潤さんのお部屋のカーペットの上、向かい合って座る私と潤さん。

先程まで玄関であれやこれやと話していたけれどいかんせん情報量が多すぎて。
「ちょっと、一旦落ち着いて話しましょうか」と焦りを通り越して一周回って落ち着いた私が提案すると潤さんもそれに応じてくれた。

なんならコーヒーまで淹れてくれてお茶請けのお菓子まである快適空間。

コーヒーを一口飲んで、意を決して潤さんに向き直る。もう涙は乾いていた。


「まずは確認したいんですけど」
「おう」
「…八千代さんのことって、好き…でしたよね?」
「そうだな」


そうだな、って…。
涼しい顔して肯定されて、グッと心臓が痛くなるけどここで立ち止まってはいられないから無視だ無視。
事実確認を進めないとスッキリしない。



「えっと…それじゃあいつ辞めた?…終わったんですか?」


なんて表現するのが適切か難しくて、言葉を探りながら聞くけれど潤さんは私の質問の意図は分かってくれたらしく、うーん、と考え込むそぶりをした後ゆっくりと口を開く。



「はっきりいつ、っていうのも分からねェもんだな…考えたことなかった」
「そっか…。なら、その、私を…好き?っていうのは、いつ…から?」



全部確認してスッキリしたい所ではあったけれど、やっぱり面と向かって聞くのもなかなか恥ずかしいもので。
しどろもどろになりながらもどうにか質問を投げると、潤さんはこれまた唸りながら答えれくれる。



「確か、ライブの頃…かその前か…その後か……悪いな、曖昧で」
「いえいえ、いいんですよそんな」



ら、ライブの時?!
結構前じゃないかなそれ。
じゃあそれ以降うじうじ悩んでた私の時間無駄だったってこと…?不要なうじうじしてたの…?

衝撃の事実にしばらく言葉を失くしていると、今度は潤さんが少し恥ずかしそうに、でも照れ隠しなのかやんわりと睨みながら私に聞いてきた。


「そっちはどうなんだよ」
「え」
「いつから俺のこと、その…オトコとして気にしてたんだ?」


こちらから質問するということは当然向こうからもされるであろうことは予測していたけど、やっぱりいざ聞かれるとかなり恥ずかしい。
だけど今更何かを隠したり取り繕ったりするのは無駄だから、この際どうにでもなれという思いで正直に答える。



「私は結構はっきりしてますよ。2年生に課題頼まれた時あったじゃないですか」
「あったな」
「潤さんがあの人達と私の間に入ってくれて、もうああいうことが無いように言ってくれた時」
「(かなり前じゃねぇか…!)」
「すごく嬉しくて。それからですね」


さっくり告げると潤さんは手で額を覆って、大きく息を吐いていた。
表情が見えないからどんな感情でいるのか知る由もないけど、金髪から除く耳が赤くなっているのだけわかる。


ここまでで、大まかな事実確認は済んだ。
後は、この先どうするのかを決めるだけだ。

私の考えを見通した様に、潤さんが口を開く。


「…さっき、アイツと付き合うって言ってたけど」
「はい」
「……やめとけよ」
「…そうですね」


本気で、宮澤くんとは付き合おうと思っていた。
人として既に好きな人だから、前の彼氏みたいな過ちは犯さない。
ちゃんと時間をかけて宮澤くんのことを男性としても好きになる確信もあった。

だけど、こうなった今はもう宮澤くんを選ぶこと自体彼に失礼な気がして。この先潤さんとどうなるにせよお付き合いする気は既に無くなっていた。

となると、今から私がするべきことは限られている。
ぬるくなってきたコーヒーを味わって、意を決して潤さんをまっすぐ見る。


「潤さん、私と付き合いませんか?」


告白をするのは初めてだ。
こんなに心臓がバクバクするイベントなんだな。
今までこんな私に想いを告げてきてくれた人たちに今更ながら感謝する。こんな心臓に悪いことを乗り越えてまで伝えてくれて、ありがとう。


伝えてから、潤さんから言葉が発せられるまで永遠の様にも、ほんの一瞬の様にも感じた。
ただ一つ間違いないことは、こんな心臓に悪い時間は二度と味わいたくないと強く思った。



「ああ。よろしく」
「!!!」


想いが伝わる、という経験が初めてで、身体中の細胞が喜びに震えるのがよく分かる。
脳内物質がどばどば分泌されてクラクラする。

こんなに幸せな瞬間が、私の人生の中にあるなんて。

そう思わずにはいられないほどの多幸感に包まれる。


私は意識せずともにっこりしてしまって、久しぶりに顔を見て笑いあった。




.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -