12月24日、夜7時。
Gボーイズの高級車に乗せられて連れて来られたタカシの部屋にかけられたドレスを見て咄嗟には言葉が出なかった。
「……なに、…これ」
「気に入らなかったか?今日はこれを着てもらおうと思ったんだが。他に希望があるなら用意させよう」
「っ、気に入らないわけないじゃん、だってこれ……!」
タカシの広すぎるくせに物がろくに置かれてない部屋にポツンとあって、存在を主張しているのはラルフローレンのドレス。
深い緑色と上品で控えめな装飾が美しい。美し過ぎる。
これは確かお店のディスプレイ用で、簡単に買えるような代物じゃないし普通の人が手の出せる金額じゃないはずだ。
この前冬物のセーターを買いに行った時にショーウィンドウの中のマネキンが着ていたのを見てその圧倒的な美しさに思わず見惚れたのをよく覚えている。
それなのに、そのドレスがいま私の目の前にあって、この王様はそれを私に着るように命令している。
今日はGボーイズのクリスマス会。
キングの気まぐれによって企画されたこのイベントは、開催一ヶ月前から池袋の若者の話題の的で誰もがこの日を待ち望んでいた。
私もタカシに誘われて彼のパートナーとして行く約束をしてたけど、服はこっちで用意するから、と言われて当日まで見せてもらえなかった。
まぁタカシの事だからサイズも分かるだろうしきっと小綺麗なラインで固めてくるんだろうな、くらいにしか思ってなかったのに、まさかこのドレスを用意してたなんて。
私はどうやら自分の彼氏を甘く見積もっていたらしい。
「気に入ったのなら良かった」
「あ、ありがとう…すごく、すごく嬉しいよ。着替えるね」
ドレスを抱えてお礼を言う私にタカシは軽く顎を引いて答える。
隣の部屋に行ってドレスを着て鏡を見れば心臓がドキドキいってうるさかった。
なんて綺麗なドレスだろう。上質な生地が肌に気持ちいい。
おかしい所が無いか確認してからゆっくりタカシの所に戻れば、池袋中の女の子がメロメロになっちゃうようなかっこいい顔でタカシは微笑んだ。
「やはりいいな。おわらないの白い肌にこの色はよく映えると思ったんだ」
「っ、こんなに高い物じゃなくても、良かったのに」
「自分の女が一番似合う物を着せたいと思うのは当然だろう」
「……ありがとう」
よくよく見れば、タカシのネクタイとベストも私のドレスに合わせてシックな緑で統一されていて相変わらず隙のないセンスの良さに脱帽する。
私をここまで大切にお姫様のようにしてくれるのは世界中探してもこの氷の王様だけだろう。
どこを探したってこんなにいい男はいない。
今年もタカシと一緒に過ごせた事を心から嬉しく思う。来年も楽しいことが沢山あるといいな。
数え切れない人数を殴ってきたとは思えない綺麗な指を、感触を確かめるように私の首元から鎖骨にかけて滑らせるとそのまま私に腕を差し出してくる。
満足気に微かに笑うタカシに私も微笑んでから、腕にそっと手をかけた。
素敵な夜が、はじまる。