街に通る風の中に微かに夏の匂いがまじって来た頃、懐かしい後ろ姿を見つけた。


あれは、悠太、だ。


祐希とは双子でそっくりな顔だし身体つきも似てるけど、後ろ姿でも着てる服とか雰囲気とか歩き方で確信が持てる。あれは悠太だ。


距離は、5メートルくらい。


私達の他にもたくさんの人がいるこの通りでちょっとぼーっとしながら、でも器用に人ごみを避けて歩く悠太の後ろを私も歩く。


いや、別について行ってるわけじゃないし!駅がこっちの方向なんだし!


悠太とは高校の時に少しだけ付き合って、別れた仲だ。

ずっと友達として一緒にいたけどさりげない優しさにいつの間にか惹かれて、告白して、付き合った。


だけどなんだか悠太の態度はドライで、不安になった私は付き合う前なら気にしなかったことまで気になり始めちゃって、結局それがつらくて別れた。
別れを切り出した時も悠太は「おわらないがそうしたいなら、いいよ」とか言ってすごくあっさりしてて、やっぱり私のこと好きじゃなかったのに無理して付き合ってくれたのかな、とか思ってまたつらかった。悠太は優しいから絶対ありえる。っていうかそれ以外、ない。



どうしようかな。道変えようかな。なんか後ろ歩いてるだけで気まずいし。よし、そうしよう。




「……!!」



ちょっと戻って交差点を渡ろう、と決心した瞬間、前を一定のスピードで歩いていた悠太がなにを思ったのか急にくるりと後ろを振り返って、私とばっちり目があった。
しかもなんかこっち向かってくるんだけど。え、どうしようこれ。どうすればいいの。
急すぎる事に驚きすぎて私も思わず動きを止める。悠太はどんどん近づいてくる。




「やっぱりおわらないだ。なんかいる気がしたんだよね」

「ひっ、ひさしぶり」

「うん。ひさしぶり」




しっかり声の届くところまで来てから、特に驚いた様子もない悠太は落ち着いたまま喋り出した。
え、なんで悠太こんなに普通なの。ちょっとは気まずく感じたりしないの。そうじゃなくても会うのめちゃくちゃ久しぶりなのに。
自分の声が少し裏返って恥ずかしい。だけど悠太は相変わらずだ。ちょっと悔しい。


けど、悠太、大人っぽくなってかっこよくなったな。
話せて嬉しくないわけじゃないけど、なにを話していいのかわからなくて困ってうつむいていれば、上から声がかけられる。




「…あの、さ。いまからなんか用事、あるの?」

「え…ない、けど」

「……じゃあ………一緒にお茶でも、どう、ですか」

「…!」



急に敬語になるのは微妙に言いずらい事を言う時の、悠太の癖だ。
これはもしかしなくても誘ってくれてるのかな。気まずいけど、悔しいことにいまでも悠太を目の前にしてどきどきしちゃう私には断ることなんてできなくて。


不安を抱えながらもちゃんと目をみて頷けば、悠太は少しだけ口の端を上げた。




「…よかった」

「っ、」



こんな優しい顔で、優しい声で、反則だ。

私、単純だから期待しちゃうよ?

真っ赤な顔で動けないでいる私の手を、悠太はゆっくり取ると街を歩きだした。


悠太の手は昔と変わらず大きくて、あったかくて。

この手に引かれるなら、どこに行き着いてもいいや、と痺れた頭の端っこで思った。





イメージソング; バイバイ

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