「………えっと、…あの、」
「…食え」
「え、あ、…え?」
「…飲め」
「…………いただきます」
私の部屋の前で待っていたリヴァイ兵士長に腕を掴まれて連れて来られた彼の自室。
座れ、と言われたため素直に座っていればお菓子と紅茶を出されて食え、飲めと命令される。
あまり状況が飲み込めなくてポカンとしていればリヴァイ兵士長はマイペースに自分も座って紅茶を飲み出したから、私もつられて紅茶に口をつける。
ドキドキするけど、この感じが懐かしくてほっとする。
こうして兵士長とお茶を飲むの、久しぶりだな。
「…なまえよ」
「、はい」
彼との無言の時間は別に苦じゃないから、黙ったままお菓子をいただいていると不意に名前を呼ばれ、落としていた視線を上げてリヴァイ兵士長を見れば彼の視線に熱を感じて頬が熱くなった。
「…壁外調査後、しっかり寝ているか」
「まぁ、一応…」
「俺に嘘は付くな。顔を見れば分かる」
「………、」
「…仲間の1人や2人喰われたくらいでそんなにガタつくのか。情けねぇな。…やはりお前は、調査兵団を辞めるべきだ」
「っ、そんな、こと、!」
「そんな事あるだろう。 壁外調査前にぼろぼろ泣いてたのは何処のどいつだ」
いきなりすぎる辛辣な言葉にじんわり涙が浮かんでくる。
なんだろう、これ。
さっきまで私の心は暖かかったはずなのに。嬉しかったのに。
兵士長はわざわざこんな事を言うために私を部屋に連れてきてお菓子とお茶を出してくれたんだろうか。
少しでも浮かれて喜んでいた自分が馬鹿みたいだ。
何を、期待してたんだろう。
「なまえ。調査兵団を、辞めろ」
「……いや、です」
喉から出る言葉が震えている事に気づかれませんように。
泣いたら、またキツイことを言われる。
まるで、私の骨を折った時みたいだ。
あれから少しは近い関係になれたと思ってたのにな。私の勝手な勘違いだったんだな。
自分が馬鹿らしくて耐えられなくて下を向いていれば、不意にそっとリヴァイ兵士長の指先が私の頬に触れた。
硬い、指先。
何度も何度も皮が剥けて、それでも剣を握り続けた人の手だ。
人類の希望を護り続けている、手だ。
そんな硬い指先が、壊れ物にでも触れるように私の薄い皮膚の上を滑る。
堪らずに顔を上げれば、やっぱりそこには熱を孕んだ兵士長の瞳があって思わずたじろぐ。
なんだろう、辛いこと言われたのに、これじゃまるで、
「…おまえを体裁よく調査兵団から抜けさせる方法を思いついた」
まるで、こんなの、
「俺の子を産め、なまえよ」
こんなの、愛を伝える時の、目だ。
伝えられた内容が飲み込めなくて呆然とリヴァイ兵士長を見つめ返す私に、彼は言葉を続けた。
「人類最強の遺伝子を遺すんだ。誰にもお前が調査兵団を辞める文句は言わせねェ」
「そん、な、」
「…そうだな。身体に障らない程度になら書類整理や今までの実験を続ける事くらいは容認してやろう。だが壁外調査には2度と行くな」
「で、でも、私は兵士長と、なんにも、…!!!」
「……なんにも、…なんだ?」
私は兵士長となんにも特別な関係は無い、と続けようとした私の言葉を食べるように、兵士長の唇が私のと重なった。
息すら忘れて言葉を無くした私を、彼は薄く笑いながら見下ろしている。
「いいか、なまえよ。俺は欲しいと思った物は確実に手に入れる。お前も例外じゃない」
「へいし、ちょう」
「俺に愛されたのが運の尽きだな。逃げられると思うなよ」
不敵に笑ったリヴァイ兵士長から目が離せなくなる。
私はなんて人に捕まっちゃったんだろう。
それは、手に入らない望みだったはずだ。
私なんかが求めていい人じゃないはずだ。
だけど彼はそんな私の葛藤を軽々と乗り越えて、私の心を攫いに来てくれた。
だから私は、なけなしの勇気と脆弱な心で彼に答える。
「私を、愛してください」
泣き笑いを浮かべる私を見て、彼はやっぱり不敵に笑った。
君を護ろうとする君へ。
僕の精一杯の愛を贈る。