先日久しぶりにやったライブに、なまえが来た。

なんだかここ最近元気無いみたいだったし、あいつにとっても気晴らしになれば。と思ってチケットを渡した。
二枚やったのは1人で来るのもつまらないだろうから適当に友達とでも一緒に来ればいい、と思ったからだ。
だけど俺は勝手になまえの友達=女と思い込んでいたみたいで、ステージから見下ろしたなまえの隣に見覚えの無い男が立っていた時はびびった。もしかしたら俺が知らなかっただけでなまえは前からこの男とものすごく仲がよかったのかもしれない。
打ち上げに誘っても来なかったし。恐らくあいつと2人で飯でも食ったんだろう。

俺の知らない男といた、ってだけでここまで動揺する自分にさらに動揺した。
俺はいつの間にあいつの全てを知っている気になってたんだろう。なまえにはなまえの世界があって、そりゃ俺の知らない男友達だっているだろう。俺の知らないなまえだって、いるだろう。


ステージから、バレない程度に何度もなまえの顔を見ていたら、あいつは決して前の方に立っていた訳でもないのにどんなに遠くてもはっきりとなまえの瞳に涙が溜まるのが見えた。
けどそれが零れる前になまえは袖でぬぐう。


それを見て何故だか心臓が熱くなって、音を、外した。


メンバーは一瞬気づいたが、すぐにアレンジで誤魔化せば幸い客には気づかれなかったみたいだ。


だけど誤魔化せた後でも心臓の熱は引かなかった。

あいつは何を思って涙を溜めたんだろう。何が、なまえを泣かせたんだ。

どう足掻いても確かめようの無いソレに、更に熱が籠る。

いつの間に俺はこれほどなまえの事が気になるようになったんだ。

気になって、仕方ない。

連れて来た男との関係も、あの後2人が何をしたのかも、涙の、理由も。


轟に気持ちが向いていた時でさえ、これほど轟の事が気になった事があっただろうか。
いや、無かったな。

俺はいま自分の気持ちがどこに向いているのか分からなくなっている。
轟に対して持っている感情は、昔と同じモノなのか。
なまえに対して向けているこの感情は一体何なのか。

自分で自分の事がわからないなんてすげぇ気持ち悪いな、俺。

だけどライブの差し入れだ、となまえが恥ずかしそうに渡して来た花は、いまでも俺の部屋の片隅で咲いている。
それをぼんやり眺めては考えるのはなまえの事で、また心臓が熱くなった。



そして今日、バイトに来てみればホールに人手が足りな過ぎるからお前が行け、と店長に急に指名されてげんなりする。
今日はなまえはシフトに入っていない。
嫌々ホールの制服を着る俺を見てにやにや笑う相馬を軽く蹴ってから、オーダーを取りに行けば、



「…お前、何してんだ」
「うわぁ!潤さん!なにやってんですか?」



オーダーを取りに行った席に座っていたのは、他でも無いここ数日俺の思考を支配しているなまえで、しかも連れはこの間ライブに一緒に来ていた男だった。


どうして俺がホールに出てるのか不思議そうに聞いてくるなまえに手短に状況を伝えれば「ごめんね、今日出れなくて」と笑った。
そのバイトに出られない理由がこの男と会うためなのかと思うと腹の奥の方に黒いイラつきが溜まった。

とりあえず注文を取って戻れば相馬がすかさず寄ってくる。



「あれ?みょうじさんだよね?一緒にいるのもしかして彼氏?」
「知らねェよ」
「えっ知らないの?てっきりみょうじさんと一番仲良いのは佐藤くんだと思ってたけど、違ったみたいだね」



ここ数日まさに俺が気にしていた事をあっさりと相馬に言われて、ぐっと言葉に詰まる。
そうだ。俺が勝手に自分はなまえにとっては特別な存在なんだとどっかで思っていただけで、本当はなまえは俺の家に泊まるように他の男の家に泊まる事だってあるのかもしれない。俺が知らない、だけかもしれない。


そう考え始めるとあの馬鹿みたいに無防備な寝顔を俺の知らない野郎に晒している所まで想像が及んで一気に気分が悪くなる。


俺は、なまえを独占したいんだろうか。
だけど俺となまえの関係は大学の先輩と後輩。それとバイト仲間ってだけで、どこを探しても俺がなまえを独占できる理由は見つからない。

この前なまえが夜遅くから飲みに行くのを止めた時に言われた「関係ない」という言葉がどこまでも的を得ていて切なくなる。
俺がなまえに干渉していい理由なんて、無いんだ。



どうしても、なまえとあの男が一緒にいるホールに戻る気にはなれなくて無理矢理相馬にホールを任せて俺はキッチンに戻った。


結局なまえは、帰るまでこっちに顔を出す事は無く、楽しそうに男と話しながら店を後にした。



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