愛おしい相手を見るような瞳で。そんな経験ないはずなのに、なぜかその映像が流れてきて止まらないというのはあまりにも自分にとっての都合のいい妄想すぎて自分自身が気持ち悪くて仕方がない。


訓練責任者の都合上、職務として私のことを助けてくれたに過ぎないのにこんな妄想に登場させられて兵士長に知られたらものすごく冷たい目を向けられて気持ち悪いと思われるに決まっている。
そうは思いつつもどうしても考えるのをやめられないこの現状を考えれば私はやっぱり彼に恋をしているのかもしれない。



「すごく優しくて強くて、素敵な人だな…と思っただけで」


そんなこと皆さん知っていると思うのですが、ともごもご言えばケニルは怒ったような顔をする。



「それ、本人に言いなさいよ」
「いいね!きっと喜ぶと思うよ」
「いやいやいや話の飛躍が凄いです。ハンジさんまで面白がらないで下さい」


あまりにも乱暴な提案に流石に呆れてしまう。絶対にそんなこと出来ないのに。
2人とも真面目に聞いてないな、と思って再度実験結果の書類に集中しようと視線を外すけれど、ハンジさんが穏やかに息を吐きながらゆっくりと声をかけてくれるので再び目を向ける。


「確かにさ、リヴァイは優しくて強いけど」


表情は穏やかなのに、ハンジさんの顔が少しだけ寂しそうに見えるのはどうしてだろう。


「あいつも1人の人間だからね。誰にでも優しい訳じゃないと思うな」
「それは、どういう…」


意味深な物言いに戸惑って尋ねるけれどハンジさんが答えをくれることは無かった。
その代わり、キッパリとした口調で「なまえの心の望む通りに行動するべきだよ」とだけ言い残して彼女は再度自分の作業に戻って行ってしまう。

ケニルに助けを求めるように見ても「もっとわがままになってみれば?」と肩をすくめながら言われて謎が深まるばかりの結果となった。
ハンジさん同様、ケニルも追加の説明はしてくれないまま仕事を始めるから邪魔をすることも出来ない。


私の心の望む通りに?わがままに?


そんなこと出来れば苦労がない。
きっと心の奥底の本心というものがあるのであれば、それはリヴァイ兵士長を求めている。

だけど、求めたところで得られないことも既に分かってしまっているから身動きが取れない。

そうなると私にできることは必死にこの感情を見なかったことにして、気づかなかったことにして、ひっそりとした妄想をいつの日か夢見なくなることを願いながら風化するのを待つしかない。


その日が来るのが来週なのか来年なのか、ひょっとしたら私の鼓動が続く限りなのかは分からなかった。

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