授業が終わったと同時に周りの学生がわいわいと一斉に荷物をまとめて外に向けて動いていく。私はというと、最後に言い渡された課題にどう取り掛かるか目星をつける為教科書を開いてざっくりとマーキングを残す。

この辺りは教科書だけだとちょっと弱いなぁ。確か図書館に使える資料があったはず。少し前に目を通した、著者名は確か…。

パソコンも引っ張り出して、数週間前に書いたレポートを確認すると最後の引用に目当ての著者名が残っていたからメモに残す。


この教室はこの後授業ないからちょっとくらいなら使ってていいから楽ちんで助かる。
あとは数冊新しく読んだ本の内容と織り交ぜて適当に構成すればいけそうだなぁ。ざっと頭の中でかかるであろう工数と時間を計算する。できればこの後図書館で骨組みだけでも作っちゃいたいけど。

パソコンに表示される時間を見て、やば、と気がつき荷物を片す。そろそろ約束の時間だ。
面倒くさいなぁ。バイトも入れてないからささっと課題やりたいのに。

でもまぁ約束は約束だし、仕方ない。

教室の建物を出て、待ち合わせ場所である駐車場方面に足を向けると少し先に潤さんが歩いているのを見つけた。同じ時間に授業あったのかな。これからバイトかな。


「潤さん」
「おお、お疲れ」
「バイトですか?」
「あぁ」

寝不足だろうか。くああ、と潤さんは眠たそうに欠伸を漏らす。
昨日は気がついたら眠ってしまっていて、起きたら潤さんの部屋で朝を迎えていた。しっかりと布団をかけてもらっていたのがわかって、少し気恥ずかしかった。優しいんだからなぁまったく。

寝ている間に向けられた優しさに頬を緩ませていると、向こうからこちらに近づいてくる人影。駐車場で待っててって言ったのに。


「あ、いたいたなまえ!」
「ごめん、待たせた?」


私に気がついてにこやかにこちらへ向かってきた直人は隣の潤さんにもぺこりと頭を下げた。
正直そんなに積極的に会いたい相手じゃないからなにかにつけて誘いを断っていたけれど、そろそろ流石に悪いかなと思って会う約束をした元カレ。別れる時に、これからは友達として…とは言ったけど本当にその通りになるとは少し驚いたのは内緒だ。


「俺が早くきすぎただけ。なまえやっと時間作ってくれたのが嬉しくて」
「予定合わなくてごめんね。どこ行く?映画とか?」
「なまえの部屋でなんか観ない?前にお邪魔したけど居心地良くて好きだな」
「!!」
「んー…まぁいいよ」
「っ、おま、」


ニコッと笑いながら提案されて、特に断る理由もないから受け入れると潤さんが何か私に言いかけたけど、その後待っても特に続きの言葉は降りてこなかった。


「ん?どうかしました?」
「……………いや。…なんでもねぇ」
「??」


たっぷり10秒沈黙を守って、やっと口を開いたと思ったけどやっぱりなにも言ってこない。表情はめちゃくちゃ複雑そうに歪んでいるけれど、言葉にはしてくれないみたいだ。

なんかこの潤さんの表情、見たことなるなぁ。なんだっけ。…あ、そうだ、八千代さんが店長の惚気話しててそれを聞いている時の顔に似ている。

私の苦手な表情。だってこの表情は、潤さんが私じゃない好きな女性を思ってする顔だから。でも今はもちろん八千代さんも店長もいない。

なんで潤さんがそんな顔してるのかは分からないけど、嫌な記憶が蘇るからあんまり見ていたくなくてそっと顔を背けた。

「…バイト頑張ってくださいね」
「…おう」

去っていく大きな背中に後ろから声をかけると、気怠そうに左手をあげて答えてくれた。
それを見届けてから、少し先で待つ直人の方へと歩いていく。

今日を一緒に過ごすのが潤さんだったら全然私のテンションも違っていたんだろうなぁと考えかけて、やめる。流石に失礼だよね。今日会うことに決めたのは私なんだから、ちゃんとこの時間は向き合わないと。

私のいないお店で潤さんと八千代さんがどんな様子で過ごすのか、どんな会話をして楽しく笑い合うのか。必死で想像しないように脳内イメージをかき消した。




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