ことの発端は、一緒にハンジさんの元で働いている同僚ケニルの言葉だった。


「みてみてこの昆虫。不思議な色じゃない?」


すっと差し出されたガラス容器の中には既に息絶えた虫が入っていた。
蝶だろうか。お馴染みの羽と触覚が特徴的な生き物だけど、特に目を引くのはその鮮やかなレモン色。
自然界に住むには少し目立ちすぎるんじゃ無いかと思うことから連想するのは毒の有無。
自身が危険だという信号を身に纏っているのでは無いだろうかと想像した。


「綺麗な色だね。毒でもあるのかな」
「それがさ、逆かもしれないんだよね」
「逆?」


毒じゃ無いのなら薬にでもなるんだろうか。あんまり聞いたことがないけど、もし治療薬を増やせるのなら大歓迎だ。
私が興味を示したのを見計らってニヤリと笑みを深くしたケニルはこの蝶を発見した経緯を教えてくれた。


先日行われた壁外調査に参加した彼女は、左翼前方二列目と比較的巨人遭遇リスクが高い配置になった。しかし幸いなことに前列の兵士が優秀だった為、巨人と直接対峙することは無く比較的余裕を持って巨人の様子を観察することが出来た。
壁外調査に出てからしばらくは何体か通常の巨人との戦闘が行われていたが、その中で一部奇妙な行動を取る巨人に気がついたらしい。
奇妙な行動というのが、数秒前までは兵士を捕食する為に追っていたはずなのに突然地面へと激しく向かって行ったこと。体勢を低くしてうつ伏せの様な体勢になってくれたおかげで容易にうなじを狙うことが出来て、あっけなく討伐された。その巨人は当初奇行種か?とも疑われたが直前までの動きは完全に通常種のソレだった為に考えづらい。
そうなると次に可能性として考えられるのは、巨人が向かっていった地面。そこに何かあるのかと興味が湧いて近づくと、絶命した巨人のすぐ近くにこの蝶の群れが居たとのこと。
速やかに数匹捕獲して早速サンプルにした蝶。ひょっとしたら巨人を惹きつける何かしらの鍵があるのかもしれない。


「なにそれ…!」
「熱いよね。毒じゃなくて奴らの好物だとしたら」
「囮や誘導にも使えて作戦の幅が広がる可能性が高い」


もし仮に巨人の興味を生きている人間以外に向けることが出来たのならば、それは人類の命を繋ぐ希望にもなる大発見だ。戦闘中の危険度も減って、兵士の生存率も急上昇するに違いない。


いつだって、頭に浮かぶのは人類最強の称号を持つ彼のこと。
ケニルが蝶を捕まえた壁外調査にももちろん最前線で参加して数多くの巨人を討伐したリヴァイ兵士長。
今回も涼しい顔をして帰って来たけれど、彼だって人間だ。絶対安全なんてことは無い。
いつどんな時に最悪の結果となってもう二度と会えなくなるかも分からないし、いつか迎えるかもしれないその日のことを考えて恐怖に狂いそうになるのだって日常茶飯事だ。

少しでもリヴァイ兵士長の生存率を上げることが出来るのならば藁にだって縋りたい。


もしもこの蝶を調べて、本当に巨人を引き寄せる効果を得られるのならば絶対にモノにしたいと強く思った。
研究を行うことを決めれば生態や分布地を確認して捕獲・繁殖を行ない大規模な育成、とやることは山ほどある。

とにかく今はこの蝶が壁の中にも生息しているのかを調べるのが急務だ。


ケニルも自分で調査を行いたそうにしていたけれど彼女は彼女で壁外調査の報告残務に追われているから、この手の研究に熱心な私ならば任せられると思ってこんなに重要な情報を話してくれたらしい。
もちろん断る理由なんて無くて、ケニルから貴重なサンプルを譲ってもらって早速調査の段取りを練り始める。


なんて言ったって、私は壁外調査に参加していないのでこの時期にこんなに手が空いているのは私くらいなものだろう。

それもこれも全てはリヴァイ兵士長が直接エルヴィン団長に「こいつは俺の子を産む予定だから壁の外には出さない」と一方的に伝えるだけ伝えた後に、本当に私を全ての壁外調査の任務から事前に外してしまっているのが理由だ。


最初はひょっとしたら冗談かなと思ったりもしたけれど、あれから私たちは所謂お付き合いを始めてごくごく順調に関係を続けている。


兵士長ってがむしゃらに強いって話だけが一人歩きして、女性関係とかそういう浮ついた噂は全く聞かなかったからあんまり恋愛に興味ないのかと勝手に思っていたけれど、お付き合いを始めたリヴァイ兵士長は拍子抜けするほど優しくて素敵な恋人だった。

非番の日には一緒に過ごしたり、お互いの部屋を行き来して泊まったりと仲良く過ごせていると思う。
いつだって最大限私を安心させたり喜ばせようとしてくれているのが伝わってきて、本当に大切にされていると実感するたびに好きが募って行く。


だけどそんな彼が唯一私の願いを絶対に聞き入れてくれないことが壁外調査への参加だった。
以前ハンジさんの研究関連で一緒に壁外へ行って手伝いをしたかった時にもどうしても首を縦には振らず、頑として譲らなかった。

なにをどう頼んでも取り付く島もなくて、最終的にはハンジさんが「やれやれ。リヴァイの溺愛っぷりには降参だよ」とかなんとか言って結局別の人をサポートに付けて調査を行った。


そんな過去を思うと、どうにかこの蝶が壁の中に生息してくれていることを祈るしかない。

こんなに貴重で大切な研究、絶対に自分の手で結果を見届けたい。

全ては、愛するリヴァイ兵士長の為。
戦闘能力の低い私が出来る、彼が生きる為の最大限の手助け。

そうと決まればまずはウォールマリアの中からだ。
地図を引っ張り出してきて、蝶の生息地について目星い箇所の洗い出しを行った。
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