骨折をした翌日、ハンジさんから今日は自室で休養するように言われてお休みをもらっていた。
これは思わぬ自由な時間が出来た!と思って前から読みたかった文献や自分の研究をちょこちょこ進めていると、不意に自室の扉が叩かれる。
「はーい。どうぞー」
たぶんハンジさんあたりかな、と思って軽く返事をすれば姿を見せたのはリヴァイ兵士長でびっくりする。
無言で部屋に入って来た兵士長は気まずそうに眉間に皺を寄せて私の固定された左手首に視線をやった。
…まぁ、確かに昨日の事は驚いたし吐きそうなほど痛かったけど自分の撒いた種だから自業自得だな、と自己完結していた。
骨の折れた鈍い音がした時 彼は驚いていたから、きっと骨折させようと思っていた訳じゃないんだろう。ただ私の骨が脆くて、彼の握力が強すぎた。
そりゃあ相手は人類最強、だからね。しがない訓練不足の引きこもり研究者の骨を折る事くらい造作もないんだろう。これからはちゃんと鍛えようってちょっと反省した。
それに痛くて痛くて呼吸もままならなくて、どうしたら良いのか分からずにいた私をすぐに医務室に運んでくれたのも彼だ。
骨を折ったのは私なのに、私よりも痛そうな顔をしていた事に、彼は気づいているんだろうか。
「……………………」
「……リヴァイ兵士長…どうかしましたか…?」
「いや…。腕は、どうだ」
話し出そうとしない兵士長に私から声をかければ気まずそうな顔をしたまま聞いて来て、やっと彼が私のお見舞いに来てくれたんだと分かる。
「あ、もう全然平気ですよ!お医者さんに出してもらったお薬もありますし、私が自分で調合したお薬も絶好調です」
「…そうか」
微かに強張っていた表情を解いて、リヴァイ兵士長は手に持っていた紙袋を差し出してくる。
「…昨日はすまなかった。……これ…食いたかったら食え」
唐突な謝罪にびっくりして咄嗟に紙袋を受け取ってしまう。
中身を見れば私の大好きな、だけど私のお給料じゃとてもじゃないけど手が出せないお菓子が入っていてこれまたびっくりする。
「こっ、こんなの頂けません。この腕だって私の自業自得ですし、」
「いらなきゃ捨てろ」
「そんな……」
捨てられるわけが無い。
けどこんな高価な物を頂くなんて…。
「兵士長、あの、もしお時間ありましたら一緒に食べませんか…?お茶淹れますよ」
「………………あぁ」
「じゃあ、そこに座ってて下さい」
「……いや、お前が座ってろ。俺がやる」
片手でお茶を淹れようとする私を見てリヴァイ兵士長がテキパキと準備を始める。
…なるほど。両手の使えない私よりも彼の方が数倍上手に準備できるだろう。
仕方なく大人しく座っていれば、次第に部屋にお茶の良い匂いが広がる。
そういえば今日はまだごはん食べて無かったな。
丁度よかった。
しかしこんな素敵なお菓子が本日一食目なんて贅沢すぎる。
怪我の功名ってこれか……。
呑気に考えていると目の前に静かにカップを置かれる。
「ありがとうございます。いただきます」
「あぁ」
リヴァイ兵士長が座ったのを確認してお菓子に手を伸ばす。
つい数日前までは話した事も無かったのに。
まさか沢山の兵士憧れのリヴァイ兵士長とこんな風に一緒にお菓子を食べる日が来るとは。
人生は何が起こるか分からないな。