少し前に受けた試験の結果が戻ってきて、小さく息を吐き出す。

…やっちまったな



「あれ、潤さん追試?めずらしいね」



だから一緒に勉強しますか?って誘ったのにー、と俺の解答用紙を覗き込みながら言ってくるなまえの手元にはほとんど満点に近い解答用紙がある。


轟への気持ちに一人静かにケリをつけたところまではよかったが、その後に湧き上がってきたなまえのことと、昔付き合っていた男のことと、ついでに相馬のことが脳みそにこびりついて、勉強をする余裕もなくテスト当日を迎えてしまった結果がこれだ。

なまえはいつも通り一緒に勉強を、と誘ってくれたが、とてもじゃないけど頭がぐちゃぐちゃの状態じゃ一緒に勉強なんて出来ずに断った。


「ここ、後々響くからいまのうちに克服しといたほうがいいですよ」
「…そうだな」
「あの、よかったら教えますけど…」


覗き込んでくる様に、少し遠慮がちに言ってくるのは、きっと俺がここ最近こいつの誘いを断り続けていたからだろう。

ずっと長年抱えてきた轟への想いを消化して、ようやく自分できちんとなまえのことを愛おしく思っていることに向き合えるようになってきた。

そろそろ、なまえと向き合ってみるべきなんだろう。




「あぁ、助かる。頼むよ」
「はい!」



まずはなまえといつも通り接することからだな、と考えて素直にありがたい誘いに乗れば、大層嬉しそうになまえが笑う。

可愛いじゃねぇか、ちくしょう。



「俺ンとこでいいか?なんか久しぶりに飯作るよ」
「わーい!潤さんのハンバーグ大好き」



駐車場までの道のりでちゃっかりメニューの指定までしてきたなまえに、肩の力を抜いて笑っていたが、なまえの車の前で携帯を覗きながら立っている人影を見つけて身体が強張るのを感じた。



「あ、なまえ!やっと来た」
「あれ、ナオト?約束してたっけ?」
「ううん、してないけど近く通ったからなまえの車停まってるの見つけて会えるかなーって思って…って、あれ、佐藤サン、でしたっけ?こんにちは」



なまえとにこにこ笑いながら話す本庄は、俺を見て一瞬鋭い光を瞳に宿したがすぐにその光を消すと再びにこやかな顔でなまえを見る。



「なまえ今日もう授業終わりって言ってたよな。バイトも休みでしょ?なまえが見たがってた映画行かない?昔よく一緒に行った和食の居酒屋も行こうよ」



さらさらと目の前の男の口から紡がれる言葉に、少し息が苦しくなる。
俺は、なまえが見たがっていた映画がいまやっていることも知らないし、昔2人が好んで行った店を知らない。なにも、知らないんだ。



俺の勉強なんていつでもいいし、っていうか全く勉強に身が入るとは思えないし、俺の知らないなまえを見せつけられるのが辛くて息が苦しくて、水中に沈められたかのように呼吸が上手くできなくて、情けなくて、俺はじゃあ帰るから、と立ち去ろうと思った瞬間、なまえが俺の腕を強く引いた。



「今日は潤さんと先約あるから無理!っていうか、急に来られても困るから先に連絡してよね」
「、!」
「潤さんもなにぼーっとしてるんですか。早く行きますよ。スーパーでひき肉買いましょうね」
「え、ちょ、なまえ、」
「私にも予定があるんだよ。またね」



なまえ、と呼び縋る奴をスルーして、俺の腕をさらりと放して運転席にするりと乗り込むと、なまえは俺に軽く手で合図を出す。



―遅い。いきますよ。



簡単なハンドサインと、視線だけで俺に的確に意志を伝えてくる。

さっくりした性格で、本当に心地がいい。



「じゃあな」



さっさと運転席に収まってエンジンを温めているなまえをおろおろと見ながら何も言えなくなっている本庄に、俺も礼儀として声をかけて自分の車に乗り込む。



一瞬でも、なまえが俺との約束を反故にすると思ったことが申し訳ない。

なまえは、約束をきちんと守る、優先順位を正しく付ける公平な奴だ。

その判断に対してどこまでもまっすぐで揺らぎがない。そういうところが、とんでもなく魅力的な奴なんだ。









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