朝日がゆっくり部屋を照らしはじめて意識が覚醒してくると微かな違和感に気づいて咄嗟に起き上がる。



「、…いない」



空っぽのベッド。フランがいない。
きっと夜の間に任務に行ったんだろう。でも、起こしてくれなかった。

一緒にいるようになってからどんなに夜遅い時間でもフランが任務に行くときは私を起こしていってきますって言ってくれた。私もいってらっしゃいって言えた。
それが、私達のたったひとつの約束だった。誕生日をすっぽかしても記念日を忘れても絶対に守ってくれた約束。
なのに、昨日は起こしてくれなかった。こんな事、はじめてだ。
フランみたいに戦闘要員じゃない私は、フランが私を起こさないように静かに起きれば絶対気づけないし、そんなこと幹部であるフランには朝飯前だ。


どうしよう。絶対、昨日の喧嘩のせいだよね。

たわいもない、いつも通りのフランの毒舌に、カチンときた。
なんて言ったかなんてもう覚えてない、そんな些細なきっかけで始まった喧嘩。結局謝ることが出来なくて、朝起きたらごめんねって言おうと思ってたのに。それなのに私になにも言わないで任務に行っちゃうなんて。




「…ばかフラン………」



奴の名前を口に出した瞬間、どうしようもない不安が体中に渦巻いた。

フランは強い。だから任務を失敗することなんてないってわかってる。だけどそんな強いフランが行かなきゃいけない任務ってことは相当難しくて危険な任務ってことだ。

それが分かっているから絶対いってらっしゃいって言ってたのに。
縁起でもないけど、あんな職業だからいつが最悪で最後の別れになるかわからない。だから絶対絶対なにがあってもフランが任務に行く前はちゃんと笑顔で送りたかったのに。

昨日、ひどいこといっぱい言った。もしフランになにかあったら、このままお別れになっちゃう。そんなの絶対嫌だ。
ごめんねってちゃんと言いたい。大好きだよって。ずっとずっと大好きなんだよ、って。

弱い私はフランを助けることなんてできないからただひたすら待つことしかできない。
お願いだから、全部謝るから、大好きだから、無事に帰ってきて。










…意外と長引いちゃいましたねー。

服についた埃を払いながら無駄に長い廊下を歩く。

本当は日帰り任務の予定だったのに予想以上に敵勢力が多くて三日もかかってしまった。

おわらないサン心配してるかなー。……してないか。

ミーも結構酷いこと言っちゃったし。おわらないサンも結構怒ってたし。

悪かったな、と思って任務に行く時起こさなかったけどゆっくり寝られたかな。

いつもミーが任務行くときはいってらっしゃいと言ってくれるおわらないサン。どんなに夜遅くてもどんなに眠くてもふにゃりと笑って言ってくれる。だけどいつもいつも起こして悪いと思ってる。だからあの日は起こさなかったけど…。

いろんなごめんなさいの気持ちを込めておわらないサンの好きなケーキ買ってきたけど、許してくれるかなー。





「……ただいまー」



ミーとおわらないサンの部屋の扉を開けると中は真っ暗で。
でもたしかにおわらないサンの気配はする。おかしいなー。まだ寝るような時間じゃないけど…。

不思議に思いながら部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、どん、とあたたかいなにかがぶつかってきた。おわらないサンだ。




「…、おわらない…サン?」

「………………………」

「おわらないサーン?」

「………ふら、ん…」

「…おわらないサン………」



毛布にくるまってミーに抱きついてきたおわらないさんが微かに震えているのがわかる。


小さい肩の震えを止めたくて、おわらないサンが安心できるようにケーキを投げ出してとにかく抱きしめる。


ミーのいない間になにかあったのか。何にこんなに震えているのか。いろいろと聞きたい事はあるけれど、そんな事は後回しだ。

おわらないサンの身体を持ち上げてそっとベッドに降ろして、部屋が真っ暗なままじゃおわらないサンの表情もわからないからベッドの隣にある小さなライトを照らす。




「…どうしたんですか、おわらないサーン。よ、よーしよーし」



ぼんやりとした弱い明かりに照らされたおわらないサンは泣いていた。声も出さなかったから気づきませんでしたけどー。なんて器用な。…いや、不器用なのか。



「ふ、ふらんが、帰ってきて、…おっ遅いよ……」

「なんだかよくわかりませんが遅くなってごめんなさいー」

「だっ、だって、起こして、くれなかった…もし、フランになにかあったら、……っ、心配、したんだから、!」

「…ごめんなさいー」



涙に濡れたおわらないサンの目の下には隈ができていて。自分がどれほど彼女に愛されているのか分かった。
まさか、ミーが任務に行っていた三日間、ずっと待っていたんだろうか。
ずっと、ひとりで部屋で震えながら。小さくなって毛布にくるまって、最悪の結果を考えないようにしながら。


本当だったら日帰りの任務だったんですけど、わらわら出てきた雑魚のせいで遅くなっちゃいましたからねー。全員きっちり殺したけどもっと素早く苦しむように殺せばよかったかもー。



ただただおわらないサンが愛おしくて、背中をあやすように撫でながら彼女の呼吸が落ち着くのを待つ。



「おわらないサン、ごめんなさいー…、もう泣かないでくださいよー」

「わ、わたしも、ごめんね。フラン、ひどいこといっぱい言って、ごめんっ、」

「そんなの気にしてるわけないじゃないですかー。ミーこそ、任務行く前に言わないですいませんでしたー」

「っ、次やったら、ゆるさないっ、から…」

「わかってますってー」

「…………………………」

「…おわらないサン、……ミーを愛してくれてありがとうー。ミーもおわらないサンのことめちゃくちゃ大好きですよー」

「……………………………」

「………おわらないサン…?」



反応の無い彼女を不思議に思ってのぞき込めば、そこには安らかな寝顔があって一気に力が抜けたのがわかった。

…ですよねー。だってこの三日間一睡もしなかったんですもんねー。


ミーの服をぎゅっと握りながら眠るおわらないさんに、やっと安心できる、と言われたような気がして嬉しくなった。

ミーが安心できるのも、あなたの隣だけですよ。


額にキスを落として、ミーも目を閉じた。


起きた時、ちゃんとさっきの言葉をもう一度伝えよう。
それから、落としてたぶんぐちゃぐちゃになったケーキをおわらないサンに見せよう。きっと彼女は笑ってくれるから。




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