忙しい仕事の間に出来た時間に久しぶりにデートしていると、ふと思う事がある。

例えば、スクアーロの脚は私のものとは比べものにならないくらい長くて速く歩けるはずなのに、絶対に私を後ろに歩かせる事はしない。いつも私が辛く感じない歩調に合わせてくれる。
例えば、人混みを歩いていて、2人並んで歩けない時はさりげなくよけて私に道を開け、サッと手で先に通るように促してくれる。
例えば、車道の隣の道を歩く時は私を守るように絶対に車道側を歩いてくれる。
例えば、ちょっとした段差を登る時は手を出して、支えてくれる。
例えば、ドアマンのいないお店に入る時は必ず扉を私のために支えてくれて、先に入るようにしてくれる。
例えば、買い物をすれば私が手を伸ばす暇もなくショッピングバッグをさらっていって全部持ってくれる。
例えば、レストランに入れば私が腰掛けるまで立ったまま待っている。



「……このイタリア男め」

「あぁ?なんだぁ?」


美味しいコース料理もデザートにさしかかって、とろけちゃいそうな甘さのケーキを噛み締めながらつい言葉をもらせば、食後のコーヒーを飲んでいたスクアーロは怪訝そうに私を見た。ちなみにスクアーロの分のデザートも私のお皿に最初から乗せられて来ている。スクアーロは甘い物好きじゃないのに対して私は大好きだから、これもいつもの事。



「スクアーロってさ、声大きいし何かとがさつだし声大きいしいつもボスにいじめられてるけど、やっぱり一応ちゃんとイタリアで育ったイタリア男なんだよね」

「うおぉい…どっから突っ込めばいいんだぁ」

「……いやさ、ディーノさんとかってもう見た目も所作も生粋のイタリア男!って感じでレディファーストとかもちろんしそうな感じだけどさ」

「あれはへなちょこなだけだろぉ」

「でもなんだかんだスクアーロもすごく自然にレディファーストして様になってるからさ、そのギャップ?みたいな?すごいよね」

「………(俺はなんて言えば良いんだぁ…)」



呆れたように黙っちゃったスクアーロをよく見てみる。
切れ長の瞳は鋭く涼し気で、薄い唇はセクシーだ。鼻すじもすっと通っていて頬の輪郭はすっきりしている。おまけに自前の銀髪は絹のように美しい。
外見だけ見れば作り物のようないい男、の一言に尽きる。このまま彫刻にしてしまいたいような完成された美しさを持っている。
だけどそれら全てを取り巻く彼の雰囲気がその美しさを取り込んでしまうほど荒々しい気性に包まれていて、スペルビ・スクアーロという1人の男を猛々しく、そして雄々しくしている。

そんな男らしい、いかにも「女なんて興味ないぜ!俺といたきゃ勝手についてこい!」みたいな人なのに、いざ付き合ってみると完璧なレディファーストをしてくれる。
このギャップに女の人達はみんなメロメロになっちゃうんだろうなぁ。
私もきっと、もうメロメロになっているんだろうけど、スクアーロに溺れるのは癪だなぁ…。



「スクアーロはギャップ萌えを狙ってるの?もういいじゃんみんなメロメロだよメロメロ。よかったねおめでとう」

「おめでとうっておまえなぁ……。まぁ、なんだかよく分かんねぇけど、俺がこんなことすんのもおわらないにだけだぞぉ」

「え、…」

「前は女なんてめんどくせぇだけだと思ってたからなぁ」

「そんな、感じする」

「けどおまえは世話焼いてやんなきゃ駄目だからなぁ」

「…めんどくさくないの?」



『女なんてめんどくさい』と言ったスクアーロの顔がすごく辟易していたから少しだけ不安になって恐る恐る聞けばスクアーロはコーヒーカップを置いて慈しむように笑ながら私を見ると、腕を伸ばして頬に触れてきた。



「おわらないは俺がいないだめだろぉ。どんなにめんどくさくても一生めんどう見てやるから、安心しろぉ」

「!!!」



めんどう見るって何よ、私はペットか!とか思ったけど、それ以上に一生という言葉のインパクトが強くて顔が赤くなるのを感じる。
それって、それって、もうプロポーズじゃんか。
このイタリア男が、と心の中で悪態をついてみるけど、スクアーロの手が触れている頬からじんわり熱が広がって行くのを止められない。
はぁ、もう私はこの男に溺れているんだろうなぁ。

溺れれば最後、2度と浮上出来ない深さの愛を与えられて、私はもう息すらままならない。
そんな私を引っ張り上げて、どこまでも手を引いてくれるのが、貴方です。


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