いつも通り授業が終わって家に帰るかな、と思っていると駐車場で会った潤さんに小さな鍵を渡された。


「車くれるんですか?」
「ちげーよ。部屋の鍵だ」
「?なぜ??」
「便利だろ」


なんでもないように言った潤さんは私から顔を背けて煙を吐き出す。
……たしかに便利だ。最近じゃシフトが一緒でも違っても関係なく潤さんの家に行くことがほとんどで、潤さんの部屋の鍵を預かることもしょっちゅうでスペアキーがあれば便利だな、と思ってたところだ。
でもたとえそう思っても付き合ってもいない異性にスペアキーをくれ、なんて絶対聞けないし、まぁ不便だけど仕方ないと思っていた矢先だったから余計びっくりした。


「確かに便利だけど…いいんですか?私が本当は超やばい女とかかもしれませんよ?」
「発覚したら鍵変える」
「それもそうですね。じゃあ、私も」
「??」



車のサイドボードに入ってる鍵を取り出して潤さんに渡すと不思議そうな顔をされる。いまさっき自分でしたくせに。


「なんだよ、これ」
「私の部屋の鍵ですよ」
「はぁ?」



今度は心底びっくりした顔でまじまじと私の差し出す鍵を見る。なんでだろう。そんな驚く事じゃないと思うんだけどなぁ。


「…その、……いいのかよ。俺が渡すのとは訳が違ェし、だいたいおまえのとこ行ったことないだろ」
「潤さんならいつきてもいいですよ。散らかってますけどまぁ気にしないでください。あ、なんならいまから来ます?それともなんか予定ありますか?」
「……いや、今日は暇だけど…」
「じゃあ車で後ついて来てください。はい、これ」


車に乗り込みながら鍵を渡すと少し戸惑いながらも受け取ってくれた。

この辺の道は私なんかより地元っ子の潤さんの方がよく知ってるから後ろちゃんとついて来てるかそんなに心配しなくていいから楽。
大学から車を15分くらい走らせると、私の住むマンションに着く。


私の後ろを言葉少なくついてくる潤さんが微妙に緊張してるのがわかる。私がはじめて潤さんの部屋に行った時もなんかこんな感じにぐだぐだ流れで行った気がするけど私にも潤さんにも緊張はなかった。


「じゃあ、潤さんがスペアキーで開けてくださいよ」
「…………………………」



たっぷりためらってから潤さんはそろそろと鍵穴に鍵を差し込んで、解錠する。
だけどいつまで待ってもドアノブに手を伸ばそうとしないからしかたなく私が開けて、先に入って靴を脱ぐ。



「いらっしゃーい。………なにしてるんですか、はやく入ってドア閉めてください」
「あ、あぁ…おじゃま、します…」


ものすごくのろのろと部屋に入って来た潤さんはなんだかあんまり私の部屋を見ないように気をつけてるみたいだ。


「……ビールでも飲みます?」
「いや、それは、さすがにいい」



なんだかこっちが逆に申し訳なくなってやっと腰を落ち着けた潤さんにアルコールを進めれば断られる。



「…おまえさ、こういう事、あんまやんないほうがいいぜ」
「?なにが??」
「っだから、男に部屋の鍵とか簡単に渡すなって。危ねェだろ」
「えー、だって潤さんのだけもらってもフェアじゃないし、なんですか、私に潤さんのこと信用するなって言ってるんですか?まさかの自分がやばい奴って自己申告?」
「いや、そうじゃねぇけど、……まぁあんまり不用心になんなよ」
「はーい。気をつけますー」


適当に返事をすると潤さんは諦めたようにため息をついた。まぁ潤さんの言ってることも最もだと思うけど、私だって誰にでも合鍵をあげてるわけじゃない。寧ろ潤さんだけだ。まだ知り合って期間は短いかもしれないけど他の誰よりも密度の濃い付き合いをしてると思うし、ちゃんと潤さんの事を見てきたつもりだ。そうじゃなきゃ一人で暮らしてる部屋の鍵なんてとてもじゃないけど渡せない。私は潤さんはすごく信頼できる人だと思うし、頼りにもしてる。いい人と友達になれて、嬉しいな。



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