車に乗って、潤さんのアパートまで運転する。この辺の地理はまだあんまり詳しくないけど、潤さんのアパートならもう何回も行ってるからだいたいの方向は分かる。
駐車場に私が車を停めるのと潤さんが実家に車を置いて歩いてくるのはほぼ同時だった。やっぱり通いなれてるだけあって早い道知ってるんだな。後ろ付いてけばよかった。
「おお、早かったな」
「…いやみ?」
「ちげーよ」
隣に立った潤さんに思わず言えば本当に嫌味なわけじゃなかったらしく苦笑が返ってくる。ますます普通だ。だけど、普通な態度の潤さんを見るほどわからなくなる。あのお店での潤さんはなんだったんだろう。
「…私さ、やっぱり別のバイト先探そう、かな」
部屋に入って、置かれたテーブルの前にいつもどおり座ってからずっと考えてた事を言った。もしかしたら潤さんは自分のパーソナルスペースに入り込まれたような気がして不機嫌だったんじゃないだろうか。人はたぶんみんな大切な空間とか居場所とかを持っていて、それが潤さんにとってあのお店なのかもしてない。だとしたらたとえ知らなくて偶然だったとしても私はあそこにいちゃいけない。いくら仲のいい人でも控えなきゃいけないラインはあるはずだ。
「…は?」
「???」
なのに潤さんは煙草に火をつける体勢のまま固まっている。
ん?なんだ?…ん?
「なんでだよ。気に入らない奴でもいたのか?」
「違いますよ!みんないい人そうだし、楽しそう、だけど、潤さんは…」
「俺?」
「…潤さんは、嫌じゃないんですか、?」
「?」
結構勇気をふりしぼって言ったのに鈍い潤さんはまだ分からないみたいだ。
このにぶちんが!!!同じ学部の女の子が潤さんの話をしても最後は必ずため息をつきながら「でも佐藤くん鈍いから…」と悲しく締めるのも仕方ないな。
「だから、私がバイト先にいるのが嫌だから、機嫌悪かったんじゃ…ないんですか?」
「あぁ。……そういうことな。…いや、俺別に機嫌悪くなかっただろ」
「でもいつもと雰囲気違ったもん」
「それは驚いてただけだって」
苦笑しながらやっと煙草に火をつけて、潤さんは煙を吐き出す。
そんな、驚いてただけって…!そりゃ私も相当驚いたけど潤さんは私の上を行って驚いてたらしい。まったく、わかりにくいことこの上ない!!
「店の奴らもおまえの事気に入ってたし、おまえは要領もいいからこっちとしても助かる」
「もー!本当に潤さん不機嫌だと思ったんだから!!!まぎらわしい!」
「悪かったな」
「…まぁいいや。……さて、やっちゃいますか」
気分もすっきりしたところで課題に向き合う。このレポートの内容はとくに難しいことじゃない。教材を読んでまとめて自分の意見を書けばいいだけだ。
「潤さんこれ読みました?」
「いやまったく」
「ですよねぇ…私も。じゃあ潤さん3章読んでください。私4と5読みます。で、大まかな内容を教え合いましょう」
「わかった」
私が言ってすぐ、なんの抵抗もなく潤さんは読み始める。こういうふうに年下の私の話にすぐ同意してくれるのは潤さんの長所のひとつだ。
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