「やっぱり無理ですよやめときましょうよ」
「いや、お前の骨折は俺の責任だからな。俺が責任を持って前のお前以上に立体起動装置を使いこなせるようにしてやる」
「いやいやいやいやいいですってほんと勘弁して下さい」
なまえの左手首の骨が完治するまで何度となく菓子を持って奴の自室や研究室に足を運んだ。
いつも見舞いの品を持って行く俺になまえは申し訳なさそうに遠慮しながらも喜んでくれ、そんななまえを見て俺も少しずつだが罪悪感を紛らわせる事が出来た。
途中からもしかしたら見舞いというのは口実だったのかもしれない。
普段は無駄にくっちゃべるのは好まないがなまえと会話をするのは妙に心地良かった。
そして俺がなまえの骨を折ってから一ヶ月と少し経った頃、なまえの左腕を覆っていた固定具が外された。
久々に露わになった手首はもともと申し訳程度にしか無かった筋肉が更に衰え、ギョッとするほどか細くなっていた。
前から細ぇのに、折る前よりも折れそうだ…。
こんなんで壁外調査に出たら、と考えると最悪な結末しか想像できない。
その瞬間 俺はなまえに訓練を付ける事を決め、今日が決行日だった。
「やっぱり私が参加してもみなさんの迷惑になるだけですよもっとレベルの合った人と訓練させてくださいお願いします」
「これはもう決定事項だ。四の五の言わずに始めるぞ」
「………………はい」
きっぱりと言い渡せばようやく諦めたのか渋々立体起動装置を身に付ける。
しっかり装着したのを確認して、訓練を始める。
今日の訓練内容は10人弱での森の中での展開だ。
まずそれぞれ馬で森に接近して行く。その段階である程度お互い距離を取って、森に入りまた少し展開したら立体起動に移り最終的に俺の撃つ信号弾を合図に徐々に距離を縮めて合流する。
もちろん森の中には巨人を模した張りぼても設置してあり、それらを発見、破壊するのも訓練内容の内だ。
「…進め!」
「はいっ!!!」
全員騎乗したのを確認して号令をかけ、一斉に馬を走らせる。
右側にいるなまえを見れば、とりあえずは俺の部隊の速度について来ている。
速いな。
体重が軽いのも一因かもしれんが乗馬技術は中々だ。身体の中心でバランスを取って上手くでかい馬を乗りこなしている。
森に接近してきて、それぞれが距離を取り展開を始める。
「各々互いに距離を測りながら立体起動に移れ!」
合図の信号弾を打ち上げればそれぞれ一斉に立体起動を始める。
俺も木に飛び移り空中で移動しながらなまえを注意して見る。
決して訓練し尽くされた動きではない。
やはり左腕の筋肉は衰えているのか、少し庇い気味だ。
…しかし。
軽さを利用してひらりひらりと身軽に移動する様は流石だった。
動きが変則的で次の動作が読みにくい。
なるほど、これで今までの壁外調査を生き延びて来たんだろう。
これなら巨人に捕獲されにくい。
「目標発見!」
鋭い声でなまえは叫ぶと素早く剣を抜いて張りぼてに向かって飛び出し、綺麗にうなじ部分を切り取った。
見事だ。筋力は無いものの、全ての体重と重力とガスでの加速を利用して力を増幅させる術をこいつは知っている。
体重が少ないからガスの消費も少ない。
確かにこのスタイルならばギリギリあの少ない筋肉でもやっていけるのだろう。
とりあえず今日は大丈夫そうだな。
骨折による影響も殆ど無さそうだ。
再び空中移動をはじめたなまえを見てから安心して他に視線を移す。
なまえばかりに気を取られてもいられないからな。
ガスを一気に吹かせてなまえから距離を取る。
こいつは俺が思っていた以上に優秀な兵士だったみたいだ。