「いただきます!」
「どうぞ」
「わー!おいしい!ふわふわだ!」


出来立てのハンバーグを食べながら、うっとりする。


バイト先のまかないも潤さんが作ってくれる時もあるけど、やっぱり材料とかはお店特融のものになるのか、お家で食べさせてもらえるものとは少し違う。


潤さんのお家で食べるご飯はどれもこれも本当に美味しくて、いい主夫になるだろうな…八千代さん、ラッキーですね…と遠い目で見てしまう。



「あ、服汚れると面倒だろ、ちょっと待ってろ」
「たしかに。すみません、たすかります」


出来立てのハンバーグの引力に耐えかねてむしゃむしゃ食べ始めてしまったけれども今日は色の淡い洋服だから、このソースが跳ねたら目も当てられないほどみっともなくなってしまう。


本当ならば、好きな女性のいる潤さんのお洋服なんてもう着ない方がいいんだろうけれども、背に腹は代えられない。半裸で食べるわけにもいかないし。


お行儀が悪いけれども、少しご飯を中断していそいそとお部屋の死角で着替える。


…じゅんさんの、においが、する………


いままではそんなに気にならずに着ていられたけれども、いざ意識しはじめると洗剤で洗った後もなお残る、ほのかな煙草のにおいや潤さん自身のにおいに動揺するのを抑えられない。




「どうした?サイズでかすぎたか?」
「い、いえ、大丈夫です!」



着替えにいつも以上に時間がかかる私を不審に思ったのか、心配そうに物陰から声をかけられて、慌てて返事をして食卓に戻る。



「ありがとうございます。これで心置きなく食べられる」
「そうかそうか」
「おいしいなぁ」
「そりゃよかったよ」
「あぁ、潤さんもうさっきの問題解けたなら追試も、なんなら次の試験も問題ないと思いますよ」
「…まじか」
「結局繋がってる概念の範囲なので、ちょっと応用でやっときました」
「すげぇな。サンキュー」



お礼を言われて少し照れてしまう。

えへへ、力になれたならば、よかった。



潤さんといる時間は楽しい。
私が好きに振舞っても許されるのが分かっているのが心地いい。

我ながら生意気な物言いをするし、お部屋でも好き勝手過ごしているけれどもそれを潤さんは私の個性の一部として受け入れて許容してくれる。


私を理解してくれて、許してくれて、受け入れてくれる。
友達だから、きっとそうしてくれるのかな。
っていうかこんだけ好き勝手振舞ってればそりゃ女性としてはカウントされなくて当たり前か…。


恋愛世界の真理に気づいてしまったような気がしてへこむけれども、いはま潤さんといられるのが嬉しいし、楽しい。


いつか、一緒にいられなくなるその日まで。
潤さんが、心から愛おしいと思う相手と結ばれるその日まで。

こんな穏やかな日が続きますように。







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