お昼前の屋上は太陽が急角度から輝いていてすごく眩しい。
ごろんと大の字に寝っ転がってみたけど光が強すぎるから目元に腕を乗せる。
しばらくそのままぼーっとしていると屋上のドアが開く音がして、足音が近づいてくる。
「…なにやってんのそんな格好で」
「………………………………」
悠太の声。
脚になにか置かれる感覚がして少し腕をずらして見てみると青いブレザーがかけてあった。隣にはワイシャツ姿の悠太。
「無視ですか」
「…悠太こそ、なにやってんの」
「…べつに」
なんだか少し呆れたような悠太の声に、また顔に腕を乗せる。なんでこの人は来ちゃうのかなぁ。本当に、優しくて、酷い人。
「こんなとこ来ちゃだめだよ」
「……なんで」
「…誤解、されちゃうじゃん」
「なにが」
遠まわしに来んな、って言ってるのに。悠太もわかってるはずなのに。私に言わせる気かこのやろー。もういいもん。なら言うもん。
「…彼女、できたんでしょ。だったらダメだよ、他の女の子にこんな風にかまっちゃ」
上体を起こして、ブレザーを悠太に差し出すとこっちを見返してくるだけで受け取らない。
「かけてなよ。スカートなのに寝っ転がって、見えるよ」
「見られてまずいぱんつはいてない」
「またそういう事言うしこの子は…」
ふぅ、とため息をつく悠太。
悠太はいつもそうだ。みんなに優しくて。だけどそれじゃ誰も幸せにならない。
昔から優しい悠太が好きだった。大好きだった。
お兄ちゃんみたいでいつも助けてくれて。それが恋だと知ったのはいつだっただろう。もう忘れちゃった。
でも悠太には彼女ができた、らしい。
一緒に帰ってる姿を見たし、祐希も不満気ながらにそう言っていた。
悠太が、誰かのものになってしまった。もう私が甘えていい悠太じゃない。
ずっと、ずっと好きだったのに。だけど好きの時間が長いことなんてなにも助けにはならないのをよく知ってる。
それでもすっぱり諦めるにはこの恋は大きくなりすぎてて。なんにもやる気が起きなくて一人で屋上に来たのにそこに悠太が来たら意味ないじゃん。
「…あーあ、私も彼氏つくろっかなー」
「なんで急に」
「別に急じゃないよ。こないだ佐藤くんに告白されたし」
「、なにそれ聞いてない」
「言ってないもん。断ったし。でもやっぱり付き合ってみようかな。…っていうか悠太だって彼女できたの私に言ってくれなかったじゃん」
「それは言うほどのことじゃなかったからだよ。で、なに、本当に佐藤くんと付き合うの。好きなの、そいつの事」
「ゆ、悠太どうしたの」
言うほどのことじゃないって、どういう事だ。言うほどのことでしょう。結構ショックだったんだから。彼女ができたにしても一番仲のいい女友達だと思ってたのに、教えてくれないのか。しかも悠太、なんか佐藤くんの話に食いつきすぎじゃないか。いつも通りの無表情だけどなんか余裕ないっていうか焦ってる感じが、する。
「俺はどうもしてないよ。おわらないこそどうしたの。好きでもない奴と付き合うの」
「そんなこと悠太に関係ないじゃん!言っとくけど、悠太だからね、最初に隠し事したの!」
「隠し事ってなに」
「だから、彼女できたってこと!」
「だってもう付き合ってないもん。話すようなことじゃないじゃん」
「話すようなことじゃないって、………ん?」
「…なに」
「…つきあって、ない……?」
だんだん腹が立ってきて噛み付くように声を荒らげたけど、悠太の発言に思わず止まる。
…え?なんだ、え、わけわかんない。
「そうだよ。もう別れたの。…っていうかあの人とは付き合ったっていうかいろいろあって本当に“付き合った”だけって感じだし」
「え、だって悠太、好きで付き合ったんじゃ、ない…の?」
「好きとかそういうんじゃなかったんだよ。っていうか告白された時がほぼ初対面だったし。あの人もなんかいろいろあって、あの時は俺が付き合うのが一番よかったからそうしただけ」
「わ、わけわかんない…で、もう別れたの?」
「そうです別れたんです。それで、おわらないの話は。まだ俺は納得してないよ」
自分の話はほんとうにどうでもよさそうに済ませて、また佐藤くんの話をききたがる悠太。わけわかんない。もう別れたとか、早すぎでしょ。悠太も好きで付き合ったわけじゃなかったんだ。え、それじゃあいままでの私の悲しみはなんだったの。
「っふ、ははははは」
「…どうしたの。頭でも打った?」
「だ、だって、悠太、ぜったい変っあっははは」
「変なのはおわらないだよ。好きじゃない奴と付き合うなんて」
「悠太には言われたくないよ」
「だからあれは違うってば」
何度も説明しようとする悠太にまた笑いがこみ上げてくる。
あーあ、バカらしい。なんてくだらない。
こんなにムキになってなにか言ってくる悠太、めずらしいな。なんだか祐希みたいだ。
おもしろいから、佐藤くんと付き合う気はないって言うのはもう少し後にしておこう。
空が、眩しいな。
*なんていうか、彼の優しさはどっかで誰かを傷つけてる気がしてならない。