※勝手に共学設定ですごめんなさい
パァン!
「うわっ…」
思わず声が出て、慌てて両手で自分の口を塞ぐ。
よかった、気づかれてないみたい。
こっそり給水塔の後ろに移動して、ゆっくり息を吐く。
びっくりした…まだ心臓バクバク言ってるよ…。
遠くでチャイムの音が響いて、授業が始まったのが分かるけどまぁいいや。このままさぼっちゃおう。
見渡す限りの青い空が見れる屋上は私のお気に入りだ。寝っころがると少しだけ背中は痛いけど、保健室の柔らかいベッドからじゃ見られない景色がここにはある。
空を見上げながら横になって、心臓を落ち着かせながらついさっき見てしまった現場を思い返してみる。
お昼休みから1人でここに来てもそもそパンを食べてぼーっとしていたら、1組の男女が屋上に入って来た。
まぁここは普段あんまり人も来ないし、逢引するのにはぴったりだよなぁ。長くいる様子なら私がこっそり場所移動して2人きりにしてあげようかなぁ、なんて思いながらその男女を見るとそこにいたのは知っている男だった。
ヤマケン……。
なんだか化粧が濃くて気性の荒そうな女の子と向き合って、穏やかではない雰囲気で言葉を交わす2人。
うわぁ、嫌な所にいあわせちゃったなぁ。やっぱり私が場所変えよ…と思って鞄を掴んだ瞬間、パァンと乾いた音が空に響いた。
音につられて視線をやれば、屋上の出口扉へ走って行く女の子と頬を叩かれてうっすら唇の端を上げているヤマケンがいた。
「うわっ…」
ここで私が声を漏らしてしまったのは、決して女が手を上げた事に驚いたからじゃない。
ヤマケンが、笑ったからだ。
髪の影で表情全体は見えなかったけど、奴は確かに笑っていた。
その笑い方が酷く冷淡で、それがこの男の性格をあまりにも良く表していてつい声を漏らしてしまった。
全く、あいつも今度は何をしでかしたのか。
何人の女の子を傷付ければ気がすむんだろう。
手を上げる女の子もどうかと思うけど、その原因を作ったのはヤマケンのはずだ。
いろんな子にいい顔をして、期待させるような事を言って。女の敵以外の何物でもないなぁ。
ここら辺でいい加減1人の女の子と真剣に恋愛して落ち着いた方がその他大勢の女の子達のためだと思う。
「まったくたちの悪い男だなぁ」
「誰がたち悪いって?」
「うっわあ!!」
ぽろりと独り言を零せば、返ってくるはずのない返事が戻って来て驚いて起き上がればヤマケンが給水塔に登って来ていた。
こいつ教室戻ったんじゃ無かったのか。
「はーぁ。だる」
「……………………」
「おわらないは覗き見の趣味があったのか」
「そっちが勝手に屋上来たんでしょ。嫌なもの見せられて迷惑千万」
「はっ。それは悪かったな」
ごろんと私の隣に寝転んだヤマケンを見れば頬がほんのり赤く腫れている。爪の跡は付かなかったんだ。よかったね。
「ヤマケンもさ、そろそろきちんと相手を決めたら?叩かれたくないでしょ」
「んー」
「……もしかして叩かれたいの?笑ってたもんね」
「馬鹿かおまえは」
目をつむって私の言葉を流すヤマケンを、少しからかってみるとやっと切れ長の瞳が開く。肘を地面について手で顔を支えてバランスを取ると呆れた顔で私を見た。
「あの女は馬鹿だなぁと思ったら笑えてきたんだよ」
「?」
「『好きじゃない。けど付き合ってやってもいい』って言ったらキレられた。この先俺よりいい男が見つかるはずもないのに、付き合ってやるって言ってるんだからありがたく付き合えばいいものを」
「あなたの性格どうなってるんですか……」
あまりにも性格の捻じ曲がった発言に苦笑が漏れる。性格が悪い上に自意識過剰と来ちゃもうダメだこの人。
それであの絶対零度の笑みだったのか。怖いなぁ。
「好きじゃないのにどうして付き合うの?」
「……………好きな奴とは付き合えないから」
「えっ?!好きな人いたんだ!!!っていうか付き合えないってどういう意味?」
「……そいつは俺になびいてないんだよ」
好きな人いた事自体びっくりだし、しかもこの自意識過剰ナルシストとは思えない弱気な発言に目を丸くすればヤマケンは心底疲れたようにため息をついた。
「告白はしたの?」
「…そんなダサいこと出来ないだろ」
「そーゆー事言ってるからダメなんだよ!アタックしなきゃ!」
恋する友人を応援したくて寝転びながらも強く言えば、ヤマケンは「アタックねぇ…」と小さく呟いたと思ったら急に私の腰に手を伸ばして、そのまま力強く引き寄せられた。
「えっ、ん??な、なに?」
ヤマケンの制服の胸元に顔を押し付けられてびっくりしながらヤマケンの顔を見ようとするけど、がっちり掴まれてて動けないし、腕から抜け出す事も出来ない。
え、なんだこいつ、なに考えてんだろう。ていうかほっそい身体してると思ってたのに意外としっかり男の子の身体なんだな。私がどんなにもがいてもピクリともしない。
「ヤマケン放してよ。暑い」
「………アタックしろって言ったのはおわらないだろ」
「それは好きな子にって話……えっ?」
「…ほらな」
私の頭の真上で深く息を吐くと、パッと腕を放して解放してくれた。
身体は自由になったけど、ヤマケンの言葉の意味を理解しきれないで首を傾げてしまう。
えっ、なんだろう。この感じじゃあ、まるで、ヤマケンの好きなのって私って事にな…る?
そこまで思考が巡って、ボッと顔が熱くなる。
ヤマケンは私の赤くなった頬をちらりと見ると、少しだけ頬をぴんくに染めて不機嫌そうに呟いた。
「鈍感馬鹿女」
「ちょっ、好きな子に対してその発言ですか!」
「本当の事だろ」
叩かれたい跡も赤いけど、それ以上に顔をじわじわ赤くさせていくヤマケンを見ていれば、流石の私もこれが冗談なんかの類いじゃないことに気づく。
こ、ここは私がこのどうしようもない男ときちんと向き合って、更生させるのが世のためなのかな、なんて。理由を探してみるけど、わざとらしく感じて更に顔が熱くなる。
私は恋をするのかもしれない。