「せ、先日は大変お世話になりました…」


ぼそぼそ頭を下げながら言って持って来てた紙袋を渡す。
中身はこないだのお礼とお詫びのお酒と潤さんのお母さんがごはんを入れてくれていたタッパー。たまに頂いては食べ終わると洗って潤さんに返してる。


潤さんは少し笑って紙袋を受けとってくれてほっとする。よかった。いつも通りだ。


私が無様にも酔いつぶれたのは一昨日の話だ。昨日は二日酔いで大学に来れる状態じゃなかった。どんな無茶な飲み方したんだ自分…。
正直一昨日のことはあんまり覚えてなくて、潤さんが私が飲んでたお店に来たのはぼんやり覚えてるんだけど、その後の事が思い出せない。気づいたら自分の部屋で潤さんからの"酔いつぶれたから部屋に運んだ。下手な飲み方すんな"という内容の短いメモが残っていた。
それを見てさらに頭痛がひどくなったのはしかたないと思う。
だけどいま思い返してみると自分でも自暴自棄になってたな、と反省している。だからこれからはもうなるべく意識しないように普通にしてようと思う。それが、一番いいはずだ。また無理に忘れようとして潤さんのお世話になったら逆効果だし。



「まぁ、なんかあったら俺に言えよ。話くらい聞くから」
「…はい」



それを潤さんに話せたら苦労しないんだけどね。っていうか絶対言えない。曖昧に笑うと潤さんはそれ以上追及してこなかった。



「…そういえば、なまえ、おまえ今週末シフト入ってるか?」
「今週はたしか土曜の午後からだけ、だったと思いますけど」
「そうか…じゃあこれ、渡しとく」
「…なんですか、これ…チケット?」



潤さんが差し出してきたのライブハウスのチケットで、二枚ある。



「日曜の午後、ライブやるから暇だったら来いよ」
「あ、潤さんのライブですか!行きますよー!」



何度か部屋でギターを弾いてくれたのを思い出す。
チケットを受けとってお金を払おうとすると止められた。



「俺が勝手に言ってるんだからいらねぇよ」
「そういうわけにもいかないでしょう。…しかもこの前のお金だって払ってないし」
「それも俺が勝手にやったことだ」
「でも…」



私が酔いつぶれたあの日、私はお金を払った記憶が無くて宮元くんに聞けば来た二年生が払って行ったと言われた。
払い返そうとしたけど潤さんは一向に受けとってくれない。こうなると潤さんは頑固なのを知ってるからもうなにもできない。



「金はいいから、まぁ時間あったら来てくれよ」
「…わかりました。絶対行きますね」



二枚渡してくれたのはたぶん私が一人でいなくていいように、だ。いちいち濃やかで頭が下がる。そしてやっぱりこの人のこういうところが好きだなぁと思う。きっとステージの上でギターを弾く姿はもっとかっこいいんだろうな。ちょっと楽しみ、かも。



「…そろそろバイト行くか」
「そうですね。じゃあ、お店で」
「ああ」



潤さんが車に乗ったのをみて、私も自分の車に乗り込む。

ポケットに入れていたチケットを取り出して、にやける顔を止められない。

あぁ、嬉しいな。
もう好きとか男とか女とかどうでもいいや。ただそばにいられるのが嬉しいから、それでいい。このままで、いい。


チケットを丁寧にしまってエンジンをかける。
今日も、今日を楽しもう。



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