立体起動で移動して、程よく他の人から距離を取ったのを確認して上を目指す。
疲れたからね。ちょっと休憩。

この辺りは訓練で嫌ってほど飛び回ったから木の特徴も覚えてる。
目的の木のてっぺんまで登れば枝が伸びていてちょうど座れるようになっている。
私だけの休憩スポットだ。
ここからなら信号弾も見えるしすぐに向かえるからばれることもない。



訓練中の事を思い出す。

…素直にすごい、と思った。


リヴァイ兵士長の事はもちろんずっと前から知っていた。
だけど今までは人類最強、なんて呼ばれながらなんだかいつも不機嫌な表情をした人、程度の認識だった。


壁外調査では彼の近くの班になった事が無いから実際に戦闘を見た事は無い。
だけど。

さっき見せられた彼の動きは、惚れ惚れするほど洗練された物だった。
一切の無駄を取り除いて立体起動装置の性能を最大限生かす事の出来る動き。
美しいとさえ思った。
立体起動装置の開発者もこんなに使いこなしてくれる人がいて嬉しいだろうな。


リヴァイ兵士長は決して身長の高い人じゃないけど、立体起動中は間違いなく誰よりも大きい。



私も少しだけ他の人よりも所謂センス、という物があった。
立体起動装置を使いこなす、筋肉を、身体を使いこなすセンスだ。
他の人との差はほんの少しの物だったけど、その微かな差が生死を分ける。
そうして他の同期が命を落として行く中、私は逃げる術を磨いて今日まで生き延びられた。

正直、調査兵団に入るのは怖かった。誰でも少しは、怖いと思う。
だけど適材適所という言葉があるように、適した人が適した場所にいるのが一番いいと思った。私は立体起動が得意だったから調査兵団を選んだ。出来る人がやらなければ、人類は生き残れない。
自ら死を選ぶような、ゆっくりと自殺する事を選ぶような選択だったと今でも思う。だけど、誰かがやらなければならない。そして、その誰かは私だ。



婚活の話も嘘じゃ無い。
私は女に生まれたからには子供が欲しい。
だけど父親となる人があまりにも早く死んでしまったらきっと子供は悲しみはしても喜びはしないだろう。
だから、少しでも長い間生き残ってくれる人を探したかった。


そんな私の不純な動機を兵士長はどこからか聞いて、腹を立てたんだと思う。
兵士は兵団に心臓を捧げなければならない。
なのに私はふざけた事を吹聴して。つくづく馬鹿だなぁ、と反省する。
別に私が馬鹿だと思われるのは構わない。だけど私の言動で不快になる人もいるんだな。それは気をつけなきゃいけない。



遠くで信号弾が上がった。
合流の合図だ。


座っていた木を蹴って、移動を始める。

左腕がどれくらいの負荷に耐えられるのか少し心配してたけど、兵士長はとても綺麗に折ってくれたのかお医者さんからはむしろ骨折前よりも骨が丈夫になってるよ、と言われていた。
使っていなかったからどうしても筋肉量は落ちてたけど元々そんなに筋肉に頼る戦闘スタイルじゃなかったからそれほど問題もない。



木々の隙間から黒髪の後ろ姿を見つけて加速する。
あれはリヴァイ兵士長だ。
周りの誰よりも美しい動きをする。

まだ少し距離があったのに、兵士長は私の立体起動装置のガスの音に気づいたのか、気配に気づいたのか唐突に振り返って、視線がぶつかる。


どきん、と心臓が揺れるのが分かる。
深い漆黒の瞳。捕らえられたら、逃げられない。


視線だけで、はやくこっちに来い、と言っているのが分かって、一気にガスを吹かせて近寄る。


あぁ、囚われたらいけない人に捕まっちゃったみたいだ。
この人にはそんな気はないんだろうけど、その鋭い視線に貫かれる度に抜け出せなくなる。

もう婚活はできないなぁ。

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